少し前、ライダーのバイブル(?)と呼ばれている『バリバリ伝説』をはじめて読んだ。その登場人物がバイクの基礎をオフロード走行で学んだという件がなんだか心に残ったのだけど、そういえば私はオフ車に乗っているのに未だまともにオフロードを走ったことがない。そこでオフロードを体験してみたいと思い、埼玉県で開催されている「モトクロスごっこ」に参加してみることにした。

手ぶらで参加できる「モトクロスごっこ」

オフロードに挑戦してみたいなぁ、とは思ったのだけど、道具を一式そろえなくてはいけないし、都内には走れるようなオフロードコースもない。知り合いにオフロードを一緒に走ってくれるようなライダーもいなかった。しかし、調べていて見つけた「ウエストポイント」が主催する「モトクロスごっこ」は、モトクロス用のバイクをはじめ、ヘルメット、ブーツ、モトクロスパンツなど、必要な道具を一式貸してもらえるらしい。それにモトクロス専用コースなので、免許がなくても参加できる。自転車が乗れれば子供でもOKだ。いちばん嬉しいのは、元全日本モトクロスチャンピオンの福本敏夫さんにモトクロスの基礎を教えてもらえるということだ。

クラブハウスで着替えます。長袖のシャツと終了後のシャワー用のバスタオル、下着の替えは持参しましょう

フリー走行の団体さん。何度かモトクロスごっこを経験し、個人でバイクを買ってモトクロス走行を楽しんでいるという。なんだかいい感じ

あこがれの2ストロークレーサーに乗れる!

参加当日は台風の影響であいにくの空模様。しかし、モトクロスには影響がないということ。受付を済ませてコースに集合。あいにくの天気なので参加が私ひとりだったらどうしょうと思ったけど、10人ほどが参加していた。ギア付きバイク経験者は緑ゼッケン、子どもや初めてバイクに乗る人は赤ゼッケンをつける。私も自信がないので赤ゼッケンで走ろうかな? と思っていたら、福本さんから「バイクに乗れるなら緑色クラスで大丈夫だよ」と言っていただいた。でもこれは失敗だったかもしれない。

開会式でスケジュールの簡単な説明を受け、みんなで準備体操。当日の貸出バイクは、CR80R(2ストロークのレーサー)、XR100(4ストローク)、PW50(ギアなし)から好きなものを選択できる。"どうせ乗るなら2ストレーサー!"と、とにかく乗ってみたくてCRを選んだのだけど、周りから「大丈夫?」と心配されてしまった。毎日通勤でバイクに乗っているから大丈夫だろう、と考えたのが甘かった……。

1981年の全日本モトクロスチャンピオン・福本敏夫さん。福本さんは多くの人にモトクロスの楽しさを知ってほしいと、20年ほど前から「モトクロスごっこ」を開催。延べ4万人以上の参加者が卒業したという

当日の参加者は、小学校4年生と中学校2年生の親子連れ(お父さんはカメラ担当)や、何度も参加されてる方、年配の方など、計10名

シートの前方に座り、上体を反って腕を伸ばした状態がモトクロスの基本姿勢と教わる

走行時はブレーキペダルに足を乗せない(上)。足を前にずらしてブレーキをかける(下)

練習すればするほど耕される地面に恐怖を覚える

いよいよ講習スタート。始めはスピーカーを持った福本さんからモトクロスの基本姿勢を習う。腰の位置をシート前方に持っていき、上体を反らせて腕を伸ばし、足でしっかりバイクを挟む。シートに座るというより、下半身でバイクを挟んで支える感じ。しかし私は、いつもドッシリシートに座って走っているためか、上手くできない。意外に腹筋や太股の筋肉を使う。福本さんが「モトクロスは20分も走っていると体力をかなり消耗する」とおっしゃっていたのがよくわかった。

続いてコーナーの練習。モトクロスのコーナリングはリーンアウトが基本で、足を出しながら曲がる。この基本ができていないとモトクロスコースで走れないらしい。一周30~40メートルの楕円を左回りで練習。福本さんの模範走行を見て、簡単そうに走るので安心していたら、これが意外に難しい。とにかく脳みそを使って、アクセルやブレーキのタイミングを考えてないと走れない。普段どれだけ無意識で運転していたのかを実感する。

さらに恐ろしいことに、路面も次第に泥沼化。みんなで走っているからどんどん地面が耕されて滑りやすくなる。根っからのビビリなので、滑りやすい地面だと曲がるときに車体を倒せない、さらに曲がれないという悪循環。なんとか左回りに慣れてきたところで、今度は右回り。右回りはリヤブレーキを踏んだ後に足を出すため、左回りより難易度が高い。どうにも足を出すタイミングがつかめない。体全体に力が入ってしまう。しかし、他の参加者さんはどんどん上達していく。"どうしてそんなに上手くなっていくの~!"と、内心ものすごく焦っていた。

途中で私が乗っていたCR80Rはホイール径が大きいサイズだったので、私の体格にあう小さいホイール径のマシンと交換する。マシン交代1回目。ここでXR100に乗り換えればいいものの、私はまだCR80Rにしがみついていた。

モトクロス走行のコーナリングはリーンインで内側の足を出す。福本さんがやっているのを見ると簡単そうだが、実際やってみるとタイミングが難しい

右回りは難易度が高い。フロントブレーキも併用して、スピードを殺して曲がっていく

足は出ているが車体が傾いていなく、腰が引けている。ダメな走行例

午後はモトクロスコースを走る

午前中の練習だけでかなり体力を消費してしまった。他の参加者も泥んこまみれになって、モトクロスをしている人らしく(?)なってきた。お弁当とお茶で昼食タイム。お弁当はボリュームもあってとても美味しい! これで少しは元気&体力が回復したかな。

午後はオフロードコースを走るのだという。はじめて走るモトクロスコースに胸が高鳴ってしまう。スプリント用のAコース、エンデューロ用のBコースもあるが、モトクロスごっこ参加者はとりあえず初心者用のCコースへ。

初心者用のコースといってもカーブが一杯あるし、アップダウンもけっこうある。下半身で体を支えていないため、コブに上がるたびに体が浮く→怖い→体が硬くなる→上手く曲がれないの繰り返しだ。それでもコースにも慣れてきて、アクセルも開けられるようになったのだけど、ちょっと気を抜いた瞬間にスリップして転んでしまった。立ちゴケは何度も経験していたけど、走っている最中に転んだのは実は実は初めて。正直、痛いというより驚いた。ケガもなくバイクも軽いので起こしてすぐに運転しようとしたけど、エンジンが上手くかからない。カメラマンが助けようと駆け寄ってくれたが、意地っ張りなので自分でかけてやる! と自力で走り出す(笑)。

初心者コースを体験。マシンを交換してホイールが小さくなった

慣れてくるとコブを超えるのが楽しくなってくる

油断大敵。スリップしてドロドロに!

体勢を立て直して走り出します

本格的なエンデューロ用コースと模擬レース

初心者用のコースを走った後、エンデューロ用の本コースを体験した。コブのアップダウンが初心者用のコースとぜんぜん違う。福本さんに続いて一周1.8kmのコースを走る。壁のような上りもあるし、落ちそうな下りもあるし、なにより1周がなかなか終わらない(笑)。個人で参加しているフリー走行の人は、ポンポンとコブをジャンプしていく。モトクロスごっこの上手な参加者もガンガン走っていった。しかし私は、コケないように走ることでいっぱいいっぱい。小学生の男の子ほうが元気だ。福本さんが、4サイクルのXR100の方が走りやすいだろうと2度目のマシン交換。最初からこれにしておけばもっとラクだったかも。

その後2人1組で模擬レース。福本氏さんが走るコンビを決めていく。私の相手は赤ゼッケンの中学2年生のお兄ちゃん。"子どもの方が覚えが早いから負けるかな。でも私は免許持ってるし、負けられないな"と思っていたら、福本さん「お兄ちゃん(中学生)の方が速いだろうなぁ」と勝負の前から私の負けを予想(苦笑)。結果は……、私がレース中に2度目の転倒。レースの相手にすらならなかった。お兄ちゃんには申しわけなった。

福本さんの模範走行。ズルズルタイヤを滑らせながら格好良くコーナーを決めていく

小学校4年生の男の子。午前中はギアなしのQRだったが午後からギア付きのXR50。今回のモトクロスごっこで一番上達したのはこの子かもしれない

あこがれる前に走りに行こう!

レースの後は、福本さんのウイリー走行や後ろ向きウイリー走行を見学。絶妙なバランスで、前輪が持ち上がり後輪だけで走っていく。バイクと一心同体で走るとは、こういうことかと感心してしまう。そして閉会式に。「モトクロスがもっと上手くなりたいなら、他の人に負けたくないと、楽しんで走れる人が上手くなっていきます。また走りに来てください」と福本さん。「今年でモトクロスごっこを初めて20年余りになるけど、昔の参加者が子どもを連れて親子で参加してくれたときは、やっていて良かったなと思った」という言葉が印象的だった。私もまた参加して、CR80Rにちゃんと乗れるくらいに上手になりたいと思った。

閉会式後は後かたづけ。高圧洗浄機を使ってバイクやブーツはもちろん、人間ごと洗っていく(笑)。すでにみんな泥だらけなので、これはかなり楽しい。大人になってこんなに泥だらけになったのは初めてだ。その後のクラブハウスで浴びた暖かいシャワーがとても幸せだった。

モトクロスは体力をかなり消費するので、終わった後はヘトヘト。初めて参加するなら、バイクよりクルマで行ったほうがいいかもしれない。モトクロスごっこは、モトクロス道具を一式貸してもらえるし、子どもや免許のない人でも参加することができるのがとてもいい。この夏、家族や友人を誘ってあたなもモトクロスデビューしてみてはどうだろうか。

福本さんのウイリー走行。この状態をキープして長い距離を走ってしまう!

バイクを洗車

私も洗われてます(笑)

終わった後は、汗と泥まみれでヘトヘト。しかし、達成感と爽快感があります

取材協力:モトクロスごっこ
レポート:加藤真貴子(WINDY Co.)