街を眺めていると、さまざまなボディカラーのクルマが走っています。中には、ラッピングを施した“痛車”など、イラストが描かれたクルマもあります。では、道路交通法をはじめとする法律において、禁止されているボディカラーなどはあるのでしょうか。モータージャーナリストの内田俊一さんに聞きました。

  • ポルシェ

    昔は禁止のボディカラーがあった?

消防車と間違えやすい?

結論から述べると、公序良俗に反しない限り、クルマを何色に塗っても違反などでとがめられることはない。警察車両と同じように、白黒の2トーンで塗り分けることも可能なのだ。ただし、そこに「警視庁」などの名称を書き込むことは禁じられている。

しかし、歴史をさかのぼると昭和30年代、禁止されていたボディカラーがあった。それは“赤”だ。

  • ホンダの新型「シビック」

    昔は赤いクルマが禁止だった。その理由とは?(写真はホンダの新型「シビック」)

当時の運輸省曰く、消防自動車と間違えやすく、紛らわしいというのが理由だった。当時は自動車の台数が150万台程度であったことから、こんな措置が取られたものと思われる。

そこへ風雲児が現れた。ホンダの創業者、本田宗一郎だ。

二輪車メーカーだったホンダが、四輪車に打って出るために開発したのが軽スポーツカーの「スポーツ360」と軽トラックの「T360」だった。当時はまだ建設中だった鈴鹿サーキットで1962年6月、関係者にお披露目され、その後に開催された第9回全日本自動車ショーにも登場。そのスポーツ360に与えられたボディカラーが赤だった。

  • ホンダ「スポーツ360」復元車
  • ホンダ「T360」
  • 左が「スポーツ360」復元車、右が「T360」(ホイールはノンオリジナル)

赤のボディカラーは法律で規制されていたが、本田宗一郎と関係者は運輸省に出向き説得を開始。「こんなに小さくて背の低いクルマは、ボディカラーで目立たなければ危険だ」という理由で、赤の使用許可を取り付けた。民間では国内初のボディカラーだった。

結局のところ、このスポーツ360が日の目を見ることはなかった。ホンダはまず、軽トラックのT360を市販化し、続いて「S500」を市場に投入することになる。

  • ホンダの「S500」「S600」「S2000」

    「S500」「S600」、そして「S2000」

スポーツ360が市販化に至らなかった理由はあまたあるようだが、ホンダによると、輸入自由化を前に「車種グループ」を規定し、担当する自動車メーカーを制限・育成することを想定していた「特振法」が施行予定だったことが、理由のひとつとして挙げられるとのこと。360ccの軽自動車と500ccの小型車の両方の生産実績を得ることで、ホンダが2つの「車種グループ」で生産を行う自動車メーカーとなることを目指した動きだったのだ。また、海外進出を見越して排気量をアップさせたという側面もある。国内自動車メーカーの保護を目的とする一方、自由な競争を制限する特振法はのちに廃案となった。

現在、スポーツ360は1台も存在が確認されていない。ホンダが当時のパーツなどを使って復刻したモデルが1台あるだけだ。