「家事も育児も家計も全部ワリカン! 」バツイチ同士の事実再婚を選んだマンガ家・水谷さるころが、共働き家庭で家事・育児・仕事を円満にまわすためのさまざまな独自ルールを紹介します。第24回のテーマは「かわいくお願いするのも我が家のオキテ」です。

  • 甘え上手になるためのトレーニング

我が家で、子どもも親も共通のルールとして運営されているのが「かわいくお願いすること」です。

これが……結構難しいんですよね。でも、冷静に考えると「絶対そうしたほうがいいのに、なぜできない?」のだろうと思ったりもします。

どう考えても、「甘え上手」のほうがいいコミュニケーションで相手も喜ぶのに、なぜか「私は正しい、だから従いなさい」みたいなアプローチになってしまう。「甘えるなんて、恥ずかしい」とかそういうのもあるけど、根本には「自己肯定感が低い」からなのかなあ……と思ったりします。

私はずっとそうでした。なんか、甘え上手の女子というのは、「かわいくないとダメ」とか「甘えられるだけの価値がある人だけ」みたいなそういう気持ちがありました。

だから、甘え上手な女性に「男の人には頼ったほうがいいよ。そっちのほうが絶対喜ばれるし」なんて言われても、「いやいやいや、それはあなたが美しいからであって、私には無理ですよ」みたいに思っていました。だから、そういうアプローチはしちゃダメだと思っていたし、自分にはやる資格がないと思っていた。

しかし、パートナーには私よりもさらにそういう感じがありました。男性にとって、誰かに自分の要望を聞いてもらうような「甘え」のアプローチは、女性より許されていないと言うか、社会的に抑圧されているような気もします。なので、より苦手な人が多いのかもしれない……と思うようになりました。お願いするのが下手なのは、個人の性格の問題だけじゃなくて、社会の構造にも原因があるような気がします。

でも、誰に強制されたわけでもなく、お互いが選んだ相手と一緒になったわけです。なぜその相手にすら上手に甘えられないの? って感じですよね。

私は初婚で、家の中のタスクを1人で抱え込み過ぎてキャパシティをオーバーして勝手に自爆。そして離婚してしまったことを反省して、「ちゃんと甘えられる人間になろう」と思いました。

かといって、そう簡単に甘え上手になれるわけではないので、意識的に「トレーニング」しました。まずは、「他人に甘えること」を自分に許すところからスタートでした。

そうやって意識して「甘える」トレーニングをして、徐々に「ちゃんと甘える」ことができるようになったので、パートナーが「正当性を誇示して言うことを聞かせようとする」ことにものすごく違和感を覚えるようになったのだと思います。「なんで素直にお願いできないんだろう?」と。

でも、4歳の息子も自分の言う通りにならないとすぐプリプリ怒り出します。「まだ社会的な抑圧もされてないハズなのにな~? なんでだろう?」と思ううちに、そこで怒り出すのも「甘え」なんじゃないかなと気が付きました。「この人には怒ってもいい」とか「この人にはそういう言い方をしても許される」みたいな。

「お願い」とかわいく甘えるのも、「なんでやってくれないのー!」って怒るのも結局どっちも「甘え」なら、私は絶対前者のほうで言われたいです。自分の正当性を誇示して言う通りにさせるのは、相手にストレスを残す甘え

目上の人とか許されない相手には絶対しないわけで、「甘えてる」と自覚してるならまだしも、自覚がないままにそれをやっていたらそれはもう「甘え」じゃなくて、相手を「下にみてる」とか「舐めてる」ってことになります。それをしておいて、相手からの愛情が目減りしないと思ってるならそれは考えが「甘い」ですよね。

そこには、自己肯定感が低いから正当性を主張しないと自分の要望を言えない、という理由もあるし、相手に対して怒っても受け入れられると思ってるから乱暴に主張しちゃうという理由もある。そしてそれが入り交じった感情で家族やパートナーにプリプリ怒りながら自分の主張をすることもあるんじゃないかなあ……と自分で自分の行いも見直してみました。

もちろんこれは「家族に対して怒っちゃダメ」ってことではありません。本当にダメなときとか、怒るべきときには怒らないといけない。そうでないと何がイヤなのかが伝わらないから。でも、何かを「お願い」するときに「私は正しい、だからやるべき。なぜやらない」みたいなアプローチは、我が家ではやめようということになりました。

かわいくお願いするのは、若くてかわいい人だけの特権じゃない! 40歳過ぎてても、50歳過ぎてても全人類がやったほうがいい……! というわけで、子どもだけじゃなくて家族全員で「甘え上手」になれるように頑張っています。

しかしこれ……本当に難しいです。正当性を誇示したほうがほんとに簡単。でも、円満ニコニコ家庭になるためには努力あるのみなのです。修行僧のような気持ちで「かわいくお願い」できるように日々精進しています。

著者プロフィール:水谷さるころ

女子美術短期大学卒業。イラストレーター・マンガ家・グラフィックデザイナー。
1999年「コミック・キュー」にてマンガ家デビュー。2008年に旅チャンネルの番組『行くぞ! 30日間世界一周』に出演、のちにその道中の顛末が『30日間世界一周! (イースト・プレス)』としてマンガ化(全3巻)される。2006年初婚・2009年離婚・2012年再婚(事実婚)。アラサーの10年を描いた『結婚さえできればいいと思っていたけど』(幻冬舎)を出版。その後2014年に出産し、現在は一児の母。産前産後の夫婦関係を描いた『目指せ! ツーオペ育児 ふたりで親になるわけで』(新潮社)が近著にある。趣味の空手は弐段の腕前。