「家事も育児も家計も全部ワリカン! 」バツイチ同士の事実再婚を選んだマンガ家・水谷さるころが、共働き家庭で家事・育児・仕事を円満にまわすためのさまざまな独自ルールを紹介します。第127回のテーマは「何が『人生の成功』かなんて人それぞれ」です。

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来年から息子も小学生です。そろそろ周りが進学について話し始めました。中学校受験をするのかしないのか、するなら中学校受験を見据えてどういう選択をするのか、しないならしないでどうするのか……などなど。

「えええ! もうそんな感じなの!? 」と慌てました。我が家の周辺地域では小学校受験をする人もいますが、うちは子どもの特性を小学校で見ることにしています。

私自身は、東京都内の中高一貫私立校へ中学校受験をさせられました。当時の私の地元の公立中学がちょっと荒れていたので、親が受験させたかったのではないかと思います。その時私には行きたい学校があったのに、そこは「中学生が通うには遠い」という理由で受験をさせてもらえなかったんですよね。それで通学時間と偏差値だけで親に受験する学校を決められてしまいました。

もうやる気ゼロ! まったく勉強する気にならず、全部不合格でした。ですが、私は全然かまわなかった。だって本当に行きたい学校はあるから。高校受験で受けていいことになり、高校から進学できてよかった! というのが私の経験です。

なので、進学は本人のやる気次第、というのが我が家の今のところの方針です。私の親だって「よかれ」と思って受験させたのでしょうし、決して悪いことだとは思っていません。でも私はやりたいことがハッキリしているタイプだったので、息子に対しても本人の意志を尊重したいのです。小学生になってから本人が中学受験したいと言うなら(我が家の経済力の範囲で……ですが)応援したいと思います。

私は都内の私立女子校である女子美術大学付属に高校から進学して、エスカレーターでそのまま短大に進学しました。四年制大学と短期大学両方あるのですが、周りからは「行けるなら学歴としては四大がいい」と薦められました。しかし、「デザインとイラストレーションは仕事で経験値を積みたい」と思い短大を選択、そして卒業後20歳からずっとフリーランスのグラフィックデザイナー、イラストレーターです。30歳すぎてからマンガの仕事が増えて、最近はマンガばっかり描いてます。私自身は運良く「好きなことを仕事にする」という目標に突き進んできた人生で、「学歴」を気にしたことはありません。

かたやパートナーですが、それなりに高学歴だと思います。地元の中では一番偏差値の高い公立高校へ進学し、推薦で早稲田大学へ入学しました。高校も大学もそれなりの偏差値ゆえに、学生時代の友達はそれなりの職やポジションであることも多いせいか、「オレなんか」的な発言をすることがあるんですよね……。

そして動物ドキュメンタリーを見てると必ず、「動物学者とかいいなあ」「オレも文系に変えずに理系のまま進学していたら、こういう未来もあったのかなあ」とか言います。そのたびに「いや、ラムちゃんが観たいから留学を断った時点で、あなたの人生、こうでしかないじゃないか……」と思ってしまうのでした(ちなみにこう言うと、ラムちゃんが好きなんじゃなくて『うる星やつら』が好きだったのだと訂正されます)。高校生のときに成績優秀だったため、父親に留学をすすめられたらしいのですが「面倒くさいなあ」と思って断ったことを、たまに「あの時行ってたら別の未来だったかもな」と言います。

でも私は、「情熱を傾けて好きなものを貫いたからこそ今があるのでは? 」と思うのです。パートナーの大学の卒論は、『うる星やつら』の劇場版も手掛けた映画監督の「押井守」論で、今から20年ほど前に『前略、押井守様。』(フットワーク出版)という単行本を出しています。その後、押井守監督の本のライティングを何冊も担当し、ついに最近『押井守監督が語る映画で学ぶ現代史』(日経BP)という本では「押井守・野田真外」と名前が並び、共著となりました。

一体このどこに、動物学者になる要素があったんでしょうか!? どう考えても「押井守業界」ではエリート一直線じゃないですか……。いや、確かに「押井守業界」の仕事だけじゃやっていけないですし、パートナーのメインの仕事は映像ディレクターです。本人は「売れっ子のディレクターでもないし、そんないいものではない」と言うのですが、私からは彼なりの「好きを極めた人生」に見えます。

私なんかは絵を描くこと以外にできることがなく、ほかに選択肢がなかった……というのもあるのですが、パートナーは勉強ができたので「ほかの選択肢もあったのかも」と思ってしまうのかなと思います。でも、私は自分の好きなことをして、自分でいろいろ決めることができて、困らないくらいには生活もできていたらいいじゃない? と思ってしまいます。

とはいえ、私も最初からそう考えていたわけではありません。私の場合、初婚の頃までは「家をローンで買って子どもは2人」と、わりと型にはまった人生計画を立てているようなタイプでした。離婚したことで「今までの価値観って全然自分で考えた理想じゃなかったのでは? 」と、欲望や理想がかなりシンプルになった、という経緯があります。よくよく考えたら私は子どもの頃からなりたかった「絵を描く仕事」をして、それ以上に求めるものがなかったんじゃないか……と気が付きました。

パートナーも会社や組織の中で出世するタイプじゃないし、自分の能力を好きなものに全部振り分けて今があるのだから、それは素晴らしいことだと思います。まあ、実際我が家は持ち家も車もなく、財産と呼べるものもないので、私の親の価値観ではかると少し心配されているようです。でも私もパートナーも、「好きなことを仕事にして生きていけてる」だけで、これはこれで悪くない人生なのではと思っています。

なので息子にも、自分の好きなことを極めてくれればいいなと思います。本人のやりたいことが「出世」とか「財産を得る」とかならそれもいいし、逆にお金にならない研究をしてもいい。学歴が欲しければ頑張ればいいし、いらないならそれでも生きていける方法を自分で考えてほしい。無理したり、自分に嘘をついたりしないで生きていけるようになってほしいな……などと、これからやっと小学生になる息子にそんなことを考えています。

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著者プロフィール:水谷さるころ

女子美術短期大学卒業。イラストレーター・マンガ家・グラフィックデザイナー。
1999年「コミック・キュー」にてマンガ家デビュー。2008年に旅チャンネルの番組『行くぞ! 30日間世界一周』に出演、のちにその道中の顛末が『30日間世界一周! (イースト・プレス)』としてマンガ化(全3巻)される。2006年初婚・2009年離婚・2012年再婚(事実婚)。アラサーの10年を描いた『結婚さえできればいいと思っていたけど』(幻冬舎)を出版。その後2014年に出産し、現在は一児の母。産前産後の夫婦関係を描いた『目指せ! ツーオペ育児 ふたりで親になるわけで』(新潮社)、『どんどん仲良くなる夫婦は、家事をうまく分担している。』(幻冬舎)が近著にある。趣味の空手は弐段の腕前。