JR顔負けのネットワークを誇る近畿日本鉄道の特急列車。2020年春には新型特急車両が登場する予定で、ますますの発展を予感させる。今回、大阪難波~近鉄名古屋間を結ぶ名阪特急に乗る機会を得た。往路は名阪乙特急、復路は名阪甲特急に乗車した。

  • 近鉄大阪線を走行する「アーバンライナー plus」(写真:マイナビニュース)

    近鉄大阪線を走行する「アーバンライナー plus」

まずは近鉄特急の概要を確認しておきたい。近鉄はJR以外の民鉄で最長となる計500kmを超える路線網を有し、特急列車が縦横無尽に走る。2019年8月現在、8系統で特急列車が定期運行されている。

  • 名阪特急 : 大阪 - 名古屋
  • 阪伊特急 : 大阪 - 伊勢志摩
  • 名伊特急 : 名古屋 - 伊勢志摩
  • 京伊特急 : 京都 - 伊勢志摩
  • 京橿特急 : 京都 - 橿原神宮前
  • 京奈特急 : 京都 - 奈良
  • 阪奈特急 : 大阪 - 奈良
  • 吉野特急 : 大阪 - 吉野

近鉄特急は同社の特急車両で運行されるため、乗車券の他に特急券が必要となる。車内は全車指定席となっており、特急券を購入すれば確実に着席できる。

もうひとつの特徴として、ネットワークを生かした特急列車同士の乗換えができることが挙げられる。たとえば、大阪難波駅から阪伊特急で伊勢中川駅まで乗車し、伊勢中川駅で名伊特急に乗り換え、近鉄名古屋駅へ行くことも可能。大和八木駅や伊勢中川駅などの乗換駅で30分以内の接続であれば、特急券は1枚で済む。

  • 「チケットレス特急券」で送られる特急券情報

近鉄特急への乗車に必要な特急券の購入方法は複数あり、近鉄の専用ホームページから購入できる「チケットレス特急券」がおすすめ。「チケットレス特急券」にすることで、特急券情報がメールで送られ、当日は乗車券を購入して近鉄特急に乗車するだけとなる。しかも、時期や区間によっては割引価格が適用される。発車直前でも購入できることから、近鉄特急に乗車する際はぜひ「チケットレス特急券」を試してほしい。

■名阪乙特急、大阪線・名古屋線の主要駅にこまめに停車

7月の平日、筆者は大阪難波駅を10時30分に発車する近鉄名古屋行の特急列車に乗車した。近鉄特急において、停車駅の少ないタイプは「甲特急」、停車駅の多いタイプは「乙特急」と呼ばれる。名阪特急の場合、大阪難波駅を毎時0分に発車する列車が甲特急、毎時30分に発車する列車が乙特急となっている。

発車10分前の10時20分頃、近鉄名古屋行の特急列車が8両編成で入線した。車両は21000系「アーバンライナー plus」。近鉄特急の看板車両である「アーバンライナー next」「アーバンライナー plus」はおもに名阪甲特急で使用されるが、時刻表を見ると名阪乙特急などで使われる機会も多いようだ。

「アーバンライナー plus」は8両編成のうち、1両がJRのグリーン車にあたるデラックスカー、その他の車両はレギュラーカーになる。筆者はレギュラーカーに乗車した。

10時30分に大阪難波駅を出発すると、大阪市内の大阪上本町駅と鶴橋駅に停車。鶴橋駅を発車した後、布施駅で奈良線と別れ、大阪線を走行して大和八木駅をめざす。鶴橋駅発車時点で乗車率は3~4割ほど。ただし、近鉄特急は自ら席を指定しなくても特急券を購入できるため、車両によって乗車率にばらつきがある。

11時頃、大和八木駅に停車。橿原線と接続する主要駅だが、乗降客は少なかった。特急列車はその後も大阪線を走行し、11時24分、名張駅に停車する。駅のある名張市は三重県の西側に位置する町だが、ここから鶴橋駅まで快速急行でも約1時間で到達できるため、大阪への通勤圏の東端と考えることもできる。

名張駅から先は列車の本数が少なくなり、すれ違う普通列車も2両編成となる。30パーミル超の急勾配も存在するが、特急列車は100km/h以上のスピードで乗り越える。西青山~東青山間にある全長約5.6kmの新青山トンネルを抜けると、名古屋がかなり近づいたような感覚になった。

11時50分頃、特急列車は一気にスピードを落とし、伊勢中川駅付近の中川短絡線を通過。進路を東から北に変え、大阪線から名古屋線に乗り入れる。

11時58分、三重県の県庁所在地である津駅に停車。大阪方面からのビジネスマンが多数下車すると同時に、名古屋方面へ向かうビジネスマンと地元客も乗車した。車内では車掌から直接、特急券を購入する姿を見かけた。大阪線と比べて、名古屋線を走る特急列車はより気軽に利用できる存在のように見える。津駅を発車した後、列車は白子駅、近鉄四日市駅と三重県内の主要駅にこまめに停車する。

12時32分、最後の途中停車駅である桑名駅に着いた。元近鉄の養老鉄道養老線と三岐鉄道北勢線、JR関西本線に乗換え可能で、桑名駅の手前では標準軌(近鉄)・狭軌(JR)・ナローゲージ(三岐鉄道)が並ぶ全国でも珍しい踏切を見られる。

桑名駅から再び速度を上げる。12時49分、定刻通りに近鉄名古屋駅に到着した。大阪難波駅を発車して2時間19分が経過していた。

  • 近鉄名古屋線を走行する「アーバンライナー plus」

筆者が乗車した車両では、名古屋まで乗り通した人は筆者以外に訪日外国人観光客のみだった。乗客の動きを見ると、名阪乙特急は大阪市内の各駅から三重県内の各駅、三重県内の各駅から近鉄名古屋駅までの利用が多かった様子。前者は並行する高速バスが少なく、乗換えも不要であることから需要が高いと考えられる。後者は三重県内の主要駅から近鉄名古屋駅に先着する優等列車が少ないことに起因するかもしれない。

参考までに、昼間時間帯、津駅から近鉄名古屋駅へ運行される急行は1時間あたり3本。20分以上の間隔が空く場合もある。

■名阪甲特急は東海道新幹線より格安、なんば直結も強み

近鉄名古屋駅からの復路は名阪甲特急に乗車した。帰りの時間が読めなかったこともあり、筆者は駅の自動券売機で特急券を購入し、近鉄名古屋駅を16時0分に発車する大阪難波行に乗ることになった。

  • 近鉄名古屋駅の自動券売機で購入した特急券

停車駅の少ない名阪甲特急は、近鉄特急の中でもシンボル的存在。大阪難波~近鉄名古屋間で運行され、長きにわたり鶴橋~近鉄名古屋間ノンストップだったが、2012年3月のダイヤ変更後はすべての名阪甲特急が津駅に停車するようになった。一部列車は大和八木駅にも停車する。2019年8月現在、大阪難波~近鉄名古屋間の所要時間は最速で2時間5分。乗車券・特急券の合計額は4,260円である。

大阪と名古屋を移動する際、別の選択肢として東海道新幹線が挙げられる。「のぞみ」に乗車した場合、名古屋~新大阪間の所要時間は約50分、乗車券・特急券の合計額は指定席(通常期)が6,560円、自由席が5,830円となる。

名阪甲特急と東海道新幹線を比較した場合、所要時間や列車の本数ではかなわないが、料金が安いことと、大阪ミナミの中心・なんばへ乗換え不要であることは名阪甲特急の強みとなりうる。東海道新幹線は名古屋駅発着で大阪方面へ向かう列車が少なく、自由席も指定席も希望通りの席に座れるとは限らない。全車座席指定で運行される名阪甲特急は、着席が保証されているという点でも魅力的な列車といえるだろう。

近鉄名古屋駅では昼間時間帯、毎時0分に名阪甲特急、毎時30分に名阪乙特急、毎時10・50分に名伊特急が発車する。15時50分に鳥羽行の特急列車が発車すると、すぐに大阪難波行の特急列車が入線した。ノンストップ時代は「大阪の鶴橋まで止まりません」という放送が流れたものだが、現在は「津まで止まりません」という内容になっていて、ノンストップ時代を知る筆者からすると少し寂しく感じられた。

車両は往路と同じ21000系「アーバンライナー plus」。2003年に登場した21020系「アーバンライナー next」は2編成の製造にとどまっていることから、おのずと「アーバンライナー plus」に乗車する率が高まるようだ。

「アーバンライナー plus」は2003~2005年に行われたリニューアルにより、普通車にあたるレギュラーカーの座席は「ゆりかご型シート」に変更された。リクライニングすると連動して座面も沈み込むため、腰と座席の間に妙な隙間ができず、一般のリクライニングシートより座り心地は良い。レギュラーカーでありながらフットレストが設置されている点も見逃せない。

16時ちょうど、「ドナウ川のさざなみ」の発車メロディーとともに、列車は近鉄名古屋駅を発車した。車内では関西弁が聞こえ、この列車が名阪間の直通客をターゲットにしていることを実感する。客層はビジネスマンと女性客が半々といったところか。

名阪甲特急は、名阪乙特急や名伊特急が停車する桑名駅、近鉄四日市駅、白子駅を通過。近鉄名古屋駅から大阪難波駅まで、名阪甲特急と名阪乙特急の所要時間の差は10分ほどだが、停車駅が少ないこともあってか、名阪甲特急は時間差以上に速く感じる。

16時44分、津駅に停車。降車はほとんどなく、ビジネスマンが多数乗り込んできた。車内では車掌による「鶴橋まで止まりません」という内容の注意喚起が繰り返された。津駅を発車した時点で、乗車率は3~4割ほど。まだ夕方のラッシュ時間帯にさしかかっていないこともあってか、車内は落ち着いた雰囲気だった。

16時55分頃、伊勢中川駅近くの中川短絡線を通り、南から西へ進路を変える。新青山トンネルを通過する際、車内に表示された速度は125km/h。名阪甲特急の最高速度は130km/hを誇り、民鉄ではトップクラスの速さだ。

大阪線の主要駅である名張駅や大和八木駅も速度を落とすことなく通過。鶴橋駅の手前で徐行運転となり、18時すぎに同駅に着くと、大半の乗客が下車した。終点の大阪難波駅には定刻より4分遅れ、18時10分に到着した。

  • 「アーバンライナー plus」は近鉄大阪線を走り、終点の大阪難波駅へ

  • 洗面所に用意されたおしぼり。近鉄特急に使用される車両がデザインされている

ところで、近鉄特急といえばおしぼりをイメージする人も多いかもしれない。かつて「アーバンレディー」と呼ばれる女性乗務員がおしぼりを配っていたという。現在は洗面所におしぼりが備え付けられている。なお、名阪甲特急の車内販売は土日ダイヤの14往復、計28列車で実施されているとのことだ。

■期待がかかる新型名阪特急、2020年春デビューへ

近鉄は2018年1月、名阪特急に新型車両を導入すると発表。2020年春の運行開始を予定しており、計72両(6両編成×8編成、8両編成×3編成)製造される。

  • 近鉄の新型名阪特急。2020年春に運行開始する予定とされている

新型名阪特急の最大の目玉は、日本初となる全席バックシェルを備え付けることだろう。これにより、後部座席に気兼ねなくリクライニングできるようだ。新型車両の登場で、ますます「近鉄特急らしさ」に磨きがかかることを期待したい。