高級クラブが軒を連ね、大阪の大人の社交場として知られる北新地。普段ならネオンが輝き多くの酔客で賑わっているが、新型コロナウイルスの影響により、昨今は少し寂しい雰囲気が漂っている感は否めない。こんな時だから派手に飲みに行くのも気がひける…。そんな諸兄が心の拠り所に立ち寄るのが「ひよこ」だ。

  • 人気のアゴ出汁の鶏唐揚げは、アゴ出汁ベースのタレに漬け込むのがポイント

北新地の西の入口ともいえる「堂島アバンザ」と道を挟んだビルの2階にある「ひよこ」は、このどんよりした社会の中にささやかな癒しを求めてビジネスマンたちが連日連夜やってくる。階段で2階にあがると、満面の笑みで女将のまりさんが出迎えてくれる。この笑顔に一日の疲れも吹き飛ぶのだ。

  • アバンザ堂島のすぐ東側のビルの2階にある

カウンターの上に大皿のおばんざいがズラリ

こじんまりとした店内はカウンターとテーブル席があり、カウンターには大皿に盛られたおばんざいがズラリ。大皿の隣には冷蔵ショーケースがあり、新鮮な魚が並べられている。おばんざいから揚げ物や焼き物、そしてお造りまでメニューは豊富で、すべてまりさんが毎日愛情をたっぷり込めて仕込んでいるのだ。筆者もまりさんの笑顔に頬を赤らめながらまずは生ビール(1杯税別600円)を注文した。

  • 笑顔で出迎えてくれる女将の後藤まりさん

  • グラスもキンキンに冷えた生ビール

冷たいビールをくいっとあおると、お通しに生のクラゲが出てくる。こりこりとした食感と上品な味わいがこの上なく、このあとに食べるおばんざいへの期待が嫌でも膨らむ。おばんざいを品定めすると、きんぴらごぼうに小松菜の辛子和え、さばの味噌煮など、まさにこれぞおばんざい! というラインナップ。おばんざいはすべて税別600円という良心的な価格だ。どれも食べたいと思いながらもおすすめを聞くと「定番はポテサラかな~」とのこと。「やっぱりポテサラははずせないよね~」とヘラヘラと注文。もう1つくらい頼みたい。するとまりさんが「大豆のトマト煮は、今日初めて作ったんです! 」と一言。「はい、あなたの初めては私がいただきます」とばかりに注文。目の前のショーケースに、にやけた筆者の顔が写り込んでいたのはいうまでもない。

  • 大皿に盛られたさばの味噌煮

大皿から盛り付け、温めたりトッピングしたりと少し手を加えて、おばんざい2品が登場した。まずはポテサラから。小さくカットしたポテトをつぶしきらずに、食感が残るように作られている。卵もたっぷり入っていて、まろやかな味わい。否が応でもビールが進む。そして大豆のトマト煮を一口。程よい酸味のトマトソースの味が優しく、大豆や鶏肉、人参など具だくさんだ。

  • ポテトサラダと大豆のトマト煮

モデルから転身、開業のために調理学校に通う

ふと目の前を見ると、まりさんがほかのお客さんが注文した刺身を作っている。包丁さばきも見事だ。作業の邪魔にならないように少し話を聞くと、まりさんはもともとモデルだったそうだが、店を開きたいという思いから料理の専門学校に通いはじめる。学校で調理の基本を学びながら、夜は割烹や洋食、おばんざいの店などで料理の腕を磨き、2013年に念願のお店を開いたそうだ。ちなみにフグの調理免許も所有しているそうで、包丁さばきにも納得させられた。

そんな話をしていると、「うちは唐揚げが人気なので、食べて行ってください」とのこと。もちろん断りません。唐揚げは1個税別200円。アゴだしをベースにしたタレに漬け込んで揚げているそうで、ジューシーな肉汁とともにダシの風味がふわりと鼻を抜ける。こんな唐揚げが出てきたら、永遠とビールが欲しくなりそうだ。

  • 出汁の香りが抜群のアゴ出汁の鶏唐揚げ

筆者は少食のためこのあたりで退散したが、締めの牛すじカレー(1人前税別800円)も人気だそう。お客さんの要望からレトルト(1人前税別600円)も販売を開始。家で奥さんや子供が食べることを考えて、中辛にしているという気遣いにも涙が出そうだ。お店は一人でもふらりと立ち寄れる雰囲気なので、出張でどこに行こうか迷ったら、まずは「ひよこ」で腹ごなしがおすすめだ。

  • レトルトのカレー。パッケージはまりさんの顔

●Information
「お食事処 ひよこ」
大阪府大阪市北区堂島1-3-20
18~23時(LO 22時30分)
土日祝休