Sweet treat 311というNPO法人を立ち上げ、震災復興活動や、自立型の教育支援事業を推進している油井元太郎氏は、東日本大震災という「非日常の体験」を契機に、イノベーションを推進している一人です。

  • 非日常の体験が契機となる

非日常の経験・体験がきっかけ

油井氏はもともと疑似的な職業体験ができる子供向け施設「キッザニア」で働いていました。震災後、積極的に被災地支援活動に取り組んだことで宮城県石巻市雄勝町と縁ができ、廃校になった小学校の校舎を再生して自然学校版のキッザニアともいうべき「モリウミアス」という施設創設へとつながったのです。

通常の考えや行動が通用しない

大事なのは、その非日常体験を基に、何かの行動を起こしてみることです。非日常では、通常の考え方や行動の仕方は通用しません。だからこそ、鍛えられるのです。

油井氏は震災後すぐに現地に赴き、友人と共に炊き出しを始めました。その場対応力を発揮したのです。さまざまなことが起こる中で、最善の策を考え、行動に移す。非日常だからこそ、いろいろなことが起きました。利害を異なるさまざまな関係者も集まってきました。その延長上に、『モリウミアス』があるのです。

「強いものが生き残るのではない。変化に対応したものこそが生き残る」という考え方は進化論の基本であり、これは企業経営にも適用できます。変化への対応とは、まさにイノベーションに関わることです。油井氏は変化への対応力を存分に発揮しつつ、復興の先に必要とされるものを見すえていったのです。

非日常を自ら創りだす

価値体系を根底から覆すような非日常経験が、イノベーターには必要です。普通のサラリーマンとして仕事をしていると、このような体験はなかなかできないと考えがちですが、それは「仕事の上で」というただし書きがついた場合です。

仕事から離れれば、価値体系を揺さぶられるような経験をすることができます。

PTAや町内会といった地域コミュニティへの参加、フェイスブックなどで緩やかにつながっている友人・知人との面会、学校の同窓会の実施や参加、観光地化されていない国や地域への訪問と地元民との対話、歌舞伎や文楽、浄瑠璃、オペラ、バレエなどの鑑賞、手にしたことないジャンルの書籍を読む、やったことがないスポーツに挑戦する、等々。

こういった意図的な非日常体験は、自ら創りだせますし、ネットを駆使すれば、すぐに人とつながることができる時代です。非日常体験が非日常の思考を育み、それがイノベーションに連なっていくのです。

考えなしでは駄目

できるだけ遠くに『跳ぶ』ことで、何かと何かがつながります。アハ体験といってもいいかもしれません。ただし、自分が何も考えずに跳んでも、新結合は生まれないでしょう。 自分とは? 社会とは? 仕事とは? 生きると? 自分自身の根底にあるその問いの答えと、跳んだ先の世界で感じる何かとが化学反応をおこし、イノベーションへと連なっていくのです。イノベーション創出の鍵はこういった非日常体験の生かし方が握っているのです。

執筆者プロフィール : 井上功(いのうえ・こう)

リクルートマネジメントソリューションズ エグゼクティブコンサルタント
1986年リクルート入社、企業の採用支援、組織活性化業務に従事。2001年、HCソリューショングループの立ち上げを実施。以来11年間、リクルートで人と組織の領域のコンサルティングに携わる。2012年より現職。イノベーション支援領域では、イノベーション人材の可視化、人材開発、組織開発、経営指標づくり、組織文化の可視化等に取り組む。