前回は2023年の資金調達環境について創業時のファイナンスをテーマに説明いたしました。今回は私募社債の最新状況について情報提供いたします。私募社債はSiiibo証券株式会社(以下、Siiibo証券)が提供しているデット性の金融商品です。間接金融である金融機関からの融資とは異なり、直接金融の形態で投資家から企業へ資金が供給されます。Siiibo証券の広報担当者にお話を伺いました。

私募社債のサービスを開始してから約3年が経過し、制度面と運用面の双方で環境の変化が起きています。制度面では特定投資家向け銘柄制度(J-Ships/JSDA Shares and Investment trusts for Professionals)が始まったことにより、プロの投資家である特定投資家に対して証券会社が非上場企業の新株予約権付社債の勧誘をすることが可能になりました。制度改正を受けて、Siiibo証券は2023年8月にアーリーステージ以降のスタートアップ向けに転換社債でのベンチャーデット調達支援サービスを開始しております。

サービス面では、2023年12月に社債のセカンダリーマーケットを開始しました。現在進行している政策金利の上昇局面では債券価格が下がるので、売り手の意欲が高まらないことが想像されますが、Siiibo証券によれば、私募社債には6ヶ月ごとの繰上償還請求権がついているため価格が下がりにくく、市場の動向に関わらず投資家個人ごとの現金化ニーズに基づいて売却が行われているため、取引高は順調に積み上がっているとのことです。

さらに、償還を終えた事例が出始めており、事業成長のペースに合わせて償還前に追加調達をするリピーターも増えています。企業の財務担当者の間で私募社債が着実に浸透してきていますが、申込時の注意点は利用できない業種があることと、間接金融と比較してリスケジュール(返済条件の変更)が難しいことです。

利用できない業種は具体的には貸金業で、特定金融会社等の登録がされていない貸金業者の場合は社債を発行することができません。特定金融会社等の登録要件には、資本金又は出資の額が10億円など、一定のハードルがあります。詳しくは「金融業者の貸付業務のための社債の発行等に関する法律」(通称「ノンバンク社債法」)第六条第一項第二号「金融業者の貸付業務のための社債の発行等に関する法律施行令」第四条をご参照ください。

また、社債権者にとって重大な利害を有する事項が生じたときは社債権者集会を開催する必要があるため、返済額を当面の間減額したり、返済期限を延長するためにステークホルダー間で合意形成を図る際の難易度が上がります。

2024年9月時点で約100銘柄の発行残高があり、償還日までの期間を3年と設定するケースが最も多く、期間4年の事例もあります。報道(2024年8月23日14:00配信のニッキンオンラインの記事『ベンチャーデットのSDF、融資実行 36億円超 運用額増やし需要に対応』、有料会員のみ)によれば、ベンチャーデットは融資期間1年でロールオーバーする例や元本据え置きが多いと言われているので、私募社債はより長期の資金ニーズに対応しています。

私募社債の発行者の視点でRBFやベンチャーデットと最も異なる点は、同時に複数銘柄を発行できることです。償還日が半年毎に異なる(例えばそれぞれ2.5年・3年・3.5年に設定する)銘柄を準備することで、支払利息の最適化を図るとともに投資家の多様なニーズに応えることが可能になっています。「社債間限定同順位特約」が付加されている銘柄が大半を占める理由も、同時に複数銘柄を発行しているからと言ってよいでしょう。

加えて、従来の銀行引受私募債との相違点として「分割制限」があります。Siiibo証券で取り扱う私募社債は「少人数私募」の枠組みに拠って投資家を募ります。少人数私募の要件として「取得勧誘の対象人数が50名未満(最大49名)」であることが求められます。私募社債の発行時に投資家が49名以下だったとしても、発行後の譲渡によって50人目が出現すると人数制限の潜脱行為になり得ることから、分割制限条項を設けて潜脱を防ぎます。具体的には「私募社債の総額を1口(最低購入額)の金額で割った口数が50口未満(最大49口)であり、かつそれ未満に分割できない」旨を定めています。

私募社債の契約条件について知りたい財務担当者は多いと思います。プレスリリースや報道機関のニュース等で私募社債を発行した企業の情報に接した場合、契約条件の概要について調べることができます。

株式会社証券保管振替機構のWebサイトへアクセスし、取扱銘柄情報→一般債振替制度→銘柄公示情報(一般債振替制度)の順に辿ると、銘柄公示情報検索の画面が表示されます。「銘柄名称(一部でも検索可能)」の欄に調べたい企業の名称を入力して検索すれば、払込日から発行残高が0となる日までの期間限定となりますが、払込日・償還日・社債の総額・各社債の金額・利率といった私募社債の概要が掲載されています。

話は脱線しますが、信用調査をする際に調査対象企業の貸借対照表に「社債」の勘定科目が存在する場合、当該社債が一般債振替制度の取扱対象(詳細は『一般債振替制度よくあるご質問<発行・支払代理人編>』をご参照ください)であれば、上記手順で情報を得られます。

私募社債を発行したガレージバンク株式会社代表取締役の山本義仁氏は、メリットとして「資金調達の手段が限定的なスタートアップにおいて、その選択肢が広がること」ことを挙げ、「個人の投資家の方に、自社の事業を知ってもらえることも魅力」とコメントしています。

私募社債の最新状況に関する解説は以上です。次回はベンチャーデットファンドについて取り上げます。

→前回連載「東大発ベンチャー現役CFOが教えるデットファイナンス入門」はこちら