イングランド南部にある、ストーンヘンジ(Stonehenge)という先史時代の巨大遺跡群をご存知でしょうか? いわゆるストーン・サークル(環状列石)と呼ばれ、世界屈指の有名な古代遺跡されています(世界遺産には1986年に登録)。ストーンヘンジはイギリス国内で2,000以上もあると言われるストーン・サークルのなかでも規模が大きく、約5000年前に建てられて以来、世界中の多くのミステリーファンの興味と関心を惹きつけています。

広大な草原の中にそびえ立つ、ストーンヘンジ

ストーンヘンジは、ロンドンから西へ約200km。ロンドンから公共の交通機関で向かう場合は、列車でソールズベリー(Sailsbury)駅まで出て(約1時間半)、そこからバスで(約30分)で行く方法がありますが、あまり交通の便はよくないため、レンタカーやツアーで行くのが賢明といえるでしょう。

私も日本のテレビ番組の特集でストーンヘンジを見て以来、ぜひ訪れてみたい場所の1つでした。幸運なことに渡英してすぐ、そのチャンスは巡ってきました。当時通っていたコッツウォルズの語学学校で、「ストーンヘンジ・ソールズベリー日帰りツアー」が催行されることになったのです。

広大でどこまでも地平線が見渡せるソールズベリー平原を車で走っていると、前方に突然、ストーンヘンジがその姿を現しました。「あれ、思っていたより小さいな」というのが私の正直な感想ですが、その謎めいた存在は、実際に訪れてみて初めて感じることができるものでしょう。ここに特別なエネルギーが存在していると言われると、妙に納得できてしまうのはきっと私だけではないはずです。

エントランスで入場料を払い、道路下のトンネルをくぐると、小さいなんて思っていたのが間違いだったことに気づきました。すぐ目の前に巨大な石がせり立っているのです。周囲は本当にただの緑の平原で、羊たちがのんびりと草を食んでいます。山もなければゴツゴツとした岩もまったくない。そんな中にポツンとある巨石群だからこそ、異様なのです。昔の人々によってこれらの巨石が魔女や巨人によって運ばれた、と言い伝えてられていたのも無理はありません。

携帯電話のような形をした音声ガイドを入り口で入手できる。歩道に沿って歩くと、ストーンヘンジを360度の角度から見られる

以前は巨石群のすぐ側まで行くことができたようですが、今ではすっかり観光地化されてしまっていて、周りにはロープが張り巡らされています。なので、エントランスで音声ガイドを入手したら、日本語での解説を聞きながら、ゆっくりとストーンヘンジを1周してみましょう。

ここが一番ストーンヘンジに近づけるポイント。写真では見えにくいが、中に入れないようロープが張り巡らされている

大きな石は高さ7mにも及び、まさに巨石である。写真のように倒れている石も多く見られる

ストーンヘンジは、ドルイト教、ペイガン信者たちが儀式をしているというちょっと怖いイメージもあるのですが、そのほかに太陽崇拝の祭祀場、古代の天文台、果ては宇宙交信基地として造られたなどの数々の説があります。さらに2008年春から行われた大規模な発掘調査によって、また新しい説が浮上しているようです。

なんでも、その発掘調査のスポンサーとなったBBCによると、ストーンヘンジは「ヒーリング(治療)」目的で作られた可能性があるとのこと。ストーンヘンジを構成する石の中に「ブルー・ストーン(玄武岩の一種)」と呼ばれる石があり、古代の人々はこのブルー・ストーンをヒーリング・ストーンとして用いたというのです。

とはいっても、まだまだストーンヘンジの謎は残り、いずれにしても1つあたり数十トンもする大量の巨石たちをこんなところまで運んできたのだとしたら、古代の人々のエネルギーには感心せざるを得ません。

ストーンヘンジの歴史は三段階を経てきたとされています。まず、約5000年前になる紀元前3000年頃のストーンヘンジは、円形の土手と堀のみで、集会所のような場所であったと信じられています。現在も残っている巨石の外側の大きな円形のお堀がそれにあたります。

ストーンヘンジ手前に見えるくぼみが、ストーンヘンジ初期の段階に造られた円形の堀の一部

やがて、第二段階ではここに木造構造物が出現したとされていますが、実際にはどのようなものだったのは定かではありません。最終段階には、30km離れたマルボロー丘陵から運ばれたサーセン・ストーン(砂岩の一種)で、その内側にはなんと250kmも離れた場所にあるウェールズのプレセリ山から運ばれてきたブルー・ストーンで、ストーン・サークルが造られました。

写真中央に見られる横石同士は、溝でジグソーパズルのようにぴたりと組み合わさっている(さねはぎ式)

写真の一番高い石の上に突起が見えるだろうか? 立石と横石は凹凸でしっかりと固定されている(ほぞさし式)

私の場合、春(3月)と秋(11月)の異なる季節にストーンヘンジを訪れる機会がありました。季節が違うとストーンヘンジを見る角度や太陽の傾き具合、日の当たり具合によっても、その印象は随分と変わってくて感慨深いものがありました。

11月初旬の夕焼けに映え、いっそうその神秘性を増す、ストーンヘンジ

太陽が石の間から見える、日の出・日の入り近くがベストの時間帯という意見も多いようですが、太陽だけではなく、その上空の空の色や雲の形までストーンヘンジの印象に大きな影響を与えているといってもよいでしょう。私もストーンヘンジを訪れていた1時間ちょっと間に、目まぐるしく変わる様子に飽きることがなかったものです。古代の人々もこの場所で、同じ風景を同じように見ていたのかもしれません。

さて、ストーンヘンジから北へ約30kmのところにあるエーヴベリー(Avebury)にもストーン・サークルがあり、こちらも世界遺産に登録されています。石の1つ1つはストーンヘンジのものより小さいのですが、約紀元前2500年前の遺跡としてはヨーロッパ最大規模を誇り、見ごたえのある古代遺跡です。古代遺跡ファンの方ならもうご存知かもしれませんね。

イギリスではあちこちでストーン・サークルが見られる。こちらはスコットランド、キルン(Killen)付近の小さなストーン・サークル

ストーンヘンジ最寄りの街、ソールズベリーの大聖堂(Salisbury Cathedral) 。イギリスで最も高い尖塔(123メートル)を誇る

また、ストーンヘンジの観光の拠点となる街、ソールズベリーにもぜひ立ち寄って見ましょう。ソールズベリーは自然に囲まれた、落ち着いた街。街のシンボル、ソールズベリー大聖堂はイギリス一高い尖塔のある大聖堂として知られ、ここには世界憲法のモデルとなったイギリスの大憲章『マグナ・カルタ』の写本や、動いている時計のなかでヨーロッパ一古いと言われる時計などが収められています。前述したように、ストーンヘンジの近辺には何もないため、ストーンヘンジ観光の際に食事や休憩で立ち寄るなら、ソールズベリーは持って来いの街です。

皆さんもロンドンへ行く際は、日帰りの旅をぜひ楽しんでくださいね!