女性が働き方を見直すきっかけとなりうる妊娠、出産、そして育児。待機児童が解消されていない今、子どもができ、一度正社員を離れてしまうと、仕事に復帰するのはなかなか難しい現状があります。

そうした中、フルタイム以外のさまざまな働き方を増やそうと、子どもの預け先がなくても働ける仕事を提供する企業も出てきています。

  • 保育園隣接型オフィス「peekaboo」で働くママたち

ママ保育士の新たな働き方を開拓するウィズダムアカデミー

そんな企業の一つ、ウィズダムアカデミーが運営する保育士向けの転職支援サイト「Ixyee」(イクシィ)では、サイトを通して就職し、一定量働いている人に対して、子どもの預け先を確保・提供しています。週3勤務や時短勤務など、多様な働き方を提案しているのも特徴です。

もともと学童保育や幼児保育の施設を展開している同社。自社の施設と連携を取ることで、このような取り組みを実現させました。

  • 自社の保育施設と連携を図った取り組み

「保育士が保育園で働く場合、フルタイム勤務が主な選択肢になってしまうのが現状です。3時間単位で働きたい、兼業したいなど、さまざまな選択肢があっていいし、預け先の環境も良くしたいと考えています」(鈴木良和 代表取締役社長)。

子育てを理由に現場から離れている潜在保育士に活躍してもらいたいとの思いから、職場復帰前の研修制度も整備。ブランクがあっても不安なく職場に戻ることができるよう工夫しているほか、保育園以外の保育士需要も開拓することで、働く場所を確保しているそうです。

「保育園以外の場でも、保育士の需要はかなり高いんです。働き方もさまざまな選択ができるよう、工夫する企業が増えているので、潜在のママ保育士さんたちには"働く"という選択肢があることを、ぜひ知ってもらいたいですね」。

資格やスキルがなくてもキャリア形成できる、保育園隣接型オフィス「peekaboo」

子どもの預け先を心配することなく、新たなキャリア形成ができる企業もあります。広島県の「peekaboo」(ピーカブー)では、保育園隣接型のオフィスを展開。オフィスで働く女性たちは、無料で保育園を利用できます。

  • 左が保育園、右がオフィス。子どもがいるすぐ側で働けるのは大きな魅力

ウェブライティング事業、アウトソーシング事業、そしてメディア事業と、専門性の高い仕事を提供していますが、資格や特別なスキルがなくてもチャレンジできる職場とのこと。また、勤務形態も正社員から業務委託まで、多くの選択肢があります。

「キャリアのないママが就職しようとしたとき、残念ながら子どもがハンデになってしまうこともあります。出来る仕事が限られ、子育てとの両立が大変になる中で、自分のやりたい仕事を我慢するしかないと考えがちですが、私たちはその子育て期間中に、キャリアを仕切り直せるようにしたいと考えました」(小村佳子 代表取締役)。

実際に同社で働いていた人が別の会社に移り、キャリアアップして活躍している事例もあるといいます。

「私たちが雇用できる人数は限られてしまいますが、うちで働いたママたちを他の企業に介していきたい、支援していきたいという気持ちがありますね。子育て中の女性たちが希望する働き方に順応できるような企業が増えれば、もっとママたちの労働力は生かせると思います」。

子育て経験が生かせる仕事を提供する「ここるく」

人気のレストランなどが託児付きで楽しめるサービスを提供している「ここるく」では、利用者が食事をとっている間、保育を担う人たちの雇用の仕方を工夫しています。

同社では"だっこママ"と呼んでいる保育者。保育士に限らず、子育て経験のある女性であれば、チャレンジできます。また、自分の子どもを見守りながら保育の仕事ができるので、預け先を探す必要がなく、働きやすいという点が大きなメリットになっているそうです。

  • 子連れのママだけでなく、子育てのために現場を離れた元保育士や、既に子どもが手を離れた子育て経験者などさまざまな女性たちが活躍している

「この雇用を始める前は、自分の子どもを連れて他の子どもを保育するという点で、きちんと成り立つか不安もありました。しかし試験的に始めてみると、託児スペースで真っ先に落ち着いて遊び始める"だっこママ"の子どもがいることによって、利用者さんの子どもたちが安心してその場で過ごしてくれるという好影響があったのです。結果として、"だっこママ"とサービス双方にとてもいい効果がありました」(山下真実 代表取締役)。

子育てで一度キャリアを離れると、働くのが怖くなったり、視野が狭くなったりしてしまいがち。山下さんは、子連れでできる"だっこママ"のような仕事で一歩を踏み出すことが、「自分のやりたいことは何か」「子育てとキャリアをどう両立したいか」などを深く考えるきっかけにもなりうると考えています。

「私自身、子どもが生まれたときに"こんなに大切な存在は今まで出会ったことがない"と思ったんですよね。わが子という大きな存在に見合う仕事やポジションってめったにないし、見つけるのはなかなか難しいという人もいると思います。ママが子どものことを考えながらも、仕事においては自分を主体として考えられるような働き方がもっと増えたらいいなと思っています」。