「え? 落語? ここなん年か、ブームなんでしょ。そりゃあ、ちょっとは興味あるし、きいてみたいとは思ってるけどさぁ……知ってる噺家が出る落語会は、すぐチケット売り切れになるし。寄席っていうのも、なんだか敷居が高くてネ」

なんてことを言ってる人、いませんか? ローホーですよ。今年2月、神田にオープンした「らくごカフェ」。気軽に落語を楽しみたいという人にオススメです。どんなところかというと……。

初心者も、ぶらり、と立ち寄れる落語空間

「落語ファンの方から、ファンが交流できる場所がないという話をよく耳にしたんですよ。落語会に行っても終われば帰るだけですしね。それで、じゃあそういう場所をつくろうと」

そう話してくれたのは「らくごカフェ」代表の青木伸広さん。神田に生まれ育ち、幼い頃から父親に連れられて寄席に通っていたという青木さんは、噺家にも知り合いが多く、このカフェのオープンには数多くの噺家さんたちの協力があったといいます。

「らくごカフェ」ですが、昼間はふつうのカフェ。とはいえ、もちろん店内で読むことができる落語関連の書籍はとても充実しています。本棚から落語の本を選んで、コーヒーやお茶を飲みながら読むというのは、ここならでは。カフェおすすめのお茶菓子付き中国工芸茶(ジャスミン茶、白茶など)を注文して、6時間も落語本を読みふけっていた学生さんもいたとか。ま、それは特殊な例としても、入門者むけから通好みの本まで、いろいろとそろっているので濃密な時間を過ごすことができます。

カフェは神田古書センター5階。靖国通りから一本入ったビル裏手のエレベータを利用する

カフェにはコーヒーなどのほか、ビール、日本酒なども用意されている

落語会のチラシもさまざま。これだけまとまった情報はなかなか簡単には集められないものです。掘り出し物的な落語会情報も得られそうな予感。落語関連のグッズやCDなども見逃せません。そのほか、サインや絵など、とにかく興味深いものがそこかしこに置かれていて、ファンならずとも目を引かれるはずです。

落語関連の書籍は全集から入門的なものまで幅広く取り揃えているので、お好みのものを手に取ってみよう

小さな落語会を中心にしたチラシがずらり。意外と手に入れにくいものもあり、貴重な情報源だ

CD、書籍などの多彩なラインナップには思わず目を引かれてしまうはず

そして何よりも、気軽に立ち寄れるというのがいい。「らくごカフェ」があるのは、神田古書センターの5階。カレーの有名店「Bondy」が入っているビルです。落語の情報を求めて訪ねるのはもちろん、古書街を歩いたついでに、ぶらり、と寄ってみるのもおすすめです。

噺家さんたちの手ぬぐいなどをはじめとしたグッズが気楽に買えるのもここならでは

談春師匠の写真やサイン、そのほか噺家さんたちゆかりの品々が並んでいて、なんとも贅沢

若手からベテランまで多彩な落語会

「らくごカフェ」の醍醐味は、夜の落語会。カフェ主催の「らくごカフェに火曜会」は、毎週火曜日の19時30分開演で、ワンドリンク付前売り1,500円、当日1,800円とたいへん魅力的な料金です。そのほかにも、噺家さんたちの企画などによる落語会が日々開かれているので、まずはスケジュールを確認しましょう。

中には、青木さんと交流のある立川談春師匠の一門会という、落語ファンにとっては「!!!」と声をのむ落語会も。いまやチケットが入手困難な談春師匠の噺を、これほど間近で聴ける場所なんてほかにはありません(もちろん、チケットはすぐに売り切れるようですが)。

この日の「らくごカフェに火曜会」に登場した古今亭朝太さんは、今は亡き志ん朝師匠のお弟子さん。踊りも披露してくれた

柳亭こみちさん。柳亭燕路師匠(柳家小三治師匠の弟子)のお弟子さんで、女性のファンも多い

そうそう、この「間近さ」も重要です。カフェのスペースは20人から50人くらいまでアレンジ可能で、これは昔の寄席のサイズに近いとのこと。聴く側にとっても贅沢な距離感ですが、噺家さんにとってもおもしろい空間のようです。若手にとっては、実験的な噺にチャレンジしたり、遊び感覚を取り入れたり、さまざまな取り組みができる上に、高座がすでにあり、スタッフもいるので、噺家さん一人でも落語会を企画できるのです。そんな要素もあるためか、「らくごカフェ」の落語会は実に多彩。月亭方正さんなんかも登場しますよ(「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!!」などに出ているあの方です)。

ファンの交流は自然に展開

「自由にこの場所を使えるのはお客さんも同じ。例えば、落語つきの宴会などもできます。『この噺家さんで落語会をしたい』というご相談にものっています。気楽に席亭にもなれるわけです」

青木さんによれば、オリジナルの落語会の開催も可能とのこと。落語好きが集まったら、ぜひ利用してみたいものです。もちろん、落語好きの仲間を求めて「らくごカフェ」に来るという人もたくさんいます。ここの落語会で知り合いになって、その後、別の落語会や寄席に行ったり、落語の情報を交換したり……。

「落語ファンのみなさんの交流はとても盛んで、予想以上の盛り上がりです。『こういう場をつくってくれて、ありがとう』という言葉もいただいて感無量ですね」

青木さんが手がけられた落語関連の本。もちろん、「らくごカフェ」で購入可能

「らくごカフェ」を訪ねてくるのは、年配の落語通のほかにも、若い人たち、特に女性が多いとのこと。「わたしは本当にカフェを開いただけで、後は噺家さん、お客さん、そのほか大勢の方たちが集まって、育ててくれているという感じです」と青木さんはおっしゃいますが、やはりこのカフェの登場なくしては、このような落語を通した人々の交流は生まれなかったでしょう。

落語の世界に浸れるカフェであり、ライブハウスのような存在の「らくごカフェ」。神田に誕生したこの小さなスペースは、計り知れない大きさを秘めていますよ。