新型で通算16代目となるトヨタ自動車の「クラウン」ですが、その長い歴史の中には少しとがりすぎていて、販売実績としてはあまり振るわなかったモデルがあるそうです。どんなクラウンだったのか、モータージャーナリストの内田俊一さんに聞きました。

  • トヨタの4代目「クラウン」(通称:クジラ)

    不人気だった? トヨタの4代目「クラウン」(通称:クジラ)

オーナーの1歩以上先を行ってはいけない?

トヨタの高級車として君臨し続けてきたクラウン。新型で16代目となる息の長いクルマだ。これまでさまざまなモデルチェンジを繰り返してきた中で、異例ともいえるのが4代目、通称「クジラ」のクラウンだ。丸みを帯びたボディに2段形状のフロントを備えたその見た目から、かくも不思議な呼ばれ方をしたのである。

クジラこと4代目クラウンがデビューしたのは1971年2月のこと。2代目、3代目のアメリカナイズされた直線基調のデザインから一変し、丸みを帯びたヨーロッパ車のような姿で登場した。当時のトヨタは、欧州車が日本でも台頭してくることを想定していたようだ。

しかし、このクラウンはあまり売れなかった。どちらかというと保守的なクラウンユーザーにとって、4代目は少し先を行き過ぎていたのだ。さらには冷却関係でオーバーヒート気味になるなどの不具合も発生し、クラウン人気に影を落としてしまったのも事実である。実際に販売台数も、1970年の8万台に対し1972年には6.4万台となり、先代のモデル末期だった頃よりも大きく減らしている。ただ、4代目クラウンは現代の私たちが見ても、古臭さを感じさせないデザインであることは確かだ。

  • トヨタの4代目「クラウン」(通称:クジラ)
  • トヨタの4代目「クラウン」(通称:クジラ)
  • トヨタの4代目「クラウン」(通称:クジラ)
  • 令和の日本を走っていたら、かなり渋くてカッコいいと思うのだが…

クジラクラウンがクラウンというブランドに残した教訓は、「ユーザーの先を行きすぎてはいけない」ということ。新型クラウンの発表会でトヨタの豊田章男社長は、「クラウンは決してお客様の先を行き過ぎてはいけない。この4代目以降、歴代の主査たちは、革新への挑戦とお客様への期待の両立に苦悩しながらクラウンの開発を進めることになる」とコメントした。

  • トヨタの4代目「クラウン」(通称:クジラ)

    「クジラクラウン」には2ドアハードトップバージョンもあった

4代目が先を行き過ぎていた証拠といっては変だが、このクルマ、機能面でもさまざまなトライをしている。装備としては燃料の残量警告などが付いていたし、いまでこそあたりまえのATも電子制御のもの(ハードトップSLにオプション設定)だし、ESC(電子制御式スキッドコントロール、横滑り防止装置)も搭載するなど、安全装備の面においても先駆け的な存在といっていいだろう。