連載コラム『知らないと損をする「お金と法律」の話』では、アディーレ法律事務所の法律専門家が、具体的な相談事例をもとに、「お金」が絡む法的問題について解説します。


【相談内容】
今から15年程前に大好きなアイドルグル―プがいて、CDをまとめ買いしたり、全グッズを購入したり、コンサートに毎回行ったりしていました。働いてはいましたが、給料だけでは足らなくなり、消費者金融からお金を借りたのがきっかけで、1社から2社、3社と増えていき、気づけば最大5社から借入れ、金額は300万円にものぼっていました。無事に5年前に全額返済しているのですが、最近、平成18年12月以前に借りたお金に関しては、もしかするとお金が戻ってくるかもしれないと友人から聞き驚きました。よくこの仕組みが分からないのですが、どうしてお金が戻ってくる可能性があるのでしょうか。

【プロからの回答です】

そもそも「過払い金」ってなに? なぜ発生するのか?

「過払い金」とは、その名のとおり、払い過ぎたお金のことです。借金を返済する際に、法律上支払うべき金額を超えて、貸金業者に払い過ぎてしまったお金が「過払い金」ということです。払い過ぎたお金ですから、法律上これを返してもらえるのは当然です。お金を返してもらうためには、過払い金がいくらになるのか計算し、遅延損害金なども付与したうえで、貸金業者に返還請求を行うことになります。

なぜこのような過払い金が発生するかというと、一言でいえば、「貸金業者が法律上受領できる利息の制限を超えて利息を受領していた」ことが理由です。お金を貸す際に守らなければならない金利の上限は、「利息制限法」という法律により、金額に応じて15~20%と定められています。ただし、これを超えた利息の受領については、29.2%までは罰則の適用がなかったため、消費者金融のみならず、クレジットカードなどの貸金業者(公的金融機関の融資や銀行の住宅ローンなどは除く)は、これら利息制限法の上限を超えた金利を事実上受け取ってきたわけです。これが、「過払い金」となり、払い過ぎた分を返還しなさいということになるわけです。

この過払い金については、借金を完済された方が返してもらえるのはもちろんですが、「借金が100万円残っている」と思っていた方が、逆に、「100万円返ってきた」というケースも多くなっています。

平成18年12月というお話がありましたが、実はこの月に、貸金業に関する法律が改正され、上限金利である20%を超える金利をとることが違法となりました。また、この改正法は、平成22年6月18日に完全施行となったため、それ以降の借入れ分については、法律の利息制限内の借入となり、基本的に過払い金は発生しません。しかし、改正法が完全施行される前(平成22年6月18日より前)に借入れた分については、改正前の金利のままなので、依然として過払い金が生じている可能性があります。

そのため、今回のように15年前から10年間取引をし、5年前に完済したということであれば、ほぼ間違いなく過払い金が発生していると言えるでしょう。特に、取引金額が300万円ということですので、一般には過払い金額も相当高額になっていることが予想されます。

是非、弁護士に相談していただき、過払い金の返還請求を行いましょう。

「過払い金請求」のしかた

過払い金の返還請求の手続きは、(1)「これまでの取引履歴」を開示してもらう、(2)利息制限法に基づいて、過払い金がいくら出ているかを計算する(引き直し計算といいます。)、そのうえで、(3)貸金業者との間で返還の交渉を行う、それでも合意が成立しない場合には、(4)裁判で決着をつける、という流れになります。

(1)の開示請求時点でそもそも壁にぶつかるケースがある他、(2)の過払い金の計算自体も、これまでの借入と返済に関する日時・金額を全て入力して計算せねばならず、これだけでも大変です。計算時には、取引が一定期間なかった場合(空白期間などといいます)等に、これを一連の取引とみるか別の取引とみるか等によって金額が変わってくるケースも多く、これらは過去の裁判例などを熟知していなければならないため、こういった法的判断を自身で行うのも相当大変ではないかと思います。

(3)の交渉についても、ご自身で過払い金を請求した場合、貸金業者によっては「弁護士が介入しなければ返還はできない」などと理由をつけて、過払い金の返還を拒否してくることがあります。一番怖いのは、弁護士がついていないことをいいことに、本来受領すべき金額より極めて低額な和解に応じさせられてしまうことです。いったん和解に応じてしまうと後になって「やっぱり増額してほしい。」ということができなくなります。たとえ弁護士が介入しても和解の内容を覆すのは困難ですので、やはり過払い金の請求は、ご自身で行うより、弁護士にご依頼いただくのが安心だと思います。

仮に、交渉が功を奏しない場合には、当然、(4)の裁判まで行う必要があります。裁判になった場合には、半年から一年間くらい時間がかかることも多いですし、裁判所に何度も出廷する煩わしさや書面作成にも時間がかかるため、相当な労力が必要です。

弁護士にご依頼いただければ、これら全てについて専門知識をもって行いますので、金額の点でも、期間や労力の点でも、メリットが大きいと思います。弁護士費用はかかってしまいますが、その分のメリットは十分にあると言えるのではないでしょうか。

こんな事例がありました!

事例(1) 毎月8万円の返済が、98万円の返金に!

Aさんは、ご主人の勤務先が倒産したことをきっかけに、生活費の不足を借入で賄うようになり、消費者金融と10年以上前から借入と返済を繰り返してきました。ご相談時には、負債は250万、月の返済は8万円となっており、パート収入の大半を返済に充てている状況でした。

パート収入がありましたが、収入が安定していないこともあり、これ以上の返済は困難ということで自己破産をしようと考えていましたが、その後、利息制限法に基づく引き直しの計算を行った結果、借金があると思っていた貸金業者は全て過払いになっていることが判明しました。最終的には、全社から過払い金を回収することができました。毎月8万円ほどの返済に苦しんでいたAさんでしたが、借金がゼロになり、逆に約98万円の過払い金が返ってきたということで夢のようだったと話されておりました。

事例(2) 厳しい取り立てが一転! 430万円戻ってくることに

Bさんは、生活費の不足を補うために少額での借入をはじめ、お子様の学費の工面などで徐々に借入が膨らんでいってしまいました。ご相談時には、借入は4社280万円まで膨らみ、既に支払いが滞ってしまっている状態でした。支払いが滞ると、毎日のように、電話やはがき、封書などによって取立が来るため、精神的にも追い詰められているようでした。

弁護士が介入したことにより、これらの取り立てがストップし、計算の結果、4社全てに過払い金が発生していました。一部の貸金業者は全部の取引履歴を開示してこなかったため、裁判まで提起して争いました。全社との間で和解が成立するまでに1年間ほど時間がかかりましたが、総額430万円もの過払い金を返還してもらうことができました。

事例(3) 出産直前に借金を完済し、結婚後7年で過払い金返還へ

Cさんは、結婚直後、出産直前の状態で夫の借金のことを知り、子供も生まれることから、Cさんの貯金で夫の借金を全額返済しました。だいぶ後になって、過払金が発生しているかもしれないことを知り、少しでも取り戻したいという思いから、当事務所にご相談され、ご依頼されました。それまでは、結婚直後に判明した借金のせいで、結婚後7年間そのことで喧嘩ばかりしていたとのことですが、過払い金が返ってくるということでその喧嘩も緩和されたようでした。過払い金を原資に、お子さんたちをディズニーランドに連れて行かれたそうです。ご家族に幸せが戻りました。

事例(4) 保証人として支払ったお金が過払い金に

Dさんは親友の方から頼まれて仕方なくサラ金業者からの借金の保証人となりました。最初は親友の方も順調に返済していたようなのですが、その後連絡が取れなくなり、ついには本人の代わりにサラ金業者から借金の取り立てが来るようになり、その結果、10年~20年で350万円を返済したそうです。

別のご友人から当事務所を紹介いただき、悩んだものの思い切ってご相談いただきました。その結果、相当な過払い金が発生し、お金が戻ってきたので、「悔しい」という思いも緩和されたようです。

まとめ(メッセージ)

「過払い金」という言葉はよく聞くようになりましたが、過払い金が発生している方の大半が、いまだ、「過払い金の請求が出来る」ことにさえ気づいていない実態があります。

払いすぎた利息分、いわゆる過払い金を取り戻す権利は、法律的には不当利得返還請求権といって、10年の期間で時効消滅してしまいます。なので、時効消滅する前に請求をしないと、せっかくの権利も失われてしまうのです。「いつから10年か」というと、それは、貸金業者との最終取引日です。今回でいえば5年前の完済時。ここから10年という期間が経過すると時効によって請求ができなくなります。

また、取引のなかった空白期間があると、空白期間前の取引が時効にかかってしまう可能性もあります。その場合、過払い金の合計額が大きく減少することが多くなります。最後の返済日からまだ10年たっていないから大丈夫! と安心するのは危険です。過払い金のご相談は早ければ早いほどいいと言えるでしょう。

過払い金返還請求権は、あくまでご本人の権利ですので、家族が代わって請求することはできませんが、ご本人が他界されたような場合は、相続によって配偶者や子といった相続人もその相続分に応じて請求することが可能です。

過払い金返還請求には、ここでは伝えきれないほど多くの法的問題や裁判例などがあります。ご自身や故人が借金の返済を継続していた…という方は、なるべく早めに弁護士に相談してくださいね。

<著者プロフィール>

篠田 恵里香(しのだ えりか)

東京弁護士会所属。東京を拠点に活動。債務整理をはじめ、男女トラブル、交通事故問題などを得意分野として多く扱う。また、離婚等に関する豊富な知識を持つことを証明する夫婦カウンセラー(JADP認定)の資格も保有している。外資系ホテル勤務を経て、新司法試験に合格した経験から、独自に考案した勉強法をまとめた『ふつうのOLだった私が2年で弁護士になれた夢がかなう勉強法』(あさ出版)が発売中。『Kis-My-Ft2 presentsOLくらぶ』(テレビ朝日)や『ロンドンブーツ1号2号田村淳のNewsCLUB』(文化放送)ほか、多数のメディア番組に出演中。 ブログ「弁護士篠田恵里香の弁護道