マスクだけじゃインフルエンザは防げない!?

例年、約1千万人がインフルエンザにかかり、約1万人がインフルエンザに関連して死亡すると推計されています。12月中旬から3月末、インフルエンザが流行する時期は特に注意が必要です。

発熱、咳やのどの痛み、くしゃみや鼻みず・鼻づまり……。できることなら抗菌薬を飲んで、つらい症状を避けたいですね。しかし残念ながら、インフルエンザをはじめ、かぜ症候群(以下、かぜ)の多くは抗菌薬が適応となりません。

なぜなら、かぜの80~90%はウイルス感染が原因といわれていますが、抗菌薬はかぜのウイルスに効かないからです(※1)。かぜの中で最も重症になりやすいのが、インフルエンザです。その予防法について、順に説明していきましょう!

マスクだけじゃ防げない理由

まず皆さん、インフルエンザの予防法として「マスク」を思い浮かべるはずです。確かに、マスクを鼻と下顎(かがく)にフィットさせれば、ウイルスを含んだ咳やくしゃみのしぶきを防ぐことができます。ウイルスのついた手で鼻と口に触れたり、鼻や口が乾燥したりするのを防ぐことも可能です。

しかし、外出中にマスクだけでウイルスを防ぐことはできません(※2)。インフルエンザウイルスは、100ナノメートルという目に見えない大きさです。咳やくしゃみのしぶきの中だけでなく、換気が不十分な空間では、ウイルスは空気中を漂っていたり、手すりやドアノブ、つり革に付着したものが半日生き続けていたりするため、感染の危険性はいたるところにあります(※3)。もちろん、かぜの症状がある方は、咳エチケット(※4)としてマスクをした方がいいですね。

厚生労働省が推奨する予防法の盲点

厚生労働省が勧める「インフルエンザを予防する有効な6つの方法」(※4)も見てみましょう。

  1. 流行前のワクチン接種

  2. 飛沫感染対策としての咳エチケット

  3. 外出後の手洗い等

  4. 適度な湿度の保持

  5. 十分な休養とバランスのとれた栄養摂取

  6. 人混みや繁華街への外出を控える

ビックリしませんか? "外出中に"インフルエンザを予防する有効な方法がないからです。外出中に「湿度を50~60%に保ちましょう」と言われても難しいですし、特に忙しいビジネスパーソンは、休養や栄養をとったり、人混みや繁華街への外出を控えたりするのは難しいですよね。

人混みの中ではガムをかもう!

では、どうしたらいいのでしょう。6つの予防法に共通していた点は、大きく2つです。

  1. ウイルスが口から入るのを防ぐ(2・3・4・6)

  2. 身体の防御機能を上げる(1・4・5)

例えば「3. 外出後の手洗い等」は、手についたウイルスが食事のときに口から入るのを防ぎます。「4. 適度な湿度の保持」は、空気が乾燥して、ウイルスが空気中を飛んでいったり、口やのどの粘膜の防御力が低下したりするのを防ぎます。

この2つの共通項から、外出中に人混みの中でかぜを予防するには、ウイルスが口から入るのを防ぎつつ、口やのどの粘膜の防御力を上げればいいと考えました。そこで、口の専門家として私がお勧めするかぜ予防法は「ガムをかむこと」です。

なぜ、「ガムをかむ」といいのか

「ガムをかむ」メリットは、大きく2つあります。

メリット1. 口呼吸から鼻呼吸になる

口は呼吸に適した場所ではありません。口は食事をする場所で、鼻が呼吸をする場所だからです。ヒトは口でも呼吸できますが、他の動物は口では呼吸できません。ヒトは進化の過程で口呼吸ができるようになりましたが、口呼吸をすると、冷たい乾燥した空気で粘膜にダメージを受けてしまいます。

口を開けて寝ると、口がカラカラしたり、のどがイガイガしたりしないでしょうか。その点、鼻呼吸は違います。鼻の中には毛があって、異物を外に出す力が働いています。また、口呼吸をすると歯肉もはれてしまうので、鼻呼吸をお勧めします。

メリット2. だ液がたくさん出る

『標準生理学』(※5)によると、だ液には11の機能があります。その中で、かぜの予防や悪化の防止に役立ちそうな4つの機能を抜粋し紹介します。

・リゾチーム(※6)には溶菌作用がある。

・唾液にはIgA(※7)が含まれており,この"secretory IgA"が,細菌やウイルスに対して免疫学的活性を有する。

・唾液内のラクトフェリンは抗菌作用を有する。

・唾液の毒性あるいは刺激性物質を希釈するので,口腔粘膜の損傷を防御する。

~『標準生理学』より一部抜粋~

これらを簡単に説明すると、だ液には「抗菌作用」があり、細菌やウイルスから身体を守ります。特にIgAは、粘膜を守る免疫の主役で、粘膜から感染するインフルエンザウイルスにも有効です。だ液はインフルエンザウイルスを阻害するという研究もあります(※8)

また、だ液には「粘膜保護作用」もあります。空気が乾燥すると、口やのどの粘膜にダメージを受けやすくなります。インフルエンザウイルスは、のどと肺の間の上気道粘膜にくっつき、身体の中に入っていきます。粘膜が荒れていると、細菌に負けてかぜが悪化することもあります。

これら2つの作用によって、だ液は口やのどの粘膜の防御力を上げてくれるので、インフルエンザの予防にもなると私は考えます。

入れ歯の方・妊婦さん・お子さんはご注意を

注意してほしいのは、入れ歯のある方です。入れ歯の方がガムをかむと、入れ歯にくっついて大変なことが多いようなので気をつけましょう。入れ歯にくっつきにくいガムも市販されています。

また、妊婦さん、乳幼児の小さなお子さん、65歳以上の方、抵抗力が落ちている方は、インフルエンザが重症になる危険性があるので要注意です。症状のある際は、速やかに適切な医療機関を受診してください。

最後に

目に見えないウイルスの体内への侵入を完全に防ぐことは難しく、普段の習慣や意識づけが大切です。バランスのよい食事と十分な睡眠を意識したうえで、外出中はマスクだけで予防するのではなく、ガムをかんでみてくださいね。

また、忙しいビジネスパーソンは、ときには抵抗力が落ち、かぜをひいてしまうこともあるでしょう。どうしても休むことができないプレゼンや会議の前など、咳やのどの痛みを和らげたいときにも、ガムをかんでみてください。症状の緩和が期待できます。くれぐれも、仕事中にガムをかんで注意されないようにしてくださいね!

※画像は本文と関係ありません


注釈

※1 抗菌薬はウイルスには効きませんが、細菌には効きます。65歳以上の方や抵抗力が落ちている方の二次感染予防に抗菌薬は使われることがあります。

※2 『マスク着用にインフルエンザ予防のエビデンスはあるか?-EBMによる検討-』(瀧澤毅 / 千葉科学大学紀要. 2010; 3:149-160.)より

※3 『もっとねころんで読めるCDCガイドライン―やさしい感染対策入門書2』(矢野邦夫 / メディカ出版)より

※4 「インフルエンザQ&A」(厚生労働省、国立感染症研究所感染症疫学センター、日本医師会感染症危機管理対策室が共同で作成)より

※5 『標準生理学 第6版』(医学書院 / 唾液の生理機能 P687)より

※6 リゾチームは細菌の細胞壁を破壊する酵素で、涙、鼻汁、母乳にも含まれます。1922年にペニシリンを発見し、ノーベル賞を受賞したフレミング氏が発見しました。

※7 免疫グロブリンは抗体として働くたんぱく質で、IgAは粘膜免疫の主体で、母乳にも含まれます。細菌やウイルスから新生児を守っています。

※8 White MR, Helmerhorst EJ, Ligtenberg A, Karpel M, Tecle T, Siqueira WL, Oppenheim FG, Hartshorn KL. Multiple components contribute to ability of saliva to inhibit influenza viruses. Oral Microbiol Immunol. 2009;24(1):18-24. より


著者: 古舘健(フルダテ・ケン)

健「口」長生き習慣の研究家。口腔外科医(歯科医師)。
1985年青森県十和田市出身。北海道大学卒業後、日本一短命の青森県に戻り、弘前大学医学部附属病院、脳卒中センター、腎研究所など地域医療に従事。バルセロナ・メルボルン・香港など国際学会でも研究成果を発表。口と身体を健康に保つ方法を体系化、啓蒙に尽力している。「マイナビニュース」の悩みを解決する「最強ドクター」コラムニスト。つがる総合病院歯科口腔外科医長。医学博士。趣味は読書(Amazon100万位中のトップ500レビュアー)と筋トレ(とくに大腿四頭筋)。KEN's blogはこちら。