前回は、【守・破・離】を徹底することで、新しい仕事や自分を発見して、「イノベーティブ」な働き方をしましょう、と伝えました。ここでは、その大元である「イノベーション」について簡単にまとめておきましょう。

  • イノベーション=技術革新だと誤解していませんか?

    イノベーション=技術革新だと誤解していませんか?

イノベーションとは新結合

イノベーションの開祖はシュンペーターです。1883年にオーストリア・ハンガリー帝国(後のチェコ)で生まれたシュンペーターは、1912年刊行の著書『経済発展の理論』(岩波書店)において「新結合」という考え方を示しています。

そして、イノベーションの類型として以下の5つを提示しています。

1.新しい財貨の生産
2.新しい生産方式の導入
3.新しい販売先の開拓
4.原料あるいは半製品の新しい供給源の獲得
5.新しい組織の実現

おすし屋さんとベルトコンベアを新結合させると回転すしになります。屋台のラーメンと瞬間湯熱乾燥法(高温の油で水分をはじきだす方法)を組み合わせてインスタントラーメンができました。

世界中に大量にある稼動していないクルマと移動したいお客様との組み合わせはUberといえます。何かと何かをつなげることで、新しい価値を生みだす事例はとても多い。ここで、イノベーションを簡単に定義しておきましょう。

「経済成果をもたらす革新」

この連載でのイノベーションの定義です。経済成果はイノベーションが持続するために必要です。革新は、今までにない新しいモノやコトであり、よりよい変化を前提としています。

イノベーションは技術革新ではない

皆さんの中には、イノベーションというと、とても取っ付きにくく難しいものを想起する人がいるかもしれません。大手メーカーの研究開発している人が取り組むことだとか、理系大学の博士課程の人が考えることと思っている人も多いでしょう。

日本ではなぜかこのような技術偏重/技術重視のイメージがあります。それには理由があります。1958年(昭和33年)の『経済白書』において、イノベーションが技術革新と訳されてしまったからです。

それ以来、日本ではイノベーションには技術が必要であり、メーカーや研究開発組織の専権事項という風潮ができてしまいました。大いなる悲劇といえます。

上述したように、「何かと何かを組み合わせる」ことによって生まれるイノベーションも多々あります。もちろん、全てのイノベーションには広義での技術(物事を取り扱ったり処理したりする際の方法や手段)が必要です。いっぽう、ノーベル賞級のいわゆる「技術」がないと実現しないイノベーションはそれほど多くありません。

我々は、「既にある何かと何かをつなげる」ことで起こすイノベーションを志向するべきでしょう。そのための「イノベーティブな働き方」が大事です。

ちなみに中国語でのイノベーションの訳は「創新」です。技術革新よりもワクワクしませんか?

変化を創り出せない日本企業

現代は変化の時代です。平成元年に世界を席巻していた日本は現在、世界でそのポテンシャルを示している状況にはありません。外的変化を予測できず、対応し切れていないと思われます。

このことを示す例として、平成元年と平成31年の世界の株式時価総額ランキングを図示します(図表A/B参照)。株式時価総額とは、そのときの株価と総発行株式数を掛け合わせたものであり、投資家の企業に対する期待値を表しているものです。

この2つの表を見ていると、平成の30年間はいったい何だったのか? と考えてしまいます。日本企業は変化を創り出していないのです。

  • 図表A 世界の株式時価総額ランキング(1989年) 米ビジネスウィーク誌1989年7月17日号より 1ドル130円で換算 提供:リクルートマネジメントソリューションズ

    図表A 世界の株式時価総額ランキング(1989年) 米ビジネスウィーク誌1989年7月17日号より 1ドル130円で換算 提供:リクルートマネジメントソリューションズ

  • 図表B 世界の時価総額ランキング(2019年) 2019年1月末 Yahoo ファイナンスより 1ドル110円で換算 提供:リクルートマネジメントソリューションズ

    図表B 世界の時価総額ランキング(2019年) 2019年1月末 Yahoo ファイナンスより 1ドル110円で換算 提供:リクルートマネジメントソリューションズ

イノベーションの定義である、「経済成果をもたらす革新」の『革新』は、今までにない新しいモノやコトであり、よりよい変化を生じさせます。つまり、イノベーションとは「よりよい変化を創り出すこと」ともいえます。

図表BにあるGAFAを含むアメリカと中国の企業は、その全てがイノベーションプレミアムを享受しているといっていい。現代の企業価値の源泉はイノベーションにあるのです。

では、イノベーションは誰が生むのか? イノベーションは一人ひとりの人間が生むのです。

シンギュラリティ(技術的特異点。人工知能が発達し、人間の知性を超えることによって、人間の生活に大きな変化が起こるという概念であり、その瞬間のこと)に到達していない現在、組織に染まりきらない人たちが「イノベーティブな働き方」をすることで、経済成果をもたらす革新を実現するのです。

次回は、イノベーティブな働き方をしながら、組織の中でどうやってイノベーションを起こすのかについて、より具体的に掘り下げていきます。

執筆者プロフィール : 井上功(いのうえ・こう)

1986年リクルート入社、企業の採用支援、組織活性化業務に従事。2001年、HCソリューショングループの立ち上げを実施。以来11年間、リクルートで人と組織の領域のコンサルティングに携わる。2012年より現職。イノベーション支援領域では、イノベーション人材の可視化、人材開発、組織開発、経営指標づくり、組織文化の可視化等に取り組む。