連載「ワーママのモヤモヤ整理します」は、託児付きランチサービス「ここるく」の経営者で、育休復帰・働き方改革のコンサルティングも手掛ける山下真実さんが、ワーママが抱えるモヤモヤを整理・解消に導いていく企画です。

7回目となるモヤモヤ整理は、3人目育休中のあつこさんが主人公。産休に入る前に管理職に上がるチャンスがありましたが、あることが理由で昇進できなかったことにモヤモヤしているといいます。

  • "時短・リモート勤務だから"昇進できない※画像はイメージ

【今回の相談者】

あつこさん(40歳) 国内メーカーで企画業務を担当している。現在3人目育休中。子育て中の社員に理解のある職場で、仕事上のパフォーマンスも評価されているものの、"ある理由"で昇進できないことにモヤモヤを抱えている。

「三遊間ゴロの仕事が拾えていない」から管理職になれない

あつこさん: 「産休に入る1年前、管理職に上がるチャンスがあったのですが、結果として昇進できませんでした。自分としてはこれまでで最高のパフォーマンスを出したと思うし、上司も認めてくれていたのに……。なぜ昇進できなかったのか理由を聞くと、上司は『仕事はできているが、三遊間ゴロの仕事が拾えていないから』と言うんです


山下さん: 「"三遊間ゴロの仕事"って、具体的にはどんなことですか?」


あつこさん: 「突然降ってきた業務をなんなくこなすとか、自分の守備範囲外の仕事も積極的に取りに行く姿勢を指すようです。私は子育て中ということもあってリモートワークを利用しているのですが、このような"緊急事態が起きたときに対処すること"って会社にいないと難しいですし、子どもの病気で早退したり、時短勤務で16時に退社したりしている身としてはなかなか厳しいなと感じています

「20代の頃は新聞社への出向や広報関連の長期研修受講など、挑戦する機会をたくさんいただけました。でも30代になってから、子育てでなかなかそういったチャンスが得られなくなってしまいました。今後、管理職にもチャレンジできないのかと、モヤモヤしてしまって……」

結局『奥さんが専業主婦・男性正社員・24時間365日働ける人』から外れると、配慮はするけど評価はしてもらえなくなるのかと、絶望的な気持ちになります


山下さん: 「なるほど。まず、そもそもなんですけど、三遊間ゴロの仕事が昇進する上での評価軸になることに対して、あつこさんは納得しているのかしら?」


あつこさん: 「正直、それはそうだよなと思ってはいます。社内のプロジェクトでリーダーを経験することがあって、実際にメンバーが『三遊間ゴロを拾ってくれると助かるな』と思うことはあったので……」


山下さん: 「自分でも理解できる部分があるから、モヤモヤするのかもしれませんね。ただ現状、求められる役割を遂行するのが難しいのだとしたら、『三遊間ゴロは拾えない』と上司に認識してもらった上で、『ここのポジションなら任せてくれ』というポイントを伝える必要があると思います。もしかしたら上司は、あつこさんの現状を理解できないまま、チームの中での役割として、『三遊間ゴロを拾ってほしい』と期待していたのかもしれませんよ」

「昭和型の働き方をしてきた上司であればなおのこと、あつこさんに必要な働き方や評価の仕方を、同じ温度感で理解したり、考えたりすることは難しいのではないかと私は思います。だからこそ、あつこさんが『今必要な働き方・評価方法はこうなんです』というのを伝えていかないと、考え方のギャップはなかなか埋まらないのかなと思いました


「昇進できない」以上に根本的な問題は……?

あつこさん: 「実は私も、上司が私の使い方に困っているのではないかと感じているんです。今の部署では20代に培った経験もあまり生かせていないし、だからと言って働き方に制限があるので、部署・役職ともに動かしようがないと思っているのではないかなと……。弊社の場合、新聞社へ出向したり、広報関連の長期研修を受けてきたりした先輩たちはみなさん、残業や出張の多い広報部や調査部などで活躍しています。私もそこでの活躍を期待されていたのだと思いますが、子育てが忙しい今、難しいのが現状です

「一方で営業の現場や事務職となると全く経験がなくて……会社の中で自分の経験を生かしていくところが少ないなと感じています。上司に『どんなところで活躍できますかね?』と聞いてみても、クリアな答えが返ってこないんですよね」


山下さん: 「そもそも、これまでの経験や培ってきた能力を生かしきれない部署で働いていることについても、モヤモヤを抱えていらっしゃるんですね。あつこさん自身、本心としては、どういう仕事をすることが希望なのでしょうか?


あつこさん: 「時間制限がなければ、やはり広報部や調査部などで、今までの経験を生かせる仕事をしてみたいと思っています。でも深夜まで仕事できないし、16時には退社したいという気持ちがあるので、今の部署でいいやって妥協してしまうんですよね……」


優先順位が定まっていないからモヤモヤする

山下さん: 「職場環境や上司もモヤモヤのファクターではあると思いますが、お話を聞いていると、『やりがいはないが子育てはしやすい今の部署で働くことを何だかんだで選んでしまう自分』に一番モヤモヤしている気がします

「そうであれば、私としては『本当にしたい仕事』を追ってほしいなと思いました。今の会社だとそれを追うことが難しいのであれば、20代に培ったスキルを生かせる職場に転職するのも手だと思いますよ」


あつこさん: 「実は、転職活動もしてみました。でも紹介されるのは、ほとんどが外資系の企業でした。ここで、私の中途半端な性格が顔を出すのですが、0歳の子を育てながら外資系企業でやっていけるのかなと不安になってしまいます」


山下さん: 「外資系企業の方が、働き方に関わらず、パフォーマンスを評価してもらえる印象なので、あつこさんに合っているのでは?」


あつこさん: 「新天地でパフォーマンスを出せるのか自信もないし、今の生活を壊せないなと考えてしまって……」


山下さん: 「うーん……"ないものねだり"のループに入ってしまうと一番つらいのは、あつこさん本人だと思いますよ。どれが欲しくて、どれは欲しくないのかということを、もうちょっと突き詰めて考える時間があってもいいのかなと思いました。難しいところではありますが、共存できるところはそのままでいいので、子育てのしやすさ、評価方法、仕事内容、生活の安定など、さまざまな条件の中で競合してしまうところについては、優先順位を決めてみてはいかがでしょうか


一度決断したら、その選択を正解にするためにがんばるしかない

あつこさん: そうやって考えていくと、やっぱり優先順位が高いのは、子どもとの安定した生活かな。子どもとの生活を守るためには現状が一番楽。将来どうなるかはわかりませんが、当面は今の会社にいるのかなという気がしてきました


山下さん: 「自分がしたいと望む仕事よりも、今、子どもを大事にしたいという気持ち、私はかっこいいと思います。もしかしたら、それが社会人として負けだという感覚をお持ちなのかもしれませんが、そういう風に感じる必要はありません」

3年後、5年後を考えると、その選択は正しいのかと不安に思う気持ちもあるかもしれません。でも、3年後、5年後、正解だったと思えるように生きるだけ。今、その選択が正解かどうかなんてわからなくて全然いいんですよ

「実は経営者って、正解かどうか見通しが立たない中で、自分が下した決断を、実績を出すことで正解にしていく仕事です。あつこさんが苦しい中で出した決断を、3年後、5年後、自分の納得いく形にできていたら、それは管理職になるスキルを積み上げているとも言えるのではないでしょうか」

あつこさん: 「そうですね……実は今、いつ職場復帰するかも悩んでいるのですが、いただいたアドバイスを参考にしながら、まずは目の前の決断をいい決断にしていきたいと思います」

山下さん: 「そう、自分が選んだ一歩が正解になるように、がんばるしかありません。その場面場面で良かったと思えるように働いて生きていってほしいなと思っています。応援していますよ!」

山下真実

株式会社ここるく 代表取締役・社会起業家・2児の母
米国留学によるMBA取得、米系投資銀行・金融コンサルを経て、ママになったことをきっかけに子育て支援という全くの新領域へ。人気レストランから選べる託児付きランチサービス「ここるく」を2013年にスタート。サービスを通じて集まる働くママのインサイトと、MBA・コンサルで得た専門知識の両面から、ママ向けサービス開発や育休復帰・働き方改革コンサルティングなども手掛ける。
『第14回女性起業家大賞』、三菱UFJ銀行主催『Rise Up Festa』最優秀賞受賞。