独立・開業には勇気がいります。そして人それぞれの理由があります。もちろん稼ぐことを目的に開業する人もいるでしょう。しかし、それ以上に「思い」を持ってビジネスに取り組まれている人が大勢おられます。ここではそんな人々にスポットを当てて、独立・開業への思いや、新しい人生の価値観などを伺っていきます。

第20回は、大阪府枚方市を拠点に、貝殻やシーグラス(浜辺に落ちている、波に洗われて丸くなったガラス片)などを使ってハンドメイドを行う「ポケ海ハンドメイド協会」として、教室業を展開されている岡澤鈴美さんにお話を伺いました。

  • 岡澤鈴美さん(中央)

きっかけは突然始まった海岸の工事

――そもそもなぜ、海の素材でハンドメイドをしようと思われたのでしょうか。

岡澤さん:もともと自然の素材が大好きで、ビーチコーミングが趣味だったんです。そんな私が本格的に海の素材を使った物作りを始めたきっかけは、お気に入りの海岸に突然工事が入って、浜辺の環境がガラリと変わってしまい、貝殻やカシパンなどが拾えなくなってしまった経験からです。

そこに住んでいる生き物がいるのに、人間が勝手に入り込んで、昨日まで平和だった場所を破壊する。これが環境破壊なんだと、自分のお気に入りの場所が奪われたことを通して知りました。このことがきっかけで「浜辺は愛らしい生き物たちが沢山生息している」ことを知ってもらおうと始めたのが、海の素材を使った物作りでした。

――そのハンドメイドをお仕事にしようと思われたきっかけは?

岡澤さん:できあがった作品をネットショップで売り始めたのですが、その後水族館やダイビングショップなどでも扱ってくださるようになって……。それから学校や企業様からワークショップの依頼をもらう様になりました。

印象的だったのが学校でのワークショップで、お子さんよりも保護者のお母さんやお父さんが目を輝かせて率先して楽しまれていて、「これはおもちゃの貝ですか?」「海外のものですか?」「こんな可愛いのが浜辺にいますか?」と口々におっしゃって。講座を開きたいと初めて思ったのは、たぶんこの時だったと思います。

その後、ネット販売をしていると「作り方を教えてほしい!」「ワークショップを開いてほしい」というメッセージを多く頂くようになり、お教室を考え始めました。

技術も工具もノウハウも、すべてゼロの状態から出発

――とてもスムーズな流れでお教室につながっていた印象を受けますが、実際はどうだったのでしょう。開業までのご苦労などありましたか?

岡澤さん:そうですね、お教室以前に、そもそもハンドメイドを始めた当時は材料を扱う専門店は身近にはなく、便利なUVレジンなども販売されておらず、一般的な工具ではないミニルーターなども当然知る由もなく、まして海素材使ったハンドメイドを教えている教室や書籍など皆無で……。仕方なく、ありとあらゆる材料や工具で試行錯誤することになりました。

例えば、「割れやすい貝やウニを割らずに使うにはどうすればいいの?」とか、「硬くて素手ではどうすることも出来ない貝や珊瑚を使うには?」とか、「貝殻を割らずに穴を空ける方法が解らない!」「流木を削ったり貝殻を磨いたりするにはどうすればいいの?」などなど、全てが解らないことだらけで、もう辞めようかと何度も思いましたね。

それでも続けてこられたのは、集めてきた海素材を見るたびに、やっぱり「浜辺には素敵な生き物が沢山いる事を伝えたい」、そのためには作品にして実物を見てもらえるように頑張ろうという思いからでした。

――やはり見えないところでのご苦労があってのお教室開業だったのですね。開業後はいかがでしょう?

岡澤さん:大変だったことは一にも二にもにも“講座作り”ですね。講座を作り始めたころは、睡眠時間を削り倒して頑張りました。資料作りも動画編集もしたことがなかったので、覚えながらのテキスト作りや動画撮り、編集作業でした。また、材料や工具の準備も本当に大変でした。

私の講座は海素材が主な材料です。ですから、市販のものはわずかで、ほとんどが採取してきた素材です。それぞれが形も大きさもバラバラのため、材料セットを作るのに何日もかかりました。

それから大変だったのは……。これは性格の問題なんですが、私は物事を人に頼むことが苦手で、何でも自分でやろうとしちゃうのです。今ならわかるんですが、これをしてしまうと、相手も私も、そして協会も成長しないんですよね。何より、私自身が常にマックスの時間を使っていて、いつもいつも忙しい状態で余裕がなくなってしまいます。

いまだに苦手な部分ですが、仲間を信じてお願い出来る事はお願いして、共に成長出来る良い関係作りをしていきたいと思います。

海の素晴らしさを伝えたいから、どこまでも試行錯誤

――その大変さを乗り越えつつ、今に至るまで、岡澤さんを支えてきたものって何なのでしょう。

岡澤さん:浜辺の環境破壊を発端に、愛らしい海素材を知ってもらうために始めた“海ハンドメイド”ですが、試行錯誤のうえ手にした知識と技術のおかげで、他に類のない講座を作り、起業することが出来ました。

講座では「自然(浜辺)は宝の宝庫」として、集めてきた原石(海素材)を素敵な宝石へと変える知識と技術を楽しめるように考えながら、課題作りをしています。また「ポケ海」を気に入ってくださり、作家や認定講師として活動される方も増えてきました。大好きな海素材を楽しみながら、趣味だった物作りが今ではお仕事になっている、昔の私なら想像もつかないことです。大変なことも沢山あり紆余曲折は相変わらずですが、全てをひっくるめて、こんなにやりがいのある仕事はないと思っています。

――なるほど、海への思いの強さがやり甲斐につながっているのですね。今後の展望もお聞かせください。

岡澤さん:自然の素晴らしさやありがたみに触れながら、オリジナルの物作りが楽しめる「大人こそ本気で楽しむ海物作り」のポケ海講座を始め、初心者さんが手軽に始められるオンラインサロン「ネイチャーcraftナビラボ」の2つの柱をベースに、今後もワクワク出来る物作りを伝えていきたいと思っています。

さらに、たった1本で「電動の削る、磨く、彫る、裁断する」が出来るミニルーターは、オンリーワンの物作り、オリジナルの材料作りに適した“魔法の工具”です。まだまだ知らない、使えない、人が多いミニルーターの楽しさも伝えたいと思っています。

―ありがとうございます、最後に読者の皆さまにメッセージをお願いします。

岡澤さん:そうですね……、時間は有限ですので、悩んで一歩踏み出さずに終わってしまうなんて、これ程もったいないことはありません。結果がどうであれ、確かなことは行動しなければ何も手に入らないってことです。

宝くじと一緒ですね(笑)。何もしなければチャンスもないってことです。やりたいことがもしあるのなら、考えているその時間をチャンスに変えてみてください! どんな結果であれ頑張った分、見えているものが変わりますよ。いくつになっても、チャレンジは出来ます。私は50歳で趣味起業をしましたから。