コロナ禍の前から「オンライン飲み会」!?
今から5年前の2016年。私は企業誘致のための経営者セミナーに招待され、ある地方の風光明媚な海を見下ろす会場に出向いた。セミナーが始まると、最初の講演者のIT企業経営者は出張先のアメリカからオンラインでプレゼンテーションを実施。現在は私自身もオンラインでの講演をよく依頼されるものの、当時は仰天したものだ。
続いての衝撃は、同社の全社員がリモートワーク可能な環境にあり、全国津々浦々の自宅やワークプレイスで仕事をしているとのこと。全国どこでも働けることから、居住地を問わず優秀なエンジニアが採用できると話された。
さらに驚いたのが、全国のエンジニアがその日の仕事を終えた後、それぞれ自宅でビールやつまみを用意し、「オンライン飲み会」を開くという。コロナ禍以降、リモートワークが急速に普及したこの1年、珍しくない光景になったが、当時は想像を超えていた。内心「そこまでして飲み会をしなくても……」と感じたのを覚えている。
しかし、政府や行政の機能不全からワクチンの普及もおぼつかないコロナ禍が長引くなか、在宅勤務が続くことによる社員の孤立化、メンタル不調も問題視されるようになってきている。今思えば、リモートワーク先進企業は、コロナショックがあろうがなかろうが、リモート環境下でのチームビルディングの大切さを、深く理解していたのだ。
ネット・ファシリテーションでメンバーのタコツボ化を防ぐ
チャットやテレビ会議システムが進化したとはいえ、リモートワーク下では互いの仕事の進捗や経過が共有されにくく、仕事がタコツボ化しがちだ。任せた仕事の当事者は部下自身とはいえ、チームワークを低下させては会社としての成果は上がらない。そこで、上司には遠隔でチームの仲間意識を高め、情報交換や報告・連絡・相談を促すネット・ファシリテーションの力が求められる。
上司は、オンラインでの会議では参加者全員に発言を促し、参加意識を高めて話し合いの活性化に気を配るべきだ。上司が発信したメッセージを部下一人ひとりがどう受け止めたかを質問し、さらに部下同士の意見交換に導くことも大切だ。また、一人で悩んでいそうな部下がいたり、チーム内や部署間で連携すべき課題が見えたなら、関係を取り結ぶなど、積極的に介入することも求められる。
部下たちに持ち回りで会議の司会役を任せるのも効果的だろう。上司だけが仕切るより、互いに発言や質問がしやすい雰囲気になり、司会役の当事者意識も高まるからだ。
このように、上司にはリモートワークのなかで部下の自律性を高めつつ、仕事のタコツボ化を防ぎ、「仲間と共に善い目的実現に向けて働いているのだ」という組織エンゲージメントを高めるマネジメント力が必須になる。
インフォーマルコミュニケーションの活性化を促す
また、リモート環境でのやりとりは、どうしても必要最小限の業務のやりとりのみになりがちだ。リアルのオフィスなら、仕事の合間や休憩中に雑談を交わし、公私に渡る相談も気楽にしやすい。しかし、リモート環境ではその機会が持ちにくく、次第に疎遠になり、仲間意識が薄れ、各自が孤立感を深めるリスクがある。歓送迎会や期初や期末の納会などの飲みニケーションもできないからなおさらだ。
そこで留意したいのが、チームでのインフォーマルコミュニケーションの活性化だ。チーム・チャットでの気楽な連絡・相談の場づくりや、社内SNS上にテーマ別会議室や社内サークルを開けるなどの仕組みづくりもよい。また、冒頭で触れた「オンライン飲み会」や「オンラインランチ会」も一考だ。企業によっては一定の補助を出す例もみられる。社員の環境や意向を確かめながら、トライするのもよいだろう。
定期的なインフォーマルコミュニケーションの取り入れ方
職場のインフォーマルコミュニケーションなら、飲み会やランチ会かと考えがちだが、仕事時間の中にうまく組み込む方法もある。私の会社での実際例を紹介しよう。
「チェックイン」
ホテルや空港の窓口で行うチェックインに因んだ名称。会議や研修の開始時に、参加者同士がリラックスして話せる関係へと導く方法だ。具体的には、ミーティング冒頭の本題に入る前に、次のようなテーマで各メンバーに全員への自己紹介を促す。
【チェックインのテーマ例】
- 「この週末の出来事は?」
- 「最近、気になったり、印象に残ったことは?」
- 「ニュースや報道で、共感したり、考えさせられたことは?」
- 「マイブーム(最近、はまっていることや趣味など)」
- 「最近、人に感謝したり、幸せを感じたエピソード」など
私の会社では、以前はこの「チェックイン」を年末年始やお盆休みなど長期休暇明けのタイミングで行っていた。リモートワークが常態化しコミュニケーションが希薄になりがちな今は、毎週月曜のスケジュール確認のためのオンライン・ミーティングの冒頭で行っている。
部下一人ひとりの個性や人柄が現れ、趣味・趣向などから意外な側面が発見でき、相互理解に役立っている。また、共通の関心事がみつかれば、その後の親睦にもつながる。
実際に、普段生真面目なメンバーが大好きなアイドルグループのコンサートの様子を熱弁し、微笑ましい素顔を垣間見られた例。また、仲間のペットの自慢話と動画に触発され、ペットを飼い始める者も現われ、その後共通の話題で話が盛り上がっている例など、お互いに楽しみな時間になっている。
「みんなの読書」(通称「みん読」)
各自が、最近読んだ本を皆に紹介するコーナー。定例オンライン・ミーティングの一番最後に行っている。本のジャンルは何でもよく、仕事関係のビジネス書・学術書から、趣味の本、小説、雑誌、漫画でもOKだ。これにも一人ひとりの個性が出ることと、互いに考え方や感じ方を知ることができる、とてもよい機会になっている。また、自分では普段関心が向かない多彩な分野の知識や情報が得られる点でも、とても有意義だ。
実は、読んだ本の概要や感想を他者にわかりやすく簡潔に話すのは、意外と難しいもの。その本には何が書かれており、ポイントは何か。どこに納得し、どこに違和感を覚えたか。それはなぜか。これらを要領よく語るには、自分の頭の整理が必要であり、批判的思考とプレゼンテーションの訓練にもなる。こうした、自己啓発促進にもなるのだ。
しかし、あまり難しく考えてしまうと窮屈なので、取り上げた本の良し悪しや、発表の出来栄えを評価するのではなく、お互いが楽しめる雰囲気が大事。「この小説の、ここがサイコーに良かった!」「自分も読んでみたい!」と、盛り上がることが第一。あくまで「仲間化」が第一義であるからだ。