かつての日本においては、「お金は子どもに見せるものではない」という意識が強く、結果的にいわゆる「マネー教育」が不足してしまったという指摘もされます。とくに社会人になって間もない若い人のなかには、税金や保険などお金に関することについてはあまりよくわからないという人もいるはずです。

  • マネーリテラシーの向上は、給与明細をしっかり読み取ることから /ファイナンシャルプランナー・飯村久美
いったいどうすれば「マネーリテラシー」を高められるのでしょうか。ファイナンシャルプランナーの飯村久美先生がおすすめしてくれたのは、意外にも「給与明細」をきちんと見ることでした。

給与明細の3つのパートをしっかりチェック

――メディアでは、「マネー教育が不足している日本人のマネーリテラシーは低い」ということをよく見聞きします。
飯村先生 いまは子どもたちへのマネー教育に国も力を入れていますが、これまでに大人になった人たちに関しては、残念ながらそのとおりだと思います。

――そういう人がマネーリテラシーを高めるためにはどうすればいいのでしょう?
飯村先生 とくに若い人の場合には、まず「給与明細」をきちんと見ることをおすすめしたいですね。なかには、手取り額だけを気にしていて、実際の収入がいくらでなににいくら引かれたのかということに関心を持たない人もいます。でも、1枚の給与明細にはいろいろなことが書かれている。それを読み取ることからマネーリテラシーを高められるのです。

――給与明細を読み取ればマネーリテラシーを高められる? 具体的に教えてください。
飯村先生 給与明細は「勤怠」「支給」「控除」の3つのパートでできています。勤怠には出勤や欠勤、有給、遅刻、早退などの日数と時間が書かれています。出勤日数によって支給額に変動がありますから、実情と合っているかをきちんとチェックすることが大切です。

それから、支給は基本給や残業代など手当の明細。もちろん、これについても受けられるはずの手当がきちんと記載されているかをきちんとチェックしましょう。最後の控除は、給与から引かれた社会保険料や所得税、住民税などの金額です。会社によっては独自の貯蓄制度などを利用した場合に給料から引かれた金額もここに記載されています。

社会人に欠かせない、社会のなかのお金の流れを知る意識

――収入を不当に減らされないために、勤怠と支給をきちんと見ることの意義はわかります。控除をきちんと見ることにはどんな意義があるのですか?
飯村先生 たとえば、先にいったような会社独自の貯蓄制度があるということを知れば、将来のために活用してみようという気持ちにもなるでしょう。もちろん人それぞれですが、せっかく会社が用意してくれている便利な制度を使わない手はありません。

――なるほど。少しでも「お得」を増やしていく。
飯村先生 他にも、控除をきちんと見ることには意義がありますよ。働きはじめたばかりの人なら、「税金って、少ない給料からこんなに引かれるの?」と思うこともあるかもしれません。では、もし引かれている住民税が多いと思ったら、どうしましょうか?

――わたしがケチだというわけではありませんが、ぜひ元を取りたいですね。
飯村先生 そうですよね(笑)。納めた住民税の分の住民サービスを受けることを考えてみましょう。図書館を利用すれば本の購入費を抑えられますし、自治体それぞれが無料でいろいろな講座やセミナーを開催していますから、興味があるものを受けてみてもいいでしょう。そうでないと、ただ税金を納めてばかりになってしまいますからね。

――そういった意識から、お金の流れに対して敏感になっていくということでしょうか。
飯村先生 そうです。自分で稼いだお金からなににいくら引かれてどういう仕組みで社会が動いているのか――。それを知ることは、社会に生きる社会人に欠かせないことです。

給与明細を見ることは、自分の価値に向き合うこと

飯村先生 もっといえば、給与明細をきちんと見ることは自分のキャリアプランなど将来設計にもかかわるものです。

――給与明細が将来設計にかかわる。それはいったいどういうことでしょう?
飯村先生 たとえば、いまの自分の給料が24万円だったとします。そこで会社のキャリアアップのプランを見てみると、何年後かに昇給したら収入がいくらくらいになるといっただいたいの目安が見えてきます。それをベースとして、将来設計をするのです。

――そうすると、「このままでは将来的にも思ったより稼げない」と感じることもありそうですよね?
飯村先生 あるでしょう。そう感じたら、自分が「こうなりたい」という人間になるために、自己投資をするだとか勉強をするといったふうに、いまからできることを考えることにもなるはずですよね。つまり、給与明細を見ることは、「いまの自分は月収24万円の人間なんだ」というふうに、きちんと自分の価値に向き合うことになるわけです。

そういう姿勢がないままに、ただ与えられた仕事を受動的にこなすような生き方では、それこそいきあたりばったりになってしまう。マネーリテラシーを高める第1歩としてはもちろん、なりたい自分に近づいていくためにも、きちんと給与明細を見ることを心がけてみてください。

構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 取材・文/清家茂樹 写真/櫻井健司