「軽い風邪を引き、治ったのに耳に膜が張ったような感じがある」「耳が詰まった感じ」など、耳に関する違和感はありませんか? 不快がありながらもなんとなく軽視している方も、そうでない方も、知識を深めておきましょう。

  • 耳に違和感を持つことはありますか?

40歳を過ぎたら耳の健康を考える

これまで健康だった人が、突然耳の聞こえが悪くなる、聞こえなくなるといったことがあります。40歳を過ぎたら老眼が始まる方もいるので、同時に耳の健康へも注意を向けましょう。

ただ、突発性難聴は若い方にも多いので、聞こえに異変があったらすぐ受診です。耳鼻咽喉科医でシンガーという「耳と音の専門家」である木村至信氏(以下、キムシノ氏)に話を聞きました。

――耳の不調を自覚しつつも、深刻にとらえない人は少なくないかもしれません。受診を検討すべき症状は、どんなものでしょうか。

キムシノ氏「耳が詰まった感じがする、音がこもって聞こえる、耳鳴りがする、自分の声や呼吸音が響いて聞こえる、自分の声の大きさを把握しづらいといった症状があるときは、耳鼻咽喉科や耳鼻科を受診してください。これらの症状がある場合、『耳管開放症(じかんかいほうしょう)』や『耳管狭窄症(じかんきょうさくしょう)』を疑うことがあります。

耳管開放症と耳管狭窄症では症状がほとんどが共通します。耳管というのは、耳と鼻をつなぐ細い管状の通路のことです。耳管は平常時には閉じた状態を保持し、唾液を飲み込んだりあくびをした際に一時的に開くことで中耳内の気圧を調整するなどの役割を果たしています。

エレベーターに乗った時や、山や高原に行った際などに耳がツーンと詰まった感じを覚え、唾液を飲み込んだりあくびしたら治ったという経験があると思います。治ると正常ですが、耳管開放症と耳管狭窄症になると、こうした耳管の機能が働かなくなります。

ちなみに、飛行機の離着陸の際、耳が痛くなったり、塞がった感じが残ったりするのは、耳管狭窄が原因で起こり、『航空性中耳炎』とも呼ばれます」。

耳管開放症・耳管狭窄症をちょっと詳しく

耳管開放症も耳管狭窄症も、日常的に聞く言葉ではありませんが、季節の変わり目の体調不良や風邪をきっかけに発症する人は少なくないそうです」。

  • 季節の変わり目の体調不良が耳にも影響する?

――それぞれ、どんな病気なのか詳しく教えてください。

キムシノ氏 「耳管開放症は、耳管が開いたままになる病気です。急な体重減少、妊娠、体調不良が原因と考えられています。また、鼻をすする癖がある人に多くみられます。運動し、汗をかいたりすると病状が悪化することがあります。

耳管狭窄症は、耳管がふさがれたり狭くなったりする病気です。風邪、アレルギー性鼻炎、副鼻腔炎、咽頭炎、扁桃炎などにより鼻やのどに炎症が起きることが主な原因となります」。

――診察はどのように行いますか? 痛いですか?

キムシノ氏 「鼓膜を見ると、内側にへこんでいる状態が観察されることがあります。また、聴力検査や鼓膜の動きを調べるチンパノメトリーという検査により、病気の程度を確認できます。

開放症と狭窄症の判別は難しいのですが、頻度としては圧倒的に耳管狭窄症が多く、耳管開放症は稀な病気といえます。耳管開放症は、立っている状態で症状が現れ、寝ているときは異常を感じないという特徴があります。耳管狭窄症は、口を閉じて鼻をつまんだまま鼻から空気を吐くようにして耳へ空気を送る『耳抜き』ができるかできないかなどを問診します。治療はそれほど痛くありません」。

――どんな治療がありますか?

キムシノ氏 「耳管開放症は、症状に対する投薬などを使いますが、症状が強いと改善は困難です。耳管狭窄症は、原因である鼻やのどの炎症に対する治療などです。病院ごとにコストや機材などの事情があるため、まずはかかりつけ医に相談することをお勧めします。3ケ月ほどで完治が見込まれることが多いですが、慢性鼻炎が原因の場合は、根本疾患を治さないと完治しません」。

気になることがあれば聴力検査から

ビジネスパーソンの中には、耳鳴りに悩む人もいると聞きます。仕事が忙しい、コロナ禍による環境変化でストレスが溜まっているといった心的な要因もありそうです。

――ストレスで耳鳴りを起こしているケースもありそうですね。

キムシノ氏 「耳鳴りは、一度気付けば、以後は意識するほどストレスになり、それがさらに耳鳴りを悪化させるという悪循環を呼びがち。耳鳴りを意識しないような環境作りやライフスタイルが大事です。静かすぎる環境を避け、テレビやラジオや、音楽などを聞きましょう。趣味に熱中する、適度な運動をするなど、耳鳴りを自然に忘れらる時間も重要です。

深刻な病気が隠れているといけませんので、気になることがあれば、耳鼻咽喉科や耳鼻科で聴力検査を受けてください。会社で行う人間ドックの聴力検査では不十分なこともあるので、設備の整った医療機関を受診し、防音室内での検査をお勧めします。難聴疾患の場合は時間勝負。治療の効果が望めるゴールデンタイムの2週間内に受診しましょう。放置すると治る病気も治らなくなることもあります!」。

取材協力:木村至信(きむら・しのぶ)

横浜市の馬車道木村耳鼻咽喉科クリニック院長・産業医・医学博士。テレビやラジオのレギュラー番組を持つタレントでもあり、「木村至信BAND」でメジャーデビューする女医シンガーの一面も。