"must"と"have to"と言えばどちらも「~しなくては」といった意味合いで使われることは皆さんもご存じ。しかしこの2つ、どちらの方がその度合いがより強いのでしょう!?

ま-、普段なにげに使う分にはそれほどシビアになる必要はなく、たとえば、友人宅を訪ねていて夜も更け「遅くなったからそろそろ帰らなくちゃ」と告げるのに、

It's getting late. I must go.
It's getting late. I have to go.

のどちらで言っても、発話者であるあなたが「そろそろおいとましたい」という思いでいることは通じます。でももしこの2つの表現が持つニュアンスを一段深く掘り下げてみると、そこには思いのほか大きな違いがあるんです。

その違いとは : 筆者が皆さんの訪問相手だとしたら、

It's getting late. I must go. へは、

「まだいいじゃない」とか「もう少しいいじゃない」

It's getting late. I have to go. へは、

「そうか、それじゃまた遊びに来てね」

といったような返事を返すでしょう。でもそれはなぜ???

"must"も"have to" も"obligation(義務、責任)"からなる「~しなくては」といったことを言うことでは大差はないんですけど、"must"は他にも発話者や相手の「気持ち、意見、思い、願い」などを表すときに使われることがあり、そのときの"must"は"want(~したい)"、"should(~すべき)"、"had better(~した方がいい)"といったような言い回しと同じような意味を持ってしまうんです。

つまり後者の感覚では、上例での"It's getting late. I must go."は「帰らなくてはならない」ではなく、

It's getting late. I want to go.
(夜も更けてきているから、おいとましたい)
It's getting late. I should go.
(夜も更けてきているから、おいとますべき)
It's getting late. I'd better go.
(夜も更けてきているから、おいとました方がよい)

などのように、発話者の気持ち、思い、または、意見として取られてしまうことがあるんです。

一方"have to"の方はここではたとえば「明日が早いので」「人が家で待っているので」、「人との約束があるので」、「もう一軒よるところがあるので」、「列車やバス、または飛行機などの時間があるので」など、「そうしないと何か他に支障が出る可能性がある」といったニュアンスを含むんです。だから上例では無理に止めようとしなかったというわけ。

もう少しこういった観点での例を見てみましょう。

例1 : タバコをやめる

"I must stop smoking."と言えば、それは"I want to stop smoking./I should stop smoking./I'd better stop smoking."と同じ。つまり希望願望を言っていることになります。しかしもし医者がタバコをやめるように勧めていることを言うとするなら、さもないと健康面での危険が伴うということから、"My doctor says I must stop smoking."ではなく"My doctor says I have to stop smoking."となるべき。つまり「医者が言うなら止めるしかない」といった感覚です。

例2 : レストランでお勧めを言うとき

"If we go to that restaurant, we must try calamari steak. I hear it's very good."

これだと「そのレストランに行くなら、是非イカステーキを食べてみようよ、すごく美味しいらしいから」と自分の意見を言っていることになります。しかし、そのレストランに行って、イカステーキが人気でその日は完売。何か他のものを選ばなければならないときは"Too bad, no more calamari steak today. I guess we just have to have something else."という具合です。こちらは「目的のものがないなら他のものを選ぶしかない」といった感覚。

例3 : 何かを伝えるとき

"You must tell him."。もうおわかりでしょうが、これだと「あなたは彼に言っておいた方がよい」とか「言っておくべき」といったニュアンス。しかし"You have to tell him."だと「彼に言わないといけない。さもないと…」といったニュアンスになります。

"must"と"have to"に関する見解は実は文法書によっても多少異なり、中には"have to"は"must"のアメリカ英語バージョンだという意見もあるくらい。しかし、どの文法書も"must"が"obligation"としての「~しなくては」以外、「気持ち、意見、思い、願い」も表すということでは一致しています。

そこで改めて質問 : 「~しなくては」という度合い、must と have to ではどっちが強い?……その答えは"have to"の方。なぜなら、"have to"の方が常に「そうせざるをえない」といった感覚がより強いからです。

追加情報 :

ただし"must"が"have to"と同じ強さを持つときが一つだけあります。それは文章の中。特に論文や解説書、説明書などでの"must"は「絶対にそうしないといけない」とか「そうせざるをえない」といったニュアンスを持つので、こちらも覚えていてください。

たとえば、家電の取扱説明書の最初の、「まずは電源を入れてください」といった下りなどは"First, you have to turn the power on."ではなく、"First, you must turn the power on."と書かれるのが普通です。

ではまた次回。

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