2019年4月30日に幕を下ろす「平成」。マイナビニュースでは、「平成」の中で生み出されたエンタメの軌跡を様々なテーマからたどる。この連載は、「視聴率や俳優の人気は無視」のドラマ解説者・木村隆志が、平成元年から31年までのドラマを1年ごとに厳選し、オススメ作品をピックアップしていく。第4回は「平成4年(1992年)」。

平成4年(1992)は、2月にフランスのアルベールビルで冬季五輪、7月にスペインのバルセロナで夏季五輪が開催。次回の冬季五輪は2年後に開催されたため、最後の同年開催としてテレビ中継も盛り上がった。

バラエティでは4月に『さんまのからくりTV』(TBS系)、7月に『進め!電波少年』(日本テレビ系)、10月に『関口宏の東京フレンドパーク』(TBS系)がスタート。『24時間テレビ』(日本テレビ系)のチャリティマラソンがスタートし、「サライ」もこの年に作られた。

一方で、9月に『クイズ100人に聞きました』(TBS系)、10月に『アメリカ横断ウルトラクイズ』(日本テレビ系)、12月に『クイズダービー』(TBS系)が終了。以降、視聴者参加クイズ番組が激減していく。

アニメでは3月に『美少女戦士セーラームーン』(テレビ朝日系)、4月に『クレヨンしんちゃん』(テレビ朝日系)がスタート。現在の子どもたちも知る国民的作品となった。

ドラマでは、前年の『東京ラブストーリー』『101回目のプロポーズ』(フジテレビ系)の大ヒットを受けて“ドラマブーム”が到来。作品のクオリティはバラつきがあった反面、高視聴率が続出した。TOP3には「ツッコミどころ満載で、すぐにでも再放送を希望したい3作」を選んだ。

野島伸司の転機となったドロドロ群像劇

■3位『愛という名のもとに』(フジテレビ系 主演:鈴木保奈美)

鈴木保奈美

鈴木保奈美

物語は、大学のボート部で青春を謳歌した7人、藤木貴子(鈴木保奈美)、高月健吾(唐沢寿明)、神野時男(江口洋介)、飯森則子(洞口依子)、塚原純(石橋保)、斉藤尚美(中島宏海)、倉田篤(中野英雄)が、卒業3年後に再会するところからスタート。友情を確認し、充実した日々を送る様子を見せ合うが、それぞれ深い悩みを抱えていた。

その悩みは世間の同年代と同じ、仕事や恋だけに留まらず、不倫、自殺未遂、強姦未遂、パワハラ、横領、政治家の汚職、ダイヤルQ2ビジネス、そして、仲間の自殺……と“トラブルのデパート”状態。当時、Twitterがあったら「チョロ(篤)の自殺」は、ぶっちぎりのホットワードだっただろう。

当作を思い切りざっくりまとめると、「理想を追い求めてもがくほど、厳しすぎる現実にぶち当たる。そんなとき頼りになるのは、ボート部のあいつらだった」。気恥ずかしさを禁じ得ないほどの青くさい友情物語は1970~1980年代に流行ったもので、当時すでに廃れていただけに、一周回って新鮮なムードを醸し出していた。

そんな青くさいムードにピッタリな主題歌は、浜田省吾の「悲しみは雪のように」。同曲に限らず、「愛という名のもとに」「もうひとつの土曜日」「J.BOY」「ラストショー」など浜田の楽曲が繰り返し流され、サブタイトルにも曲名が使われるなど、まさにハマショー祭り。最初からハマショーのイメージをベースに作られた作品であることを視聴者も理解し、彼らの青春群像劇に浸っていた。

特筆すべきは、前年の『東京ラブストーリー』(フジテレビ系)に続くアンハッピーエンドで視聴者をザワつかせたこと。苦情がダイレクトに突きつけられる現在ではハッピーエンドが8~9割を占めるだけに、「最後まで結末がわからずハラハラドキドキできる」当時の作品が持つエンタメ性を感じてしまう。

脚本の野島伸司は、それまで『君が嘘をついた』『すてきな片想い』『101回目のプロポーズ』(フジテレビ系)などの純愛を描いてきたが、当作で若者の闇を描いて以降、作風を激変。『高校教師』(TBS系)、『ひとつ屋根の下』『この世の果て』(フジテレビ系)、『人間・失格~たとえばぼくが死んだら』『未成年』『聖者の行進』(TBS系)と、過激な設定や描写の作品を連発した。その意味で、脚本家・野島伸司の分水嶺となった作品と言える。

ヒットジャンルを“いいところ取り”の名作

■2位『愛はどうだ』(TBS系 主演:緒形拳)

福山雅治

福山雅治

妻に先立たれた三崎修一(緒形拳)と、長女・あやめ(清水美砂)、次女・かなえ(つみきみほ)、三女・さなえ(渋谷琴乃)の家族愛を描いた物語……。こう書くと、ありがちな印象を受けるが、「父と娘のホームドラマ」であると同時に、「あやめとかなえの恋愛ドラマ」のテイストが色濃く、ヒットジャンルをダブルで楽しめる“イイところ取り”の名作だった。

作品のムードは、シリアス、コミカル、ハートフルが見事に共存。この点では、「どれか1つに振り切ると視聴率が取れない」と言われる現在のドラマシーンには格好の教材となるだろう。

最大の見どころは、緒形拳さんの熱演。思いが強すぎて、空回りしたり、理不尽になったり、頭を下げたり。修一が娘たちに向ける「お前たちの愛はどうなっているんだ?」「お前たちに向けるオレの愛はどうだ!」という2つの思いが全編を通してあふれ、視聴者の心をわしづかみにしていた。

あやめの恋人・本村喜一(伊原剛志)、かなえの恋人・矢沢誠(福山雅治)、かなえを翻弄する派遣先の社長・倉本(冨家規政)、修一に好意を抱く上司・大橋真澄(伊東ゆかり)と部下・坪倉洋子(羽野晶紀)、修一の元愛人・真行寺姫子(渡辺えり)など、純粋から悪、コミカルまでキャラクターは多彩。それぞれの葛藤や決断を丁寧に描いていた。

なかでも目を引いたのは、実質的な出世作となった福山雅治。上司役の緒形拳さんから、何度も頭を小突かれまくるシーンは、今では考えられない軽さで、当時は舎弟キャラが似合う人という印象だった。また、デビュー作の常盤貴子が緒形拳さんの部下役で、初々しい演技を披露している。

主題歌は辛島美登里の「あなたは知らない」、挿入歌は福山雅治の「Good night」。以降、福山はアーティストとしてヒット作を連発していく。