「家事も育児も家計も全部ワリカン! 」バツイチ同士の事実再婚を選んだマンガ家・水谷さるころが、共働き家庭で家事・育児・仕事を円満にまわすためのさまざまな独自ルールを紹介します。第137回のテーマは「甘え方と交渉術を練習させています」です。

これまでのお話はこちら

  • ※漫画内ではマスクは省略しています。

本連載でもず~っと言っていますが、我が家は「かわいくお願いする」というコンセプトで運営されています。人に何かをお願いするときは「怒らないで言う」「かわいくお願いする」ほうが絶対みんなハッピーです。でも、なかなかできないんですよね。

もちろん、甘えられる関係だからこそ、適当にお願いしちゃうという面もあります。最近、とある未就学児の娘さんが、お父さんにすごく穏やかにかわいくコミュニケーションをする、という話を聞きました。「女の子だから? 」と思っていたのですが、実はお父さんが気分次第で怒鳴ったり怒ったりするから……ということでした。子どもが自然に、かわいく気を遣ってコミュニケーションする背景には、「身を守るため」ということもあります。なので、かわいく気を遣ってコミュニケーションをすること自体が「子どもにとっていいこと」とは限りませんし、これを強要するのも危険な面があるとも思います。

とはいえ! いくら親を信頼しているから、安心しているからといって、「なんで○○してくれないの! 」とか「アレ買って! 」などと、乱暴な怒りのコミュニケーションをするのも問題です。なので我が家は、かわいくお願いすることを練習・訓練しよう! と考えています。

私は「練習したらうまくなる」派の人間ですが、それは私が長年空手をやっているからだと思います。空手は武道なので人に対して何かすることを学びます。最初できなかったことも、練習を続けていくとできるようになるんですよね。

空手といえど、私の通っている道場に入ってくるみなさんは、私も含めて「人を殴った経験」がほぼない人ばかり。幼少期に子ども同士で手が出たことある人もいるかもしれないけど、それすらない人もいる。なので、叩かれることも怖いですが人を殴ること自体もとても怖い。すごく抵抗があります。

これを稽古で練習していきます。すると段々、「あ、これくらいはやっても平気」「これは当たっても全然痛くない」とか、反対に「これくらいやらないと効果がない」とかわかってくるのです。わかってくると、力の使い方がコントロールできるようになります。そうすると、人を直接突く(叩く)こともできるようになってきます。

逆に言うと、ちゃんと練習してないとうまく使えません。必要以上にやってしまえば相手をケガさせたり、自分がケガしたりします。こういうのって、別にフィジカルなやりとりだけじゃなくて、言葉やコミュニケーション全てに共通していると思うんですよね。私は長い間空手を続けていて、自分だけでなく、人が練習してできるようになっていくのを見てきました。なので、コミュニケーションも練習したらうまくなる! と考えています。

今の日本の社会で言うと、「コミュニケーションの練習」は男性よりも女性のほうができるようになっていると感じます。女性のほうが「気を遣う」とか「相手の気持ちに寄り添う」といったコミュニケーションをするように、社会に要求されてきたからだと思います。逆に男性は多少気が使えなくても、「男だから」「男ってそんなもんだから」みたいな感じで練習や訓練をしなくても許されてきた。つまり、練習する機会が少なかったのではないか……と思うのです。

実際に現在53歳の私のパートナーは、コミュニケーションや自分の気持ちを自覚することの練習や訓練をしてこなかったんだなと思いました。ケンカやネガティブなコミュニケーションのときに、「どうしてそういう言い方を選んだの? 」「どうしてそういう気持ちになったの? 」と私が一つずつ質問をしていくと、「そんなこと、考えたことがなかった」と言われました。「どうして自分はこういう行動をしたのだろう」「相手のことをどれくらい考えただろう」と考えることは、全て次のコミュニケーションに繋がります。これを何度も繰り返して、最適なコミュニケーションができるようになります。

パートナーも同じ空手道場に通っているという関係もあり、今は「コミュニケーションも練習したらうまくなる」ということを共感してもらっています。そしてパートナーと一緒に「練習」をしています。

というわけで、息子は空手を全然やってくれませんが、「コミュニケーションの練習」はさせています。「かわいくお願いする」のは基本ですが「どうやってお願いしたら、より人は自分の言い分を聞いてくれるだろうか」という観点を持っていてほしい。「おもちゃ買って~! 」とギャーギャー怒って言うより、「バレンタインデーのチョコレートいらないから、代わりに他のものを買って」とお願いしてみたらどうか、と息子に言ってみました。

これは「答えを考えさせるよりも、答えを教えて成功体験を積んだほうが学べる」という私の考えからくるものです。第19回「『どうしてわかってくれないの? 』の前に」でも描きましたが、失敗して怒られて「自分は人の気持ちがわからない人間なんだ」と苦手意識を持たせるよりは、アプローチの正解を教えて「こうすればみんなハッピーなんだ」と思ったほうが身になるのではないか……と私が考えているからです。

少なくとも、我が家ではパートナーに対してはこの方法で結構うまくいっています。花屋で一緒に自分の好きな花を教えて買ってもらう(第20回)とか、休日に家を空けるときは「2000円置いていく」ルール(第72回)、などで効果を発揮しています。というわけで、息子にも怒るコミュニケーションではうまくいかない、ということを教えつつより効果のある交渉術を教えている……つもりです。

「息子が人たらしになったらどうしよう……」という気持ちはありますが、怒りのコミュニケーションしかできない人間になるよりは全然いいなと思っています。大人になって全く覚えてない可能性もありますが……息子の経験値や成功体験になったらいいなと思っています。

新刊『骨髄ドナーやりました!』

(少年画報社刊/税込1,045円)
初代骨髄バンクアンバサダーの俳優・木下ほうかさんも「『ちょっと人の命を助けて来るから!』。こんなカッコいいことを言い放つお母さん。私はこんな最強マンガを待っていました」と絶賛する書籍が発売!! 日本骨髄バンク完全監修の爆笑必至の骨髄ドナー体験マンガです!
夫婦揃って献血が好きで、骨髄ドナーに登録しているさるころとノダD。2人は事実婚・共働きで息子を育てています。夫のノダDは今までに3回骨髄ドナーにマッチングをしていて、3回目で骨髄提供をしました。そんなある日、骨髄バンクから届いた書類をよく見ると、なんと今度は妻のさるころが骨髄ドナーにマッチングしたお知らせでした……! 非血縁ドナーのマッチング確率は数百~数万分の1とも言われており、骨髄ドナーは登録してもマッチングするとは限りません。そんな中、なんと夫婦で2年連続ドナーを体験。そんな激レアなn=2のリアルガチな体験談をあますことなくお届けします! 詳しくはコチラ

著書『どんどん仲良くなる夫婦は、家事をうまく分担している。』

(幻冬舎/税込1,100円)
全編書き下ろしエッセイマンガ!
バツイチ同士の事実婚夫婦にめでたく子ども誕生! ここから「家事と育児をどうフェアにシェアしていくか」を描いたコミックエッセイです。家事分担の具体的な方法から、揉めごとあるある、男の高下駄問題、育児はどうしても母親に負担がいってしまうのか、夫のキレにどう対処する? などなど、夫婦関係をぶつかりつつもアップデートしてきた様子を赤裸々に描きます。くわしくはコチラ

著者プロフィール:水谷さるころ

女子美術短期大学卒業。イラストレーター・マンガ家・グラフィックデザイナー。
1999年「コミック・キュー」にてマンガ家デビュー。2008年に旅チャンネルの番組『行くぞ! 30日間世界一周』に出演、のちにその道中の顛末が『30日間世界一周! (イースト・プレス)』としてマンガ化(全3巻)される。2006年初婚・2009年離婚・2012年再婚(事実婚)。アラサーの10年を描いた『結婚さえできればいいと思っていたけど』(幻冬舎)を出版。その後2014年に出産し、現在は一児の母。産前産後の夫婦関係を描いた『目指せ! ツーオペ育児 ふたりで親になるわけで』(新潮社)、『どんどん仲良くなる夫婦は、家事をうまく分担している。』(幻冬舎)が近著にある。趣味の空手は弐段の腕前。