多くの人の支持を集めることが人気のバロメーターである一方、常に評価の目にさらされ、時には辛辣な言葉も浴びる宿命を負う芸能人。それぞれの職業観の中で、どのような言葉を支えにして苦境を切り抜け、仕事と向き合っているのか。連載「わたしの金言」は、芸能界に携わる人々が心の拠り所としている言葉を聞く。

第5回は、AKB48、モーニング娘。、ジャニーズなど300組以上の振り付け指導にあたってきたコリオグラファーの第一人者・夏まゆみ(55)。『エースと呼ばれる人は何をしているのか』(14)、『教え子が成長するリーダーは何をしているのか』(17)などの著書にもある通り、教え子との向き合い方を追求し続け、伝える言葉の影響力について誰よりも敏感に捉えてきた人物だ。

夏まゆみ 撮影:大塚素久(SYASYA)


私がいちばん変わったのは、吉本印天然素材を指導していた頃。言うことを聞いてくれないヤンチャな子ばかりで困っていた時、当時プロデューサー兼マネージャーの方から「夏先生、セクシーやから」と言われました。これが私の金言です(笑)。

それを聞いた直後、「えっ? わたし!? 言うこと聞いてくれないのは、私のせいなの?」と理解ができませんでした。それまで、「指導」は教えられる側が従ってくれる前提ではじめるものだと思っていました。その方も、芸人さんたちのヤンチャぶりを目の当たりにしても、あまり注意してくれませんでした。

ある日、その方にねぎらいの意味で飲みに誘われ、そこで言われたのが「夏先生、セクシーやから」。そこでやっと、「自分が変わらないといけないんだ」と気づいたんです。これは今振り返ってみても、指導者として大きな出来事だったと思います。

教える環境は誰も整えてくれない。指導者はそこを整え、自らを変えていく。その上で、振付を指導する。指導環境、その空間をも演出する。「先生」としてお膳立てをしていただいた上で指導にあたることもありますが、吉本印天然素材はそうじゃなかった。二度と「セクシー」と言われないように、私は「男」になることを決意しました。『ASAYAN』(テレビ東京系・1995年~2002年)以後、それが私の指導者としての怖いイメージへとつながっていったのだと思います。

変化のゴールや答えはありませんが、これまで、たくさんの壁や逆境を乗り越えて成長してきました。そして、これからも乗り越えていきたい。あまりに成長しすぎて仙人にならないように(笑)、変化していけたらなと思います。

■プロフィール
夏まゆみ
ダンスプロデューサー、指導者。1962年、神奈川県生まれ。1980年に渡英以降、南米、北米、欧州、アジア、ミクロネシア諸国を訪れ、オールジャンルのダンスを学ぶ。1993年には、日本人で初めてソロダンサーとして、ニューヨークのアポロシアターに出演。1998年、冬季長野オリンピック閉会式の振り付けを考案、指揮した。NHK紅白歌合戦では、20年以上にわたってステージングを歴任。コリオグラファーの第一人者として、これまで吉本印天然素材、ジャニーズ、モーニング娘。、宝塚歌劇団、AKB48、マッスルミュージカルなど、300組以上を指導。2014年に出版した『エースと呼ばれる人は何をしているのか』(サンマーク出版)は、6万部を超えるヒットを記録した。