住宅ローンを組む際、夫婦で共有名義にするということは、それぞれ住宅購入のための資金または収入があるということになります。しかしそのあり方は千差万別、それぞれの夫婦によって全く違います。夫婦で共有名義にするための最適なローンの組み方は、それぞれの夫婦によって異なると言ってよいでしょう。後々困らないように、自分たちにとって最適な方法を見つけなければなりません。
保証人、連帯保証人、連帯債務者の違いは?
以前のレポートにも掲載しましたが、まずは用語の違いを転記しておきます。共有名義にする場合は、これらの違いをしっかりと確認した上で最適なものを考える必要があります。
債務者と保証人
債務者とは、住宅ローンを借り入れた人のことです。住宅ローンは、保証人を立てずに保証会社を利用することが多いですが、債務者の親などが保証人になるケースも実際にはあります。保証人は、債務者が返済不能になったときに代わって返済義務を負います。大切な点は、債務者が返済できないときですので、そうでない場合は保証人は債権者に、まずは債務者に請求するように言い渡すことができます(「催告の抗弁権」)。
連帯保証人
保証人との違いは、債務者が返済できないときに限らず債権者の請求があったときに返済の義務がある点です。返済能力はあってもなかなか支払わない債務者に対して、債権者は連帯保証人に請求することができるなど、債務者とほぼ同じ扱いになります。「催告の抗弁権」は連帯保証人にはないのです。そのため、1日でも返済が遅れれば請求される場合もあります。しかし下記の連帯債務者と異なるのは、債務が滞って初めて債権者から請求される点です。
連帯債務者
連帯保証人と同様に「催告の抗弁権」はありませんが、連帯保証人と異なるのは、債務者と同等の債務を負う点です。連帯債務者は、借り入れた金額全額に対して返済の義務を負います。現実は支払いが滞ってから請求されることが多いので、連帯保証人と変わりないように思われがちですが、理論的には債権者はどちらにも同等に請求できるのです。
担保提供者
夫婦どちらかが所有する土地に共同で住まいを建築する場合、土地の所有者は建物の建築に伴う住宅ローンに担保提供しなければならないケース(フラット35など)があります。親から土地を相続した、親の土地を使用貸借する、親が住む土地の一部を使用貸借するなどのケースはよくあります。土地を担保提供する側のリスクをどう取り扱うかも重要なポイントです。
共働き夫婦で住宅ローンを組む場合
共働き夫婦で住宅ローンを組む方法はいくつかあります。下記の表に代表的な例をまとめてみました。
住宅ローンを1人で組むケース
「一方に拠出できる十分な現金がある」、「すでに配偶者が住まいを取得していて、そのままローンを払い続け賃貸にするケース」など、さまざまなケースが考えられます。1人の収入でローンを組むので、借りすぎることもなく、比較的不測の事態にも対処しやすいケースかもしれません。それぞれの財産も明確になります。ただし、債務者ではない配偶者にはローン返済の負担は必要ありません。双方に収入がある場合は、当初の拠出分だけでなく返済期間中の生活費や家事の分担も公平に考え、それぞれの財産形成への配慮が必要でしょう。
収入合算(連帯保証型)
このケースの問題点は、連帯保証人が死亡しても残債は弁済されない点です。連帯保証人が死亡したり収入がなくなったりすると、債務者は収入に対して多めの返済をしていかなくてはなりません。連帯保証人は、別途債務に見合う対策や保険を考えておくとよいでしょう。
収入合算(連帯債務型)
表のように、連帯債務はほぼ実質債務者と同様の扱いとなるので、住宅ローン控除もそれぞれ受けられます。しかし、連帯債務者には一般的に団体信用生命保険(以下、団信)は適用されませんので、そのためのリスク回避対策が必要です。住宅金融支援機構のフラット35「デュエット」を利用すると、連帯債務者にも団信が適用されますが、その場合の保険料は1.56倍となります。またフラット35の場合は、「収入合算」する場合の合算者は連帯債務者になる必要があります。民間にも連帯債務者向けの団信の商品もありますが、数は多くありません。
ペアローン
夫婦それぞれが借り入れる分の債務者となり、ローンを組む方法です。夫婦はそれぞれ配偶者の連帯保証人となります。連帯保証人が死亡しても、自分の分の残債は残ります。手数料等の付帯費用一式、それぞれ別々に必要となります。
住まいの取得は、夫婦にとって一大イベントです。資産形成の上でも、今後のリスク回避の上でも、重要な選択を迫られます。この機会に、より一層しっかりと将来の生活設計や夫婦の財産について話し合うことが、安心してローンを返済していく大切なポイントです。
■ 筆者プロフィール: 佐藤章子
一級建築士・ファイナンシャルプランナー(CFP(R)・一級FP技能士)。建設会社や住宅メーカーで設計・商品開発・不動産活用などに従事。2001年に住まいと暮らしのコンサルタント事務所を開業。技術面・経済面双方から住まいづくりをアドバイス。