マツダが新潟県燕市へのツアーを企画したことに関して、同社デザイン本部アドバンスデザインスタジオ部長、中牟田泰氏は、「魂動デザインはいま、日本のものづくりから学ぼうとしています。燕三条は金属加工をベースとした日本のものづくりの原点がまだ残っているエリア。ものづくりの聖地と言ってもいいかもしれない」とその理由を述べた。

マツダ「デミオ XD Touring L Package」

今回のツアーの最後には、「魂動」デザインが採用された「デミオ XD Touring L Package」に試乗し、燕市をはじめとする新潟県下越エリアをドライブする機会を得た。

燕市産業史料館と玉川堂で伝統工芸を見学

出発の前に、今回のツアーでクレイモデル実演などのプレゼンテーション会場となった燕市産業史料館を見学。北陸自動車道三条燕インターから5分程度と、アクセスの良い施設だ。江戸時代から続く伝統的金属工芸から、身近なスプーン・フォークまで、燕のものづくりの歴史がわかる展示が充実していた。

「デミオ XD Touring L Package」インテリア

「デミオ XD Touring L Package」アクティブ・ドライビング・ディスプレイ

燕市産業史料館

玉川堂外観

玉川堂ショールーム

ここから同じ燕市内の玉川堂(ぎょくせん)をめざす。出発しようと「デミオ」のドアを開けると、質感の高いインテリアに迎え入れられた。異素材を組み合わせた印象的な配色のシートやインパネなどに、ハードモデラーの活躍を感じ取れた。

ナビによれば、玉川堂は燕市産業史料館からすぐとのことだったが、見知らぬ土地での走行ということもあり、アクティブ・ドライビング・ディスプレイが役立った。メーターフードの前方に立ち上がり、車速とナビゲーションのルート誘導を表示する。正面から大きく視線を動かすことなく、自然に運転するうちに玉川堂へ到着した。

玉川堂では、誰でも予約なしで鎚起銅器の制作を見学できる。その技術が無形文化財に登録されていることは前々回も紹介した通りだが、じつは玉川堂の建物も、文化庁から登録有形文化財に指定されており、見逃さないようにしたいところ。ショールームでは湯沸やぐい呑、ビールカップといった製品が展示されていて、興味深い。重厚な伝統工芸品の中に、フランスの老舗シャンパーニュメゾン「クリュッグ」とコラボしたボトルクーラーなどもあり、新たな息吹を感じる製品も見られる。

7インチセンターディスプレイとコマンダーコントロール

玉川堂から車で30分ほどのところに、下越エリアを代表する観光スポットである彌彦神社があり、ナビで目的地に設定した。7インチのセンターディスプレイは見やすく、コマンダーコントロールも直感的に操作しやすい。ダイヤル操作でカーソルを移動させての検索も想像以上にやりやすく、誤操作も少なく、気に入ってしまった。

日本の美に満ちた彌彦神社から日本海へ

弥彦山の杜を背景にした鳥居の佇まい……彌彦神社は日本の美に満ちていた。万葉集に詠まれるほど歴史ある彌彦神社だが、1912(明治45)年に焼失し、現在の本殿は1916(大正5)年に再建されたものだという。今年は再建・御遷座から100年を迎え、数々の奉祝行事が予定されているそうだ。訪問日は偶然にも、横綱 日馬富士関による土俵入りが行われていた。

彌彦神社、一の鳥居

横綱 日馬富士関の土俵入りが行われた

日本海間瀬サーキットと間瀬海水浴場

せっかくここまで来たので、山を越えて日本海をめざした。「デミオ」に搭載された「SKYACTIV-D 1.5」とステアリングシフトスイッチの組み合わせで、峠道が楽しい。シーズンオフの間瀬海水浴場と、その向かいにある日本海間瀬サーキットに立ち寄った後、燕市街へ戻ることにした。ちなみに日本海間瀬サーキットは、貸切の日以外は誰でもフリー走行が可能(有料)だ。

試乗の締めくくりに、燕三条系ラーメンの有名店である杭州飯店にも寄った。名物の中華そば(800円)は、まるでうどんのように太い麺と、一面に浮いた背脂が特徴的だ。燕商工会議所サイトによれば、燕市のラーメンは昭和30年代に金属洋食器の製造で忙しかった燕の職人に合わせて、冷めにくいようにと背脂をたっぷり入れ、伸びにくく腹持ちの良いようにと太麺を使うようになっていったという。「ものづくりの聖地」ならではの1杯というわけだ。

杭州飯店の中華そば

こうして、「魂動」デザインへの理解を深めるためのツアーは終了した。マツダデザインが現在も取り組んでいるという日本の美、日本のものづくりからの学びが、今後の新型車にどのように反映されていくのか、楽しみに待ちたい。

なお、当連載で紹介した「魂銅器」や「Bike by KODO concept」、そして新型「ロードスター」と「CX-3」は、東京ミッドタウンにて10月16~25日に開催される「東京ミッドタウン デザインタッチ 2015」でも展示される予定だ。