神戸新聞は2月27日の記事「北条鉄道の利便性向上へ 交差施設整備支援 加西市」にて、法華口駅に列車交換設備が設置されると報じた。2018年度は設計を行い、2019年度の着工、完成をめざしている。国鉄時代は赤字路線として廃止されかけ、第三セクター鉄道になってもお荷物扱いだった北条鉄道が、やっと公共交通機関としての価値を認められ、投資されるまでになった。街の未来を担う路線として期待されている。
北条鉄道は兵庫県小野市の粟生駅と、兵庫県加西市の北条町駅を結ぶ。路線延長は13.6km。所要時間は22分。起点の粟生駅はJR西日本の加古川線、神戸電鉄粟生線と接続している。終点の北条町駅は加西市中心部にあり、他の路線とは接していない。こうしたローカル線のうち、営業成績の良くない路線は、国鉄時代に「盲腸線」と呼ばれた。あってもなくてもいい路線、問題があったら切り取ってもいい路線、という意味を含んでいた。
北条鉄道は大正時代に播州鉄道によって建設された。播州鉄道は加古川の本流・支流を使った船の輸送を鉄道に切り替える目的があった。現在のJR加古川線が本線で、その支線が北条線だった。支線は他に高砂線、三木線、鍛冶屋線があった。1943年にこれらの路線は戦時買収政策で国有化された。
しかし高度成長期に自家用車やトラックが普及し、鉄道の利用が減少する。加古川線の本線は廃止対象を逃れたけれど、支線はすべて特定地方交通線として廃止対象となった。存続運動はあったものの、高砂線は1984年、鍛冶屋線は1990年に廃止された。三木線と北条線は第三セクター鉄道の三木鉄道・北条鉄道として存続。しかし三木鉄道は赤字が続き、財政再建のため三木鉄道廃止を公約とした市長が当選し、公約通りに廃止された。
一方、北条鉄道も赤字ではあったものの、加西市にとって唯一の鉄道交通機関だったため存続していた。国鉄の赤字路線を引き継くことを条件に国から支給された転換交付金によって赤字を補填できたという事情もあった。赤字が比較的小さかったため、三木鉄道よりも長く維持できたといえる。
しかし、その交付金も2005年に底をつき、再び存続の危機がやってきた。このときの市長選では、北条鉄道の存続問題は主な争点ではなかった。しかし、筆頭株主の加西市の市長が北条鉄道の社長就任を拒否したため、小野市の市長が取締役を退任するなどの騒動があった。その後、加西市長が北条鉄道の社長となって事態は収拾した。
じつはその当時の市長、中川暢三氏は筆者の大学のゼミの先輩だった。そこで北条市に中川氏を訪ね、真意を聞いたことがある。
中川氏はもともと北条鉄道を存続するつもりだった。北条鉄道の赤字は毎年2,000万円程度。赤字とはいえ許容範囲だった。これは当時の中川市長も「コミュニティバスの維持費と比較しても遜色のない数字、むしろ鉄道で市外と結ぶメリットが大きい」と語っていた。しかし中川氏に鉄道経営の経験はなく、公募社長を迎えるつもりだったという。
その後、社長となった中川氏の下で北条鉄道の改革が進められた。公募駅長による駅と周辺の活性化は画期的な試みとして経済産業省の「新日本様式100選」に選ばれている。「子ザル駅長」「サンタ列車」も当時から始まった。ただし、公募社長は実現しなかった。中川氏が市長選に敗れ、中川色の排除に動いたといわれている。「子ザル駅長」の休職も選挙の影響だった。
長い前置きだったけれども、法華口駅へり列車交換設備の設置は、この当時から懸案事項だった。もともと法華口駅は交換設備があったけれども、国鉄時代に撤去されていた。中川氏は「国鉄から第三セクターになるときに受け取った転換交付金を、法華口駅の交換設備に投資していれば、乗客は増やせたはず」と悔しがっていた。
法華口駅は北条鉄道のほぼ中間地点にある。ここに列車交換設備を設置すれば、列車の運行間隔を半分にできるだろう。列車の待ち時間が約1時間から約30分になれば、乗り遅れても次の列車を待とうという気持ちになるかもしれない。現在、北条鉄道は気動車3両を保有しており、普段は1両、乗客の多い時間帯は2両連結で運行される。法華口駅に列車交換設備が設置された場合、今後の車両増備がなければ、1両で30分間隔の運行になるだろう。地方鉄道としてはかなり高い運行頻度といえる。
列車交換設備を設置して利用者の増加に成功した例としては、茨城県のひたちなか海浜鉄道がある。2010年に金上駅を移設して列車交換設備を設置し、利用者増に結びつけた。ひたちなか海浜鉄道はその他の施策も功を奏し、経常収支で黒字化を達成。現在、路線の延伸計画も進められている。
北条鉄道も列車交換設備の設置と列車増発をきっかけに、利用者増や加西市の定住促進に貢献すると思われる。2016年に開催された「第27回加西市公共交通活性化協議会」において、北条鉄道の成績と乗客増は高く評価されている。この資料では、列車交換設備に1億円、信号プログラムの改修に3,000万円かかるという。しかし近隣の大型ショッピングセンターなどへの買い物客や、フラワーセンター、公共の宿への旅行客獲得が期待できそうだ。この投資が北条鉄道と加西市にとって成功への第一歩になることを期待したい。