「遺言」は、被相続人の最期の意思を表明するもの。亡くなった被相続人のためにも、その意思を尊重することが望ましいとされています。

  • 遺言について正しく理解していますか?

一方で、相続における遺言の効力は非常に大きく、それ故に、有効性をめぐっては訴訟が起きるほど。

そこで、遺言にまつわる正しい知識を身につけるために、弁護士ドットコム執行役員で弁護士の田上嘉一さんに、ポイントを解説していただきました。

遺言書には、法律で決められた形式と書き方のルールがある

親に、元気なうちに自分の意思で遺言を書いてもらえれば、子は、いざというときに親の意思を尊重した対応ができ、相続時に起きやすい財産の分け方をめぐった家族内トラブルを避けることもできるでしょう。

しかし、遺言書には法律で決められたいくつかの形式があり、ルールに従って作成されていないと後で無効になってしまうこともあるのです。

まずは、弁護士の田上嘉一さんに、正しい遺言書の作成の仕方について伺いました。

  • 弁護士ドットコム 執行役員 弁護士 田上嘉一さん

「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」

遺言にはいくつかの形式がありますが、多く使われているのが、「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」です。

「自筆証書遺言」とは、文字通り手書きで作成する遺言書です。遺言をしたい人(遺言者)が全て手書きし、必ず、作成年月日、署名、押印がなければなりません。

手軽に作成できる点がメリットではありますが、偽造のリスクがあることから、有効な遺言書となるためにはさまざまな条件があり、書き方や形式に少しでも間違いがあると、無効になる場合があります。また、原本をなくしてしまうというリスクもあります。

「公正証書遺言」とは、遺言者が、証人2名以上の立ちあいのもとで、公証人(元裁判官・弁護士など法律の専門家)に遺言の内容を口頭で伝え、それを公証人が筆記、作成したものです。

作成された遺言書の原本は、公証役場に保管されます。

公正証書遺言は専門家である公証人がチェックして作成するため、無効になる可能性は自筆証書遺言よりかなり低いといえるでしょう。

ただ、作成に手間や費用がかかるなど、自筆証書ほど手軽につくることはできません。

遺言は変更できる

遺言は、一度書いたら書き直せない……というのは誤認です。自筆証書遺言も公正証書遺言も、内容を変更したい場合には、いつでも、何度でも書き換えることはできます。ただし、注意も必要だそうです。

遺言は、遺言者の「最期の意思」を示したものですから、遺言者が第1遺言の内容を変更したいと考えた場合には、その意思は尊重されます。

第1遺言作成後に、それとは矛盾した内容の新たな第2遺言を作成した場合には、第1遺言の効力は失われて、日付が新しい第2遺言が有効なものとなります。

公正証書遺言で作成した第1遺言を、自筆証書遺言で作成した第2遺言に変更することも可能ですが、自筆証書遺言は発見が困難な場合もありますので、第2遺言も、費用はかかりますが、公正証書遺言によって作成することが望ましいといえます。

また、自筆証書遺言は、書き方に間違いがあると無効になる場合がありますので、その点も注意が必要です。

相続トラブルは遺言書の有無に関係する

「うちは家族円満だから、相続トラブルとは無縁」。たとえ今そういう状態であっても、立場や状況が変わると、人の思いや主張は変わるもの。それは、近年、遺産分割の事件数が増加している事実からも明らかです。

では、相続トラブルは、どんな状況下で起こりがちなのでしょうか。

遺言書があり、誰がどの財産をどのくらい受け取るのかが明確であれば、その後の手続きは比較的スムーズに進みます。

しかし、一部の相続人の取り分が少なくなってしまっていたり、一部の相続人に寄与分・特別受益があったりする場合には、当事者同士の話し合いがもつれる可能性が高くなります。

一方、遺言書がない場合、まずは誰が相続人になるのか、どのような財産があるのか、どのような価値があるのかを調べ上げ、相続人全員で遺産分割をしなければなりません。

親族間といえども、お金が絡むと話し合いはまとまらず、軋轢が生まれてしまうもの。相続トラブルの多くは、この遺産分割協議の際に起こっているともいわれています。

相続を円満に進めるためには、親が元気なうちに家族でよく話し合い、皆が合意した内容を元に、最後に、親に自身の意思で、法的効力のある遺言に記してもらうことがポイントです。

監修者

田上 嘉一(たがみ よしかず)

弁護士、弁護士ドットコム執行役員 早稲田大学法学部卒、ロンドン大学クィーン・メアリー校修士課程修了。大手渉外法律事務所にて企業のM&Aやファイナンスに従事し、ロンドン大学で Law in Computer and Communications の修士号取得。知的財産権や通信法、EU法などを学ぶ。日本最大級の法律相談ポータルサイト「弁護士ドットコム」や企業法務ポータルサイト「BUSINESS LAWYERS」の企画運営に携わる。TOKYO MX「モーニングCROSS」などメディア出演多数