ブルームバーグに米為替介入に関しての記事が出ています。

ブルームバーグ「『何でもあり』不安高まる米為替介入-ワイルドカードとゴールドマン」

以前から、ニューヨーク市場では、アメリカのドル売り介入の可能性について、憶測が確かに流れていましたが、ここにきて、ゴールドマン・サックスまで、その可能性に言及してきたので、憶測が憶測を呼んでいるもようです。

但し、米政府が、個別に、たとえば、ドル/円がどうこう言っているわけではなく、彼らは、ドルの総合的な強弱を示すドル・インデックスが、昨年秋ぐらいから、ずっと高止まり(ドル高)していることに業を煮やしているのです。

  • 高止まりするドル・インデックス 週足(上がドル高、下がドル安)

ただ、トランプ大統領のことですから、絶対にないとも言えず、確かに気になるところです。

記事にもありますが、過去のアメリカの為替介入資金は、財務省とFed(連邦準備制度)が折半で出していましたが、財務省単独でも介入資金を出せる、すなわち、米政府単独でも為替介入ができるということです。

このカードを米政権が切ったら、ドルはド急落することは間違いないと思います。

中でも、たぶん一番ユーロ/ドルで反応するものと見ています。

なぜなら、既に申し上げましたように、米政府がドル高ドル安を見ているのは、ドルの総合的な強弱を示すドル・インデックスです。

  • ドル・インデックスの構成

このドル・インデックスの構成比率の中で、一番大きいのが57.6%を占めるユーロですので、ドル売り介入するとなると、ユーロ/ドルが一番にユーロ高ドル安になると思われます。

また、たとえ、実際にドル売り介入がなかったとしても、リスクを回避するためのユーロ買いドル売りは出るものと思われます。

そして、今やリスクを回避するといえば円買いですので、ドル/円も大きく下落するものと思われます。

因みに、ドル・インデックスの構成比率の中で、なぜユーロがいびつに大きいかと言いますと、1999年にユーロが誕生したことにより、それまでのドイツ・マルク、フランス・フラン、イタリア・リラ、スペイン・ペセタなどの既存の欧州通貨が全てユーロとなり、ユーロの構成比率が巨大化したためでした。

米政府は、日本を含めて他国に、意図的な通貨安誘導を禁ずる法的拘束力のある為替条項を要求していますが、他国の抵抗は強く、それなら、直接自ら為替介入をすることも考えているということのようです。

しかし、もしドル売り介入を実施するにしても、他の国の賛同は得られず、米国の単独介入となるものと思われますが、既に申し上げましたように、相場の過剰反応は避けられず、米国が意図した以上の結果になるものと思われます。

また、今まで、実際的な介入実務は、連銀の中でも唯一介入権を持つニューヨーク連銀を通じて行われていましたが、もし財務省単独の介入となると、財務省自身が市中銀行を呼んで介入することになり、慣れないこともあって、混乱を呼ぶことは避けられないものと思われます。

最後の為替介入は、2011年の東日本大震災の時の、G7の協調介入でした。

アメリカのある投資会社社長の「震災により、日本の損害保険会社は、対外資産を切り崩して円に換えるから円高」との見方に、マーケットが過剰反応して円急騰となった時、G7各国の中央銀行が強調して円売り介入し、日本は命拾いしたことがありました。

そんな心温まる協調介入があってから8年経って、世の中は様変わりしました。

米政府が、単独介入を考える時代が来ようとは。思ってもみませんでした。

確かに、まだすぐにはということにはならないとは思いますが、心の片隅には留めておきたい事柄です。

水上紀行(みずかみ のりゆき)

バーニャ マーケット フォーカスト代表。1978年三和銀行(現、三菱東京UFJ銀行)入行。1983年よりロンドン、東京、ニューヨークで為替ディーラーとして活躍。 東京外国為替市場で「三和の水上」の名を轟かす。1995年より在日外銀において為替ディーラー及び外国為替部長として要職を経て、現在、外国為替ストラテジストとして広く活躍中。長年の経験と知識に基づく精度の高い相場予測には定評がある。なお、長年FXに携わって得た経験と知識をもとにした初の著書『ガッツリ稼いで図太く生き残る! FX』が2016年1月21日に発売された。 詳しくはこちら