「勤勉さ」のポジティブな側面を"強み"として生かす

「日本経済の高度成長を支えてきた職務に忠実な日本人の勤勉さこそが、令和を迎えた今の日本の停滞の主因になっている」というのが、私の持っている仮説です。

もちろん、日本人が持つ特性は、ここで問題にしている勤勉さばかりではなく、ほかにもたくさんあります。例えば、日本人同士なら互いに空気を読むことの大切さを体が覚えていて、読む力も十分に備えているのが普通です。

したがって、その空気を互いに感じ取っていて、単に言葉が通じるというだけではない、同じ感覚を共有しているというある種の安心感を持っているのです。

これは外国人、特に欧米人と一緒に仕事や生活をした経験がある人なら、ほとんどの人が同じような感覚を一度は持ったことがあるのではないでしょうか。こうした私たち日本人の特性は、場合によっては同調圧力を生みやすくしている、といったネガティブな側面としても表れます。

  • 日本人特有の「空気を読む」大切さの良し悪し

こうした勤勉さやまじめさといった特性は、使い方次第で「毒」にも「薬」にもなる日本人の持ち味です。であれば、その特性を有効に活用しない手はありません。日本人が持つ特性を、マイナスに作用させるのではなく、強みとして生かし、日本の将来のために有効に活用するべきです。

日本という国は、私たちが普段感じている以上に、その類いまれな勤勉さに代表される独特の色合いをあちこちに持っている国です。そういう意味では、日本人の持つ勤勉さの気質そのものの背景を少し前の歴史まで振り返ることで、その本質を理解することも可能になるのです。

そして、そこにある問題点をしっかりと認識した上で、日本独自の強みを見出し生かすことこそが今、求められているのです。

「勤勉1.0」と「勤勉2.0」~5つの視点~

では、「職務に忠実な勤勉さ」とは、どのような中身なのでしょうか?

今の日本の停滞を生んでいる、安定をただひたすら求め、組織への同化と思考停止をもたらす勤勉さを、自分の頭で考えることをやめた「勤勉1.0」と位置づけました。

下記の「勤勉1.0」との対比の表で示した「勤勉2.0」こそ、今後、私たちがめざすべき勤勉さです。

日本が停滞から脱するためにも、「勤勉2.0」を実践する「当事者」、つまり「今の厳しい現実に自分の意志で向き合おうとする人々」を生み出していく必要があるのです。

では、日本的「勤勉」の中身を見てみましょう。

1.思考の型

枠内思考:定型業務を効率的にさばくことに適した思考。

ルールや約束事、前例などを枠として捉え、その枠の範囲で「どうやるか」を考える。新しい価値を創っていこうというときには向かないが、すでに経験のある業務のオペレーションには有効に機能する。

軸思考:「そもそもの目的や、持っている意味、もたらす価値」を考え抜く思考。

“軸”とは、自分たちの頭で考え抜いた新しい価値を創り上げていくときの拠り所にする仮説。思考姿勢でもあり、判断基準でもある。「軸思考」には「何が大切なのか」をしっかり考える基本姿勢があり、自分の意見を持っているということでもある。

2.場の違い

閉じる場:前例踏襲や予定調和を前提としてつくられている"場"

滞りなく安定的にとり行われることがすべての前提になっている。「閉じる場」の強みは安定性。余分なゴタゴタを起こさないし、持ち込まない。「枠内思考」の温床であり、助長する場にもなってしまう。

拓く場:「拓く問い」と向き合う予定されたシナリオを持たない"場"

「拓く問い」とは、「答えが一つとは限らない、自分の頭で考えることを必要とする問い」のこと。

「拓く場」でその問いに仲間とともに向き合うことで、考える力(軸思考)が磨かれる。しかし、効率的ではないように見えるので、日本では敬遠されがちである。

3.仕事に向き合う姿勢

役職意識:自身の役職として与えられたことをまっとうしようとすること

日本の企業はこの意識が強い。自分の責任範囲をあらかじめ決めてしまい、自部署以外の仕事をしなくなり、その結果、"枠"として機能しやすくなる。

役割意識:そもそも自分はこの会社で、どういう役割を果たせばいいのだろう」といった「意味や目的、自分の役割がもたらす価値」などを深く軸思考すること

自分の役割を問い直すことで自分の役割に広がりと深みが出てくる。

4.結論のありよう

確定した結論:中身をしっかりと作り込んだ設計図に沿った工程で計画的に進捗させていく仕事の進め方をするために、ロジカルな推論で導き出し確定させた"結論"のこと

拓かれた仮説:"仮説"として未確定にしていくにしておくことで、関心を持つ人の意見を織り込める可能性を引き出しうる結論のこと

試行錯誤と問い直しによる仕事の進め方を当たり前にするために、「拓かれた仮説」で関心のアンテナを刺激し、当事者の姿勢を引き出す。

5.仕事のやり方

予定調和・前例踏襲:そもそも最初から確定している結論に向かって、そこから逆算した道筋をたどっていく仕事の進め方

前例という過去の経験を"枠"として、それをなぞってことを進めるため、新しい発想や頭を使って考えることは必要ない。その限りでは効率的。

試行錯誤・問い直し:環境が激変する中で新しい価値を創り出そうとするとき、「ものごとの意味や目的、価値を考え抜く力」

例えば、「そもそも自分はこの会社でどういうミッション(使命)を果たすべきなのか」といったことを問い直し続け、試みと失敗を繰り返しながら、次第に見通しを立てて解決するための適切な方法を見出していくこと。

著者プロフィール:柴田昌治(しばた・まさはる)

株式会社スコラ・コンサルト創業者。30年にわたる日本企業の風土・体質改革の現場経験の中から、タテマエ優先の調整文化がもたらす社員の思考と行動の縛りを緩和し、変化・成長する人の創造性によって組織を進化させる方法論「プロセスデザイン」を結実させてきた。最新刊に 『日本的「勤勉」のワナ まじめに働いてもなぜ報われないのか』(朝日新聞出版)。