東京2020オリンピック競技大会では、史上最多となる33競技339種目の開催が予定されている。本連載では、イラストを交えながら各競技の見どころとルールをご紹介。今回は「野球・ソフトボール」にフォーカスする。

「野球」 - 選ばれし6チームで金メダルを争う

9名ずつの2チームが対戦し、3つのアウトを取ることによって攻撃側と守備側をチェンジしながら得点を重ねて勝敗を競う競技。攻守の交代を9回繰り返した時点(9イニング)で、より多く得点しているチームが勝者となる。同点の場合は延長戦が行われ、北京2008大会では延長11回からのタイブレーク(※1)が導入された。

両チームはスターティングメンバーとして、9名の選手の攻撃時の打順と、守備時のポジション(守備位置)をあらかじめ決定しておく。守備時にグラウンドに立つのは、ピッチャー(投手)・キャッチャー(捕手)のバッテリー、内野手のファースト(一塁手)・セカンド(二塁手)・サード(三塁手)・ショート(遊撃手)、外野手のレフト(左翼手)・センター(中堅手)・ライト(右翼手)である。

オリンピックにおいては、ロサンゼルス1984大会とソウル1988大会で公開競技(※2)として実施され、バルセロナ1992大会から正式競技に採用された。以降、北京2008大会まで5大会連続で実施。

数々の熱戦が繰り広げられてきたが、ロンドン2012大会およびリオデジャネイロ2016大会では、世界的普及度が低い、女性の同一競技がないなどの理由で正式種目から除外された。東京2020大会においては、開催都市提案による追加種目として実施されることが決定し、オリンピックへの復帰を果たすこととなった。

多くの複雑なルールに加え、様々な戦略・戦術が存在するが、まず試合を作るのはピッチャーとバッター(打者)の対決だ。トップレベルのピッチャーは、時として時速160kmをも記録する剛速球に、スライダーやフォークボールなどの変化球を織りまぜ、さらに緩急を付けた配球とコントロールでバッターを翻弄する。常にバッターに対してボールを投げ続けるピッチャーは、他の野手と比べて体力の消耗が激しいため、疲労度や戦略によって比較的頻繁に交代する。

一方バッターは、優れた動体視力でピッチャーが投げる球種を見極めてヒットを打ち、1人でも多く出塁し、ホームに生還することによって多くの得点を獲得しようとする。また、鋭いスイングで飛距離100mを超すホームランや、塁上のランナーを本塁に生還(得点)させるタイムリーヒットを放つことで得点を増やしていく。

バッターの強烈な打球をアウトに仕留める野手の華麗なスーパープレーも見どころだ。外野に飛んだ大きな当たりをダイビングキャッチしたり、外野から速球を投げてバックホームするランナーをアウトにしたりするなど、トップアスリートたちによる俊足や強肩などを活かしたハイレベルな熱いプレーを堪能したい。

「ソフトボール」 - 3大会ぶりにオリンピック競技に復活

野球から派生した球技であるソフトボールは、ゲームの進め方などの基本的なルールは野球とほぼ同じだが、グラウンドのサイズや使用球などが大きく異なっている。円周12インチ(30.16~30.80cm)のボールを細くて短い3号バットで打つため、打球があまり遠くまで飛ばないのも特徴だ。そのため野球に比べてコンパクトな競技場で行うことができ、運動範囲も狭いので、世代や性別を問わずに楽しまれているスポーツである。

ソフトボールは野球と同様に、各9名(指名選手を活用する場合は10名)の2チームが攻撃と守備を交互に行う。攻撃側がボールを打って進塁し、ホームベース(本塁)に帰るごとに1点が入り、7回終了時点で得点の多いチームが勝利する。同点の場合は延長戦に突入するが、勝敗を早く決するための得点促進ルールとして、8回以降はノーアウトで二塁にランナー(前回の最後に打撃を完了した選手)を置くタイブレーカー(旧称タイブレーク)が採用される。

オリンピックでの歴史は新しく、女子のみがアトランタ1996大会から正式種目として採用され、北京2008大会まで実施された。

アメリカや日本など一部の国では盛んだが世界的な普及度が高くないなどの理由によって、ロンドン2012大会・リオデジャネイロ2016大会ではオリンピックの正式種目から除外された。東京2020大会では女子のソフトボールが男子の野球と共に追加種目として実施される。

投手・捕手間の距離は13.11m(野球は18.44m)、各塁間は18.29m(野球は27.43m)、本塁から外野フェンスまで67.06m(野球は76.199m以上)と、フィールドのサイズはコンパクト。だがそのため、プレーがスピーディーになり、スリリングな展開がソフトボールの魅力だ。

例えば、敬遠することを宣言し、一球も投げることなく打者を一塁へ歩かせることができる「故意四球」など、ソフトボール独特のルールも多々あるが、最も目を引くのは、下手投げに限られるピッチャーの投法だろう。下から投げるという意味では共通している野球のアンダースローと異なり、手首は必ず体側線を通過させながら、球を離さなければならない。腕を大きく回転させてから投球する、ソフトボールにおいて最もポピュラーな投げ方であるこのウインドミル投法は、遠心力を利用することでスピードを得ている。

トップレベルの女子選手の球速は時速100kmを超えるが、投手・捕手間の距離が野球に比べて近いため、体感速度は野球の時速150km程度に匹敵するとされる。下から浮き上がるライズボールや、落ちるドロップボールなどの球種をどのように組み合わせてバッターに対抗するか、投打の駆け引きが大きな見どころとなる。

(※1)タイブレーク
通常は無死、走者なしの状態から新しいイニングが開始されるが、タイブレークでは無死、走者一・二塁からプレーを開始する。得点しやすくすることによって、延長が長引くことを防ぐ狙いがある。

(※2)公開競技
オリンピックにおいて試験的に実施する競技。金銀銅メダルは授与されるが、各国・地域の公式な獲得メダル数には含まれない。メダルはサイズが異なるなど、正式競技のものと区別される。

イラスト:けん

出典:公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会