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近所をブラブラ、略して「近ブラ」。
遠くに行かなくても、家の近くに魅力的なスポットは意外とたくさん見つかるもの。街の老舗店や新しくできたカフェ、ディープな路地裏のお店など、ちょっとそこまで出かけてみては?
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千駄木駅前の団子坂交差点を谷中方面へと向かう「三崎坂」。ゆるやかな坂道沿いには老舗の飲食店や古民家カフェ、銭湯、雑貨屋などが並び、谷根千を近ブラするには最適のコースだ。
その中腹に、多くの人々が足をとめる江戸情緒が漂うお店がある。「菊寿堂いせ辰 谷中本店」(以下、いせ辰)だ。
いせ辰は、江戸時代末期の1864年ごろに創業。以来150年以上にわたり、江戸千代紙の制作・販売を行う専門店だ。
もとは神田に店を構えていたが、関東大震災や第2次世界大戦により、お店の大切な財産である千代紙の版木を焼失。今度震災が起きても大丈夫なようにと、4代目辰五郎氏のときに谷中の地へ移ってきた。現在は5代目として、4代目の子供たちが兄妹でのれんを守っている。昭和の12年ごろに移ってきた
職人の手作業で生み出される色鮮やかな「江戸千代紙」
江戸千代紙とは、奉書紙という種類の和紙に、絵柄が手摺りされたもの。
「いせ辰で扱う柄は約1000種類にものぼり、すべてオリジナル。現在も職人の手によって新作を発表しています。江戸の風俗習慣や歌舞伎、伝統的な模様などがモチーフになっていて、当時の庶民の"粋"が詰まっています」
と話すのは、いせ辰谷中本店の山崎さん。
江戸千代紙は、絵師、彫り師、摺り師という職人たちの仕事を経て作成されるため、非常に手が込んでいるのが特徴。特に「摺り」は、版木に1色ずつ色を重ねる工程をすべて手で行うという大変な作業だ。
そのため、1枚数千円~と、一般的な千代紙に比べてやや高額になる。
「以前は流通量も多く安価で手に入っていたため、包み紙やお人形の着物のお衣装などに気軽に使われていましたが、現在は価格も高くなってしまい、額に飾って鑑賞されるのが主流となりました。四季やその日の気分に合わせて変えていただくのも素敵ですね。また、ブックカバーとしてお求めになる方も多いようです」(山崎さん)
目指すのは、サンダル履きで気軽に来れるお店
お店に訪れる客層は幅広く、谷根千の散歩に訪れた若い女性客や家族連れ、昔を懐かしみながら手にとる年配の方、そして海外からの観光客も多い。
「特に千代紙はヨーロッパの方に人気で、みなさん目を輝かせながらご覧になっています。谷中本店から歩いてすぐのところにある千駄木店では浮世絵も取り扱っています」(山崎さん)
千代紙の他に、ガーゼタオルや風呂敷、ご祝儀袋などさまざまな和雑貨も豊富に取り扱う。自分用としてはもちろん、お土産やお中元・お歳暮などのご進物、ちょっとしたお礼などにも人気で、普段使いの店としてご近所の人からもよく利用されている。
「谷根千はこの数年で本当に観光地化しました。以前よりもずっといろいろなところからいらっしゃるようになったのは事実です。しかし、うちの先代は、『気取っていてはいけないんだ。ちょっと行ってくるわね、とサンダル履きで来ていただけるようなお店にしなくてはいけない』というのが常々の考えでした」(山崎さん)
江戸時代からの伝統を受け継ぎながら決して気取ることはなく、今も昔も庶民の生活に寄り添い、愛される店・いせ辰。あなたの生活にも粋を取り入れてみてはいかがだろうか。
●お店データ
菊寿堂いせ辰 谷中本店
東京都台東区谷中2-18-9
年中無休