連載コラム『知らないと損をする「お金と法律」の話』では、アディーレ法律事務所の法律専門家が、具体的な相談事例をもとに、「お金」が絡む法的問題について解説します。


【相談内容】
私は結婚10年目の専業主婦です。会社員の夫と7歳になる息子と3年前に購入したマイホームで仲良く暮らしていました。しかし、先日、夫の携帯電話を見てしまい、不倫相手と思われる女性と仲良さそうに写っている写真やデートの約束をしているメールを発見してしまいました。夫が不倫していることがショックで、離婚を考えていますが、専業主婦のわたしは子供を食べさせていける経済力もなく、まずは仕事を探してから離婚しようと思っています。

ただ、仕事が見つかったとしても女手一つで子供を育てていくのは無理があると思います。主人に不倫に対する慰謝料を出来るだけ多く支払ってもらってから離婚したいのですが、不倫の慰謝料って大体どれくらいなんでしょうか?

また、財産分与や子供の養育費についても教えてください。

【プロからの回答です】

「離婚」にまつわるマネーのお話ということで、「慰謝料」「財産分与」についてお話させて頂きましたが、最後となる今回は「養育費」についてお話したいと思います。

夫婦の間に子供がいる場合、子供のために支払われる養育費ですが、離婚後も継続的に支払っていかなければならないため、他の2つと比べると離婚後にトラブルになることがとても多いです。

養育費とは? - 日本では支払い率が20%に満たない状況

養育費とは、離婚後に子供の監護をする親(通常は親権者)が、子供の監護をしない親に対して請求できる費用のことです。例えば離婚して妻が子供を引き取ることになった場合でも、子供の父親は夫であることに変わりません。ですので、父親も、子供を扶養する義務として、当然に養育費を支払うべきとされています。

日本では、養育費の支払い率が20%に満たない状況が続いています。ですので、実際には、「養育費は払われないのが原則」という逆転現象が起きてしまっています。養育費に関する知識が社会一般にまだまだ浸透していないことの表れともいえそうです。

養育費は、「払える余裕があれば払う」ものではなく、「自分の生活と同レベルの生活を子供に与える」ものであり、裕福でも貧しくても払わねばならないものです。この認識を今一度社会に浸透させる必要がありそうです。

養育費の取り決めをしていない場合は、早急に調停を申し立てるべき

そもそも、養育費の取り決めさえしていない場合、「過去の養育費」をさかのぼって請求することができないという点も重要です。法的には、「養育費請求調停」を申し立てたときや、「養育費の取り決め」をしたときから請求が可能と考えられています。養育費の取り決めをしていない場合は、早急に調停を申し立てるべきといえます。養育費に関しては、離婚後○年で時効にかかるという概念がありませんので、子供が成人するまでいつでも請求が可能です。離婚の際、「養育費はいらない」と放棄した場合でも、基本的には子供の権利として請求が可能です。仮に、養育費を諦めてしまった方も、子供のためのお金ですから、諦めずに今からでも請求する方法を考えましょう。

養育費の金額は、基本的には、父親の収入、母親の収入、子供の年齢・人数を基礎に決定されます。裁判所で用いる「養育費算定表」が一般的に利用されています。たとえば、夫の年収500万円で妻の年収100万円、子供が10歳の場合では、月額4~6万円となります。養育費の金額に関する平成22年司法統計によれば、実際に決定された養育費の額は、月額2~4万円が45%と最も多く、続いて4~6万円が20%と2位を占めています。

(※ 司法統計年報3家事編平成22年のデータに基づきます。)

(※ また、上記のデータは、離婚調停成立又は24条審判事件のうち母を監護者と定めた場合であり、養育費が月払される場合のデータです。)

(※ %=小数点以下四捨五入)

「公正証書」や家庭裁判所の「調停調書・審判書」にしておくことが重要

養育費について、口約束だけでは、支払いが滞った場合に対処ができません。将来の養育費を定期的にしっかり支払ってもらうためには、強制執行が可能な、「公正証書」や家庭裁判所の「調停調書・審判書」にしておくことが重要です。これらの書面があればもし父親からの養育費の支払いが滞っても、給与や預金を差し押さえることによって強制的に養育費を回収することができます。

「慰謝料」「財産分与」「養育費」と3回に分けてお話させて頂きましたが、離婚の際のマネーに関する法的知識は非常に複雑です。裁判例も多岐にわたっており、一般的な法的理論が、案件によっては当てはまらないということもしばしばあります。離婚の際のマネーの話は、ご自身で全て網羅しようと思うと、やはり損をしてしまう可能性が高いです。

離婚で損をしないためには、離婚に関する法的知識を身につけることはもちろんですが、あなたが直面している離婚問題の具体的事案において、いかなる法的主張・方針がベストなのかを知ることが一番大事です。すぐに離婚に応じたほうがいいのか、しばらく別居状態を続けたほうがいいのか等も、緻密な判断となります。

もし、悩んだり不安になったりした場合には、まずは弁護士を頼ってくださいね。

(※写真画像は本文とは関係ありません)

<著者プロフィール>

篠田 恵里香(しのだ えりか)

東京弁護士会所属。東京を拠点に活動。債務整理をはじめ、男女トラブル、交通事故問題などを得意分野として多く扱う。また、離婚等に関する豊富な知識を持つことを証明する夫婦カウンセラー(JADP認定)の資格も保有している。外資系ホテル勤務を経て、新司法試験に合格した経験から、独自に考案した勉強法をまとめた『ふつうのOLだった私が2年で弁護士になれた夢がかなう勉強法』(あさ出版)が発売中。『Kis-My-Ft2 presentsOLくらぶ』(テレビ朝日)や『ロンドンブーツ1号2号田村淳のNewsCLUB』(文化放送)ほか、多数のメディア番組に出演中。 ブログ「弁護士篠田恵里香の弁護道