常識というものは、国・地域といった限られた中での常識であって、国・地域を超えると全く常識ではなく、自分が思っている価値・尺度が当てはまらないことが多いと言えます。

FXのトレーディングでは、そうした価値・尺度の違う相手と闘っているということを自覚し、柔軟に対応する必要があります。

価値・尺度の違いを具体的に例に上げますので、ご理解頂ければと思います。

サンドウィッチ

アメリカ人は本当に良く食べます。

したがって、食べ物のワンポーション(one portion、一盛り)がなんでも大きくて、はじめ見たときは、エーっと驚くものですが、いつのまにか慣れてしまい、食べてしまうようになるのが恐ろしいところです。

職場での昼飯は、仕事柄デスクで食べていましたが、サンドイッチをよく食べました。

日本のサンドウィッチとは大違いで、ロースハムのスライスが厚さ4センチ、それにスイスチーズのスライスがさらに厚さ4センチが加わって、パンにはさまれ、膨らんだサンドイッチでしたが、残さず食べていました。

こんな話があります。

来日したアメリカ人が、ホテルでサンドイッチを頼んだら、日本でおなじみのサンドイッチがうやうやしく出てきたそうです。

その皿に乗った物体を見て、彼はボーイに"What's that?"(それは、なんだ)とたずねたそうですが、確かに、アメリカのサンドイッチからしてみれば、そう聞きたくなる気持ちもわかります。

一方、サンドイッチ発祥の国英国はロンドンのサンドイッチは、日本のサンドイッチに近く、さらにペラペラです。

アフタヌーンティーで、キューカンバサンドイッチ(きゅうりのサンドイッチ)を好んで食べられるようですが、あまり食指が伸びません。

レバーサンドイッチ(レバーペーストのサンドイッチ)が個人的には好きでした。

アメリカ人が大食漢なのに対して、イギリス人はかなりの少食です。

パブで、何も食べず、ビールを立って飲みながらおしゃべりに講ずるのが、典型的なイギリス人です。

ホッチキス

ロンドンに駐在し始めたばかりの頃、英国人のアシスタントに「ホッチキスある?」と尋ねたところ、怪訝な顔をされました。

きっと、私の発音が悪いためだろうと思い、いろいろアクセントを変えて、ホッチキスを繰り返し言ってみたものの、やっぱりわからないというのです。

そこで、ジェスチャーを交えて説明したところ、”Oh、Stapler!(ステープラー)”とやっとわかってもらえました。

日本では、ホッチキスと一般に呼ばれていますが、英米では、ステープラーと呼ばれていることから、通じなかったことがわかりました。

ホッチキスという言葉は、明治中期に伊藤喜商店(現在のイトーキ)が米国より初めて輸入したステープラーが、E.H.ホッチキス社(E.H.Hotchkiss)の製品であったことから、これを「ホッチキス自動紙綴器」と名づけて販売したことに由来しているというのは、随分後になって知りました。

海外に駐在すると、ごく日常的な言葉を知らないと困ることが多く、たとえば、定規のことをルーラ(ruler)ということも、私は知りませんでした。

また、家関係の言葉も知っておく必要があります。

たとえば、水道の蛇口を修理してもらいたくても、プラマ―(plumber、配管工)という単語を知らなければ、電話帳で調べることすらできませんでした。

それでも、まだ、私の駐在は英語圏ですからまだ良いほうで、他言語の地域に駐在された方々のご苦労はいかばかりかと思います。

このように、自分の持つ常識など、本当に限られた世界でのみ通用するものですから、どういったことに対しても、それを受け入れられるだけの度量を持つことが必要です。

特に、海外とのつながりの深いFXトレーディングでは、心しておく必要があります。

  • 水上紀行(みずかみ のりゆき)

    バーニャ マーケット フォーカスト代表。1978年三和銀行(現、三菱東京UFJ銀行)入行。1983年よりロンドン、東京、ニューヨークで為替ディーラーとして活躍。 東京外国為替市場で「三和の水上」の名を轟かす。1995年より在日外銀において為替ディーラー及び外国為替部長として要職を経て、現在、外国為替ストラテジストとして広く活躍中。長年の経験と知識に基づく精度の高い相場予測には定評がある。なお、長年FXに携わって得た経験と知識をもとにした初の著書『ガッツリ稼いで図太く生き残る! FX』が2016年1月21日に発売された。 詳しくはこちら