昨今、リモートワークや業務効率化により、組織内での上司と部下の対話が減少しています。それにより、目先の業務以外で部下と何をどう話せばいいか分からないという上司も現れてきています。
そこで本連載では、組織内において部下の継続的成果と成長を支援し、さらにエンゲージメントを高めるために行う、対話のフレームワーク「すり合わせ9ボックス」を活用して、上司が「部下をダメにする話し方」について考察してみましょう。
すり合わせ9ボックスとは
すり合わせ9ボックスは、上司と部下が対話すべき3つの要素(業務・個人・組織)を、さらに3つの時間軸(過去・現在・未来)で分けた、計9つのテーマで構成したのです。1回目の今回は、「業務不安(業務×現在)ボックス」についてです。
「一方的に詰める」のではなく「一緒に探る」
忙しい現場での進捗確認とは異なり、1on1ミーティングなどのじっくりと対話をする場面において、部下にやってはいけない聞き方が、「上司が聞きたいこと」だけを一方的に部下に質問することです。
例)
上司:「今月の受注の着地は何%?」
部下:「いって80%です」
上司:「で、足りない分はどうするの?」
部下:「当たってないクライアントに見込みさらに増やしていきます」
上司:「いつまでにそれ分かるの?」
部下:「今週アポ取っているので、今週中には見込みが分かる予定です」
上司:「その当てが外れたらどうするの?」
部下:「……」
こういった、特に部下がネガティブに感じている場合、質問が「詰問」、いわゆる詰めになりがちです。
詰められてムチ打たれた部下は、一旦は成果が上がるかもしれませんが、上司との関係性の悪化やモチベーション低下など中長期的に成果を上げ続けることが困難になりがちです。
そもそも質問とは日本語で問い質すと書くように、詰問になる要素をはらんでいますが、英語では「Question」であり、語源の「Quest」は探究や探索という意味です。つまり、詰めではなく前向きに探究するのが質問です。
では、質問が「詰問」にならずに相手の考えていることや内面を「探究」してもらうためにはどうすればよいでしょうか? ここでは2つポイントを紹介します。
「じっくり感」と「一緒に感」で質問する
まず「じっくり感」は十分に間を取って話を進めることです。相手がネガティブに感じていることを間をおかずに質問すると、相手は自分の意図しない方向にどんどん追い詰められている感じがして苦しくなります。
次に共に考える「一緒に感」。例えば「当てが外れたらどうするの?」と、相手がネガティブに感じている方向のことを一方的に思考させられると、相手は突き放されたような感じを受けます。しかし、そこに「一緒に考えようか?」というニュアンスが入ると安心感が持てるのです。
例)
上司:「今月の受注の着地に関して一番不安なところはどんなところ?」(業務不安)
部下:「100%達成への道筋が見えてないことです」
上司:「そうかー、ちょっと一緒に考えていこうか」(一緒に感)
部下:「ぜひお願いします」
上司:「うん、その道筋っていうのはどういうことかな?」
部下:「はい、80%までは見えているのですが、残りが難しく」
上司:「まず80%までは見えてるんだね。いいね。残り20%についてはどこまで見えてるのかな?」(じっくり感)
部下:「今週アポのクライアント先で見込みが分かるので、道筋が見えるかもしれないです」
上司:「なんだ、ちゃんと布石打ってるじゃない」
部下:「そうなんですけど、でもその当てが外れたらまったく白紙になってしまうので」 (部下自ら課題・リスクを相談)
上司:「そっか、その当てがなくなった時が一番の不安要素なんだね」(部下が話したい不安を聴く。ここがポイント)
部下:「そうなんです」
上司:「そうか、じゃあそこについて一緒に可能性を探ってみようか」(一緒に感)
部下:「はい。ぜひ」
(中略)
ここから、解決策について部下から引き出そうとしても出てこない場合、部下が考えられるところまで一緒に考えていきます。
上司:「売り上げを伸ばしていく可能性としては、まず『アポ先の見込み確率を上げていく』、次に『まだ当たっていないアポイント先を見つける』、さらに『既存の見込み先の売り上げを伸ばしていく』があると思うけど、まずアポ先の見込み確率上げるためにできることって、例えばどんなことがありそうかな?」(一緒に感)
このように、部下が業務で抱えている不安を理解する「業務不安確認」を行い、それについて「一緒に」考えるプロセスをたどることで、部下は考えることや、やるべきことが明確になり、モチベーションが上がり、自発的に考えるようになります。
一方で、上司が聞きたいことを矢継ぎ早に質問する「業務進捗確認」は、部下のモチベーションを下げて、関係を悪化させる可能性があります。
さらに上司の言われたことしかやらない「考えない」部下をつくることになる「部下をダメにする話し方」になってしまうのです。