決まった住所を持たず、日本中を旅しながら生活しているカメラマンの南谷有美(なんや・ゆみ)さん。訪れた地域では人々とどのように交流し、どんな仕事をしてきたのか。それぞれの地域の魅力についても綴っていただきます。


尾道でのワーケーション中に、前回の記事でも登場した地域コンシェルジュの後藤峻さんに「誰か面白い人知りませんか?」と尋ねたところ、オーガニック日本茶の専門店「TEA FACTORY GEN」の高橋玄機さんをご紹介頂きました。

会社員としてお茶に携わる仕事をした後、自分の理想とするお茶作りや販売スタイルを実現するため、2016年に独立。柔らかな雰囲気の中に宿る、芯の強さが印象的な高橋さんのお仕事内容や生き方についてお聞きしました。

  • TEA STAND GEN 尾道本店

畑作りから製造・販売まで

お茶について知れば知るほど、「こういうお茶が作りたい」という思いが芽生えていったという高橋さん。独立に至るまで、各地で修業を積んできたといいます。

  • 画像提供:TEA STAND GEN

独立して最初に着手したのは、畑作り。まずは土地を探すところから始まり、理想とする茶畑を頭の中に描きながら来る日も来る日も車を走らせました。

そんな高橋さんが最終的に目をつけたのは、広島県世羅町。県有数のお茶の産地として知られるこの土地に、茶畑を作ることを決めました。その理由を尋ねたところ、何と「直感」という答えが! 明るく、開放感があり、その地の人もよかったことが決め手となったとか。

  • 画像提供:TEA STAND GEN

1年目には畑の手入れと開墾、2年目には僅かばかりのお茶が作れるようになり、3年目には自社工場でお茶作りをするという、何とも驚異的なスピード感。

そして創業から2年目には、尾道で「TEA STAND GEN」をオープン。自ら作ったお茶などを販売したり、カフェで提供したりする拠点として運営されています。

こだわりの自然栽培

高橋さんが扱っているのは、農薬・化学肥料を一切使わない、自然栽培で育てた茶葉。昨今、さまざまな分野で推奨されている自然栽培ですが、お茶の世界での浸透率はまだまだ低いのだそうです。

その理由の1つは、収穫量が少なくなってしまうこと。農薬を使わないため、草刈りがとにかく大変。鎌を使い、丁寧に刈っていく必要があります。また、労働力と収穫量が比例しないため、諦めてしまう方が多いのだとか。

そんな状況の中でも、「本当に身体に良いものを作りたい」という想いを胸に日々を過ごされている高橋さん。その想いこそが、TEA FACTORY GENのこだわりだと感じました。

  • TEA FACTORY GENの商品

そして、自然栽培のお茶の魅力は「お茶本来の味と香り」が楽しめること。

中でも「TEA FACTORY GEN」が栽培し、製造した煎茶の定番「ひろしま在来煎茶」は、樹齢60年の古木から摘まれた貴重なお茶。力強い味と香りが特徴で、五煎まで味わえるといいます。

  • ひろしま在来和紅茶を頂きました

他にも良質な一番茶の茎にお茶の花の香りづけをした「茶花茶」や、ダージリン紅茶と日本茶を兼ね備えた「ひろしま在来和紅茶」など、農薬・化学肥料を一切使っていないお茶を取り扱っています。

  • TEA FACTORY GEN代表の高橋玄機さん

私が気になったのは、「SETOUCHI CRAFT TEA」というかわいらしいパッケージが目をひく商品。高橋さんによると、小規模の農家さんが作っている茶葉を買い取り、自社工場で加工して商品化した、「CRAFT TEA」と言われるものだそうです。

クラフトビールは聞いたことがありますが、クラフトTEAという言葉は初めて耳にしました。自社だけではなく、地域をあげて取り組んでいることがわかります。お茶の世界の新しい可能性を感じました。

お茶の世界に新風を

最後に、高橋さんに今後のビジョンについてお伺いすると、「お茶の間口を広めていきたい」とおっしゃっていました。現在、商品開発や販売の他にプロデュース業もされています。

  • 高橋玄機さんが監修する瀬戸内茶房「おちや」/画像提供:ENGAWA

一般的に商品開発や販売の手法を開示していないところが多い業界の中で、全てをさらけ出して取り組まれている姿勢に好感を持ちました。「過去をリスペクトしながら、お茶の可能性を切り開いていきたい」とおっしゃっていた高橋さん。今後のご活躍も楽しみにしています。

※高橋の「高」はハシゴダカ

南谷有美(なんや・ゆみ)

カメラマン/ライター
2018年4月に認可外保育園の園長を退いてから、各地を巡る旅人に。リモートで仕事をしながら、好きな場所で好きなことをして生活しています。