地方出身者が地元の料理を食べたくなったら駆け込める、同郷の人との触れ合いに飢えたときに癒してくれる、そんな東京にある"地方のお店"を紹介していくこの企画。コロナ禍の昨今、せめておいしい地方の物を食べて各地を旅行した気持ちになりたい! という他県のあなたも必見です。

今回は山形県がテーマ。東北地方の日本海側、新潟の北、秋田の南、東側が宮城・福島に接する県です。

  • 山形の郷土料理をあがてけらっしゃい


山形県というと、さくらんぼと洋ナシの産地として有名ですが、統計を見てみると里芋とこんにゃくへの支出金額と、醤油の消費量が日本一とのこと。代表的な郷土料理に玉こんにゃくと芋煮がありますが、そのまんまその材料ですね(笑)。いかにこの郷土料理が愛されているかがうかがい知れます。

  • 温かな明かりの灯る店先

山形のソウルフードを食べつくす

今回お邪魔したのは、高円寺の「山形料理と地酒 まら」さんです(以下、「まら」)。高円寺駅南口のロータリーを越えて左側に曲がり、古めかしい喫茶店を横目に歩いていくと、高円寺中央公園の手前にあるお店さんがそこです。

  • カウンターとアートの映える店内

店内はカウンターとテーブル席で、合わせて30席ほど(現在は新型コロナ感染症対策として、一度の入店人数を減らして営業中)。おしゃれな雰囲気の中に、カジュアルさと落ち着きを醸し出しています。

さて早速最初の一品、「玉こんにゃく」(300円)をいただきましょう。先ほど説明した通り、山形では定番の郷土料理で、名前のまんま丸く成型されたこんにゃくです。

板状のものや糸こんにゃくが一般的に普及した中、この丸い形状は山形特有のものなんだそう。お祭りなどの出店で串に刺して提供されることも多く、ファストフード的な位置づけもされているそうです。

  • コロコロとした外見が特徴の「玉こんにゃく」

「まら」さんでは、串ではなくお皿に盛り付け、辛子を添えてお出ましです。よく見る、灰色っぽくて黒い斑点のようなものが混じってる一般的なこんにゃくに比べると白いですね。そしてかなり弾力が強い。ブリブリですよ。

噛み締めるとシャクっと音がするんじゃないかというくらいの密度。かじってみると、中までほんのり醤油の色がついており、よくしみています。

丸ごと頬張ってこれでもかというくらい噛み締めていると、醤油と出汁の味がどんどん出てくる……! するめや昆布を使った出汁を使っているそうで風味豊かな味わいです。

また、食べ応えがあるので4つで満足を得られ、まさにファストフード。手ごろに食べられるシンプルを持ちつつお腹が満たされる。しかし、カロリーが低くて食物繊維が豊富。いいことばかりですね。

お次は、「芋煮鍋」(1,000円)をお願いしました。やはりこちらも山形の郷土料理として有名ですよね。

ちなみに「芋煮会」という、もともとは収穫祭的なイベントとして屋外で集まって芋煮をみんなで食べる催しは、BBQのような感覚で行われる季節のイベントとして広く親しまれているそうです。本格的に寒い時期になってきたので、温かい芋煮はぴったりですね。

  • ぐつぐつと煮立った熱々お鍋が登場

「芋煮鍋」は、メインになる大振りの里芋のほかに、牛肉、ネギ、しいたけ、舞茸、ゴボウ、水菜などが入っていて非常に具沢山。醤油をメインにした汁に、砂糖を入れているので、ほんのりと甘みのある仕上がりになっています。

まずは里芋からいただきます。結構大きめ、そしてかなり柔らかく煮込まれおり、里芋特有の少し粘っこくホクホクした食感が楽しめます。

ベースの醤油は甘めの出汁醤油を使っているとのことで、醤油の塩味や風味に加えて甘さと旨味もプラスされており、なかなかに深い味わい。そうこうして味を楽しんでいると、里芋がいつの間に口の中でとろけていなくなってしまいます。

ゴボウやきのこといった秋冬の食材や、太めのネギも大量に入り、里芋と合わせて食べると食感にアクセントがつきいい感じ。素朴な味が、身も心もほっと落ち着かせるような料理です。

ほっこりしながら食べ進めていると、不意に甘みが口の中に広がります。今までの醤油と砂糖がメインの風味とは違う、それが一気に遠くへ行ってしまうくらいのインパクト。口の中 で香り立つようなリッチな味わい。

どっかで食べたことあるな、これ。んー……。わかった! すごいいい牛肉を食べたときの感じだ! 気になって店長さんに尋ねてみると、お肉は牛バラ肉を使っているけど、脂の部分は和牛のものを使っているんだとか。そこがあの甘みの正体だったんですな。欠片程度でも、この甘みと香り……。和牛すげぇな。

  • 山形で愛される隠し味

関心していると店長さんが「山形ではこれをかけて食べるんですよ!」と持ってきてくれたのは、一味と七味。山形のメーカー「大正館食品」さんの薬味だそうです。調べてみると、七味は唐辛子、ごま、陳皮、ケシの実、山椒、生姜粉末、乾海苔、あおさ粉の8種の材料で構成されているとのこと。七味なのに(笑)。

地域によって七味の中身は少しずつ異なるものですが、東京のスタンダードなものからすると、生姜やあおさ粉が入ってるのは珍しく感じますね。たしかに生姜や海苔のような芳ばしい香り。一振りすればスッとする爽やかな香りと刺激的な辛さが広がります。

なるほどなるほど。甘塩っぱくホクホクに煮られた里芋を、キノコやごぼうの歯応えと合わせて楽しみ牛肉をひとかじり。一気に口の中を席巻するお肉の甘い香りを無茶苦茶鼻呼吸して堪能します。そして最後に牛のエキスが染み出しまくりの極上の旨味を汁に、七味を散らして、爽やかな香りとともに流し込む……以下繰り返し。完璧なループ。ハマりすぎてあっと言う間に飲み干してしまいました。それほどに“極上”。

ちなみに、残った汁を使ってカレーうどんをいただくことも可能で。これまた絶品で人気のメニューなんだそう。汁まで飲み切ってしまった僕には無縁ですが……。

じわじわ人気を広げるニューカマーも

そして今回の〆として、山形県のほぼ真ん中に位置する河北町(かほくちょう)に起源を持つB級グルメ「河北町 冷ったい肉そば」(850円)を注文。

  • B-1グランプリ出展以降有名になったという「冷ったい肉そば」

名前の通り、冷たいおそばです。澄んだスープとそばに、鶏肉やカイワレ、ネギをトッピング。スープは鶏から出汁を取っていて、さっぱりとした中にしっかりとした味わいに仕上がっています。

  • 太く歯応えのある麺が特徴

麺は、黒い田舎そば。結構太めで、口に入れると少しモソモソするくらいの歯ごたえです。のどごしとは正反対の感覚ですが、スープの味付けに負けない味わいでそばを楽しむことができます。お肉はコリコリとした歯応えのある親鳥を使用。これをかじるようにして食べます。

河北町では、そばというとこれが定番で、冬でもこの冷たいおそばをいただくんだとか。最近では東京でも「肉そば」の専門店が見られますが、そのブームの一端を、この「冷ったい肉そば」が担っているのかもしれませんね。

  • 山形の地酒たち(左から「杉勇」「冽」「鯉川」「出羽の里」)

「まら」さんでは、山形の各地の地酒が数多く取り揃えられています。季節のものも精力的に仕入れているので、訪れる度に新しいお酒に出会えるかもしれません。

この日いただいたのは山形県最北に位置する遊佐町にある酒蔵・奥の松酒造の「純米 杉勇」(一合840円)です。優しめながらしっかりお米の香りが主張をしてくる、だけど後味はスッキリとした日本酒です。料理に合わせていくらでも飲めてしまいます。

故郷をおいしい料理で応援!

オーナーのひとりが山形出身だったことからスタートした「山形料理と地酒 まら」。現在では高円寺を中心にいくつかグループ店を展開されていますが、同店が旗艦店に近い役割を負っています。

  • 店長の我妻直也さんと、米沢のお酒「冽」。我妻さんは米沢市の出身。もともとお客さんとしてお店に通っていたが、山形出身ということからスカウトされて今に至るそう

そんな「まら」では、四季の味を楽しむことのできる地元・山形の料理を、自慢の地酒はもちろん、地場の伝統野菜を活用するなど、食材にもこだわって提供しています。素朴でなじみ深いような、だけど食べてみると広がりのある山形のソウルフードの数々。ぜひぜひ、あがてけらっしゃい!


<店舗情報>
「山形料理と地酒 まら」
住所:東京都杉並区高円寺南4-30-8 サウスコア1F
営業時間:[月曜~金曜]18:00~25:00、[土曜日]17:00~25:00、[日曜日]17:00~24:00(現在、新型コロナ感染症対策で最終入店は23:00まで)
定休日:無休

※価格は税別

取材・文=古屋敦史、構成=小山田滝音(ブラインドファスト)