メルセデス・ベンツのクルマは、アルファベットと数字を組み合わせた車名を名乗っています。「フィット」とか「ノート」であればどんなクルマか思い浮かぶのですが、「A200」「C200」「E200」といわれても、大きさや形がすぐには想像できません。これらの車名に何か法則はあるのでしょうか? モータージャーナリストの内田俊一さんに聞きました。
戦前から数字を活用
メルセデス・ベンツ(ダイムラー)の歴史を紐解くと、当然ながら戦前まで遡ることになる。
黎明期には、エンジンの馬力などがそのまま車名に使われていた。その後は排気量やボディタイプ、あるいはエンジンの種別などが加わっていく。例えば、昭和天皇がお乗りになっていた「770」は「7.7Lエンジン」という意味だ。因みに770Kという車両も存在し、これはコンプレッサー(スーパーチャージャー)を搭載し、素の頭文字の「K」がくっついた車名だ。当時としては最も大きく、最もパワフルなクルマだった。皇室には全部で7台の770が納入され、そのうちの1台は本国の博物館に展示されている。付け加えると「K」は、コンプレッサーの頭文字以外にドイツ語の「Kurz」(英語で「Short」)の意味を持つ場合もある(例えば「SSK」など)。
こういった大型車以外に、メルセデスは早くから、いまに続くコンパクトな実用車も作っていた。ニューヨークのウォールストリートに端を発する大恐慌で世界が混迷していた1929年には、1,692ccのコンパクトな「170」を発売。その後は、さらにコンパクトな「130H」もデビューする。「130」は1.3L、「H」はHeckmotor、つまりリアエンジンを意味していた。
組み合わせでクルマの種類はわかる!
さて、戦後に目を移そう。メルセデスがフラッグシップモデルに初めて「S」という文字を使ったのは、1956年の「220S」だった。「S」はSuperの意味だ。この時の「S」はエンジンの高出力化を意味しており、同時にデビューした「SE」はEinspitz(ドイツ語で噴射の意、つまり燃料噴射装置付き)を意味する「E」との組み合わせだった。近年も使われている「SEL」の「L」はLang(ドイツ語で長い)で、ロングホイールベースを意味している。
その後、SやSEといった車名は断続的に登場したが、現在の「Sクラス」につながるクルマは1965年の「300SE/300SEL」(W108/W109)だ。「Eクラス」は1985年の「W124」から、「Cクラス」は1993年に登場した「W202/S202」からである。
もうひとつ、記号性という意味で付け加えるなら、「C」はクーペ、「G」はSUV、「T」はワゴンの意味も持たされていた。
このように、年代によって数字や記号を組み合わせ、車名を作り上げてきたメルセデス。数字の前に記号を置いたりあとに持ってきたりと、数多くの変遷があった。
現在のラインアップは、小さい方から「Aクラス」「Bクラス」「Cクラス」「Eクラス」「Sクラス」「Gクラス」となっている。それぞれのクラスのあとに数字を組み合わせるが、それは排気量、あるいはターボなどにより、その数字に近い排気量レベルのパワーを持ち合わせていることを表している。
Gクラス以外のSUVは、車名の初めに「GL」がついて、そのあとに上記のクラスが明記される。例えばAクラスの(同社の中では小さい)SUVは「GLA」といった具合だ。SUVでありながらクーペライクなボディタイプを持つクルマは「GLAクーペ」などと名乗る。
一見すると複雑怪奇なメルセデスの車名だが、過去に比べればロジックは明快だ。現在のラインアップであれば、車名を見ただけでクルマの大きさ、ボディタイプ、大体の排気量を想像することができる。