夫への妻の愛を消失させる原因は?
「子どもが2歳になる頃、夫を心から愛している妻は3人に1人しかいない」
こんなデータを見て、妻の反応は「当たり前よねえ…。3人に1人も愛しているなんて、逆に驚いた」「子どもがいたらもう夫なんかどうでもいいものね」。
しかし世の夫たちは驚愕しています。
「えええっ、なぜなんだ!」「ちゃんと育児も手伝ってるし、一体何の不満があるんだ」と大騒ぎ。そのデータがきっかけで、あさイチでとりあげられ、大反響を呼んだのが『産後クライシス』です。今回本になりました。(ポプラ新書)
その中で一番衝撃のデータは「子どもが生まれた0歳時の時点で、夫を本当に愛していると実感する妻は2人に1人、2歳になる頃は3人に1人」というものです。
その原因は「出産後の夫の育児、家事への不参加」。
妻が専業主婦でも、働くママでも、日本の夫たちの家事、育児参加時間は非常に短いのです。
夫婦関係が「出産を機に崩壊していく」産後クライシス
「夫はいないものと思え!」
ある働くママたちの集まりでこんな言葉を聞きました。つまり「夜遅くにしか家に帰ってこない夫には最初から何も期待しない」のが、イライラせずにいられるコツということでしょう。しかし、いくら「期待しない」と心に誓っても、1人で言葉の通じない幼児と向き合い、体も心も疲弊しきった妻です。"悪気なく"遅くに帰ってきて、家事を何もしない夫への恨みはつのるばかりでしょう。
こんな風に本当に夫婦関係が「出産を機に崩壊していく」ことを、NHKは「産後クライシス」と名付けました。
今までのように「産後ウツ」や「育児ノイローゼ」では、「母親の問題」になってしまいます。しかし、これは家族の危機なのですね。
この産後の時期に、その後の妻の8年分の愛情が決まるという話を聞いたことがあります。そう、産後の「悪気のない非協力」は取り戻せないのです。一生妻は覚えています。
「産後クライシス」による離婚も珍しくない
そして、「産後クライシス」による離婚も珍しくありません。
知っている例でも「産後クライシス」によるセックスレスで第二子が生まれない(子ども部屋は二つあるのに!)ケースがあります。クライシスの原因は、夫が「育休」を取得したのに、その4週間の間「夫は好きなことだけをして、私が子どもをおいてでかけたのは、友達の結婚式の半日だけ」ということでした。
また、「産後クライシス」による熟年離婚準備組などがいます。40代1児の母ですが、「定年と同時の離婚」を準備しているそうです。これも「家事育児、子どもへの無関心」が原因です。
そして私が見るところ、真面目な妻ほどクライシスに陥りがちです。人の手を借りないで、「子育てを自分でしっかりやらなければ」という伝統的価値観に縛られていて、孤独な育児に陥ります。妻は産後の体調の変化、3時間おきの授乳、初めて子どもを持つ緊張(妻だって初心者です)などで心身ともにヘトヘトです。めちゃくちゃ有能なキャリアウーマンをして「いままでで、もっともやっかいなクライアント」と言わせるのが乳児です。
しかし、そんな妻の「クライシス」に夫は何の悪気もなく気がつかない。
そして、最近は「仕事を続ける」妻も多いのです。妻が仕事を続けるのは自己実現などのためではありません。夫の稼ぎが低いからです。(30代男性の収入はここ20年で200万円ほど下がっています)もう夫婦2人、子ども2人を夫1人で養うのは不可能という試算が出ています。
育休中の妻は、今までの「外の世界」を失い、復帰に不安を覚え、慣れない育児に奔走しています。そして育休復帰したら、さらに「会社の同僚に迷惑をかけないよう」頑張り、前と同じだけ仕事ができない自分に悩み、会社に気兼ねしながら「子どもが待つ保育園に走って帰る」わけです。パソコンの入った重いバッグと幼児と夕ご飯の食材…いったい何キロの荷物を抱えて疾走しているのでしょうか?
しかし夫は気がつかない…その先に待つのは「夫はいないものと思え」という諦観です。
「産後クライシス」に対する対処法はぜひ『産後クライシス』(ポプラ新書)をお読みください。
「結婚後の婚活、夫婦維持活動が大事」
こういう本が出たということは、日本でもやっと「結婚後の婚活」が見直されてきた証拠です。私はかねてから「結婚後の婚活、夫婦維持活動が大事」と言っています。日本人は結婚にはリソースを割くのに、「釣った魚にえさはやらない」という失礼な言葉があるように、あまり「結婚後の夫婦関係の維持」にお金も時間もかけないのです。
最近「ノルウェーのソールヴァイ・ホルネ児童・男女共同参画・社会統合相は、子どもを持つ夫婦に積極的にデートをするよう呼び掛けた。離婚率の上昇に歯止めをかけるのが狙いという」というニュースが入ってきました。
日本では、デートよりもまず企業が夫を早く家に帰してあげることですね。産後クライシスを超えないと、第2子、第3子も生まれず、ますます少子化になってしまうのです。
著者プロフィール : 白河桃子(しらかわとうこ)
少子化ジャーナリスト、作家。一般社団法人「オサン・デ・ファム」アンバサダーとして、「女の子を幸せにする心とカラダの授業」プロデュース、「全国結婚支援セミナー」主宰。大妻女子大学就業力GP「ライフコース講座」講師および企画。山田昌弘中央大学教授とともに、2008年度流行語大賞にノミネートされた「婚活(結婚活動)」を提唱し、共著『婚活時代』(ディスカバー21)がある。近著は、『産後クライシス』(ポプラ新書)、国立成育医療センター母性医療診療部不妊治療科医長、齊藤英和先生との共著で『妊活バイブル』(講談社)、『女子と就活 20代からの就・妊・婚講座』(中公新書ラクレ)。