数年前にもらった未使用の処方薬、服用しても大丈夫なの?

薬剤師として30年以上のキャリアを誇るフリードリヒ2世さんが、日常のさまざまなシーンでお世話になっている薬に関する正しい知識を伝える連載「薬を飲む知恵・飲まぬ知恵」。今回は薬の使用期限に関するお話です。

使用期限を過ぎた薬を使っても大丈夫なの?

プライベートな話で恐縮ですが、先日調理済みのカツ丼をスーパーマーケットで買ってきて、すぐに自宅の冷蔵庫に入れました。ただ、ラベルには「消費期限」が●●月××日と当日の日付が書かれていましたから、その日のうちに食べなくてはなりませんでしたが(笑)。

しかし、こういった市販されているお弁当や総菜を日付が変わったとたんに食べずに捨ててしまうでしょうか。1日ぐらいは「勝手に」期限を延ばして、結局食べてしまってませんか? 製造者(調理者)が「期限切れ」としているのにも関わらず、それに逆らって食べて下痢を起こしたら「自己責任」ということになるかもしれません。

食べ物に消費(賞味)期限があるように、薬にも期限があります。もらった(買った)薬をすべて使用せずに病気が治ったため、残った分を取っておいてその薬を再度使用しようと思ったら、期限切れになっていた……。このようなシチュエーションで、あなたならどうするでしょうか? 今回のコラムは薬の使用期限について考えてみましょう。

医療用医薬品の品質保証期限

一般に医療用医薬品は、未開封の状態で適切に保存していれば3年間は品質を確保できるといわれています。経時変化によって3年以内に分解または変質、腐敗など、薬効が減少すると予想される医薬品については、製造業者は品質が保証できる期間を利用者に知らせなくてなりません。そのため、「使用期限」を直接の容器または被包に「2017年12月」といった具合に年月で記載することが義務づけられています。

適切な保存条件で製造後3年を超えても性状及び品質が安定であることが確認されている医薬品には法的な表示義務はないといえますが、流通管理などの便宜上、外箱などに使用期限を記載しておくこともあります。 ただし、ここで表示される「使用期限」は、未開封状態で保管された場合のことで、いったん開封されたものについては記載されている期日まで品質が保証されないことがあります。

一方で3年以上の安定性があり、使用期限表示が厚生労働省から指定をされていない医薬品には使用期限が表示されていないケースもあります。代表例はモルヒネをはじめとする医療用麻薬です。医療用麻薬はおおよそ経時的に安定ですし、「医療資源を有効活用する」「廃棄するにも行政上手続きが煩雑である」などの理由で使用期限を表示しないことがあるのです。

もちろん、医療用麻薬でも上記のように3年以上の安定性が担保できないものには使用期限を表示します。最近は、3年以上安定な医療用麻薬にも自主的に使用期限を表記するメーカーが多いようです。

薬の使用期限を保証するGMP

ところで製造業者は使用期限をどのようにして保証しているかというと、GMPと呼ばれる基準(規格)に従っているのです。英語のGood Manufacturing Practiceの略称。国を超えたグローバルな(EU・米国・日本を含む)基準です。日本語では「医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準」と表現されます。長いですね。

それでは、GMPの主な目的を簡単に説明しましょう。

製造管理

・不良医薬品にならないような作業をすること、あるいはロット(同一仕様の製品や部品を一定単位としてまとめた数量)が違う製品でもいつでも同じ品質のものを作れること

品質管理

・必要な品質を保っていることや有効性・安全性を確かめること

衛生管理

・衛生的な環境を守るため作業員が日常的に行うべきことを決めておくこと

続いて、使用期限に対する考え方のコツについてまとめてみましょう。

保存

特別な薬以外は「光・温度・湿度」の3つに気をつければ劣化しにくいです。

・薬は直射日光に当てないように
・薬は車内におかないように(温度変化に注意)。冷蔵庫に入れるのはOK
・薬は空き缶などに入れて乾燥剤をうまく使いましょう

期限

期限がよくわからない薬のおよその期限は、種類によって異なります。

・錠剤・カプセル・軟こう・坐薬: 薬をもらってから6カ月~1年程度
・粉薬・顆粒: 薬をもらってから6カ月~1年程度
・水薬: 薬をもらってから冷蔵庫で1週間~10日程度

薬の期限は一括りで決められない

薬の期限は成分によってそれぞれ異なり一様ではありません。かなり厳しいGMPでそれぞれの品質を管理しながら製造されます。市販薬は箱に記載されている使用期限を守り、処方薬の使用期限は処方箋の処方日数と考えましょう。

結論として、見た目にまだ使えそうな場合でも、使用期限が切れた薬には未練を持たず捨てるのが無難と言えるでしょう。

※写真と本文は関係ありません


筆者プロフィール: フリードリヒ2世

薬剤師。徳島大学大学院薬学研究科博士後期課程単位取得退学。映画とミステリーを愛す。Facebookアカウントは「Genshint」。主な著書・訳書に『共著 実務文書で学ぶ薬学英語 (医学英語シリーズ)』(アルク)、『監訳 21世紀の薬剤師―エビデンスに基づく薬学(EBP)入門 Phil Wiffen著』(じほう)がある。