前回はオンラインでの服装の大切さについてお話ししました。今回は座った状態で行うオンライン会議の場で重要になるジェスチャーについてです。

私たちは、「立つ」「座る」「姿勢を正す」という行動だけでも、相手にさまざまな印象を与えています。

クライアントが現れたとき、多くの人は席から立ってお迎えします。この一連の行動一つで、相手に出向いて時間を割いてくれたことに対して、感謝と敬意を表しているわけです。

では、オンラインの場合はどうでしょう? 着座ですので、立って相手をお迎えすることはできません。この場合、お辞儀が効果的です。着座でお辞儀をする場合、気をつけなければいけないのは手の位置です。両手を膝に乗せて深く頭を下げてください。実は、この手の位置と動かし方が、オンライン会議ではとても大切なコミュニケーションの要素となるのです。

着座で目立つ手の動き

特にオンラインで着座の状態だと、画面の上では手が占める割合が増えます。そのため手の動きはより人の視線を集めるようになります。

まず、手や指で気をつけなければならないのは、「グルーミング」です。私自身も朝のオンラインミーティングで慌てて席に着いたとき、自分のメイクアップの手の抜きように辟易したことがあります。大きなモニターで相手の爪の長さだけでなく爪と指の隙間に溜まった黒い垢まで見つけてしまったこともあります。

リモートワークで在宅のため、グルーミングを怠りがちなのでしょう。その結果、怠惰さと、不快感、そしてイメージ臭(実際に嗅ぐわけではないが、ニオイが想像できる)まで発展して、残念なことにその方に不潔な印象を持ってしまいました。

以前、私がメディアトレーニングを請け負った航空会社の広報担当者(50代後半男性)は、爪を磨き甘皮の手入れも行き届いていて驚かされました。

いざ会見が始まり着座すると、両手を机の上で卵でも包むかのようにふんわりと重ねました。彼は、以前行った会見の録画で、会見では爪のささくれまで映り込むこと、また手の位置が安定すると安心感が生まれ誠実な印象につながることを発見し、手入れを欠かさないようになったとおっしゃっていました。

私は、クライアントの演説やスピーチで気づいたことを本人にフィードバックしますが、それを正しく理解していただくにはやはり本人が自身の動画を見て気づく以上のきっかけはありません。自分の目で見極めたことは強く印象に残り、責任も生じ、次の課題を見いだそうとするからです。

このオンラインの機会に、ご自身をクリティカルに見ることで、気づけることがあるのではないでしょうか。

メルケル首相の「尖塔のポーズ」

さらに、大切なのは手の動き、つまり「ジェスチャー」です。

このコロナ禍で、メルケル首相のスピーチが話題になりました。パンデミック初期の2020年3月のテレビ演説が、ドイツ内外で称賛され、ドイツのテュービンゲン大学の修辞学者たちによって、スピーチ・オブ・ザ・イヤーにも選ばれました。

このほかにも2020年12月9日、コロナによる死者数が過去最多を受けて連邦議会で演説したときも、メルケル首相は机の上で何度も両手の指先同士を重ね合わせていました。首相はこのポーズで心の安定をはかり姿勢を正すのだそうです。

『FBI捜査官が教える「しぐさ」の心理学』(ジョー・ナヴァロ 著、マーヴィン・カーリンズ 著、西田美緒子 訳/河出文庫)によると、これは「尖塔のポーズ」と呼ばれ、考え方や地位等に自信があることを表すことができるそうです。自分の考えにどれだけ熱心で自信があるかを国民に知らせる効果があったというわけです。

これは社会的地位の高い人が日常的にするポーズですが、一般の人でもこの手の動きをすることで、自分が自信をもって伝えていることを表現することができます。このように指先も大切なコミュニケーションツールなのです。

話を聴くときの手の位置に注意を

そしてオンラインでは、自分が話す側でいるよりも、聴く側のときの姿勢が問われます。

聴く側のときは、手はあまり動かさないのが懸命です。手をぶらぶらさせたりペンを回したりすると、相手の話に対して退屈で興味が無いという印象や落ち着きの無い人という印象を与えます。手を口元や鼻、頭に持っていくと、それぞれが余計なメッセージとなるので気をつけてください。

机の上で両手をふんわり重ね合わせていると、少し前のめりになって能動的に聴いているという印象です。また、両手を膝におき、姿勢を正していると、真摯に聴いている印象なので、面接で面接官が話している時や相手に謝罪する場合などに効果的でしょう。

相手の相づち・頷きを促すには?

相手の話を聴く時には、確かに聴いているということと、賛同の意思表示をするために「頷き」がとても重要です。頷くことで相手は承認欲求が満たされます。

また、話し手は、相づちの無い聞き手よりも、相づちのある聞き手の方をより好意的に評定したという研究結果もあります(「対話状況における聞き手の相づちが対人魅力に及ぼす効果」川名好裕 1986 実験社会心理学研究)。

この研究では、聞き手も、自分が相づちを打った話し手の方を効果的に評定したということが立証されています。

このことから、自分が話す側の場合でも、相手が話を理解する間、頷く間を推し量ることも大切です。そのリズムを仕切るのに、手の動きを使いましょう。

前述の『FBI捜査官が教える「しぐさ」の心理学』では、効果的な手の動きは信頼性と説得力を高めてくれるだけでなく、人間は効果的な手の動きには好意的に反応することが紹介されています。

例えば、胸元あたりで握った片手を軽く上から下に動かす動作「バトン(拍子)」は伝えたい言葉を強調するのに効果があります。下に振り落としたときはきちんと静止して、その間合いで、相手の頷く間を推し量り、相手に理解を求めましょう。

相手に何かを促すときは、手を開き、指し示します。手のひらを見せることは、手のうちを開示することを表し、嘘偽りの無いという安心感を与えることができるのです。

シンクロするコミュニケーション 

手の動きは言葉以上の力を持つことがあります。それを改めて感じた出来事がありました。

祇園の芸妓さんとお会いする機会があり、彼女がよく顔周りで手を動かす仕草をすることに気づきました。指先をピンと伸ばし、両手で顔を覆うと恥ずかしさ、頭を覆うと失敗、頬の周りに両手で握りこぶしを添えて、ぷんぷん怒って見せたりと、京ことばや日本語が通じない方にも彼女の思いが容易に伝わります。指先だけでもコミュニケーションをはかれるということです。

しかも、私は無意識のうちに、その色香漂う仕草を真似ていたのです。これは、アメリカの認知心理学者ウィリアム・コンドン(William Condon)が発見した「相互シンクロニー」と言われるもので、快適な気持ちでいれば、話し手の動きに聞き手の身体も同調する現象です。

逆に意識的に相手のしぐさや行動を真似る「ミラーリング」というテクニックで相手と親しくなることもできると言われています。『FBI捜査官が教える「しぐさ」の心理学』によると、ミラーリングを全く行わないでいるとそれは「敵意シグナル」と認識され、同調行動が欠けていることに気づかれるそうです。

つまり、オンラインで相手に親しみ、共感を表現したい場合は、好感を持てた手の動きや机上に手を置く際の指の重ね方などを真似るとよいのです。

オンライン会議でも、相手の共感を得る為に使わない「手」はありません。