「二度と放送できない」史上最悪の問題作

■1位『あなただけ見えない』(フジテレビ系 主演:三上博史)

三上博史

三上博史

ツッコミどころと悪事の多さでは、日本ドラマ史上トップクラス。今回は、「二度とこんな月9は作れない」と断言できる当作を1位に選んだ。

サスペンス、ミステリー、ホラー、サイコ、バイオレンス……いまだにどんなジャンルの作品なのか説明がつかない。ただ、この「何でもアリ」のスタンスは、「これもやっていいんだ」「ウチもこれは採り入れよう」と局を超えて表現の幅を広げ、90年代の連ドラに影響を与えた。

あまりに複雑なため、あらすじは割愛するが、その分、主演の三上博史にクローズアップしたい。三上は、悪事に手を染める冷酷な男・青田和馬と、穏やかな好青年・高野淳平という表裏の性格を持つ多重人格者を演じていたが、さらに、極悪な女・明美の人格が現れたとき、視聴者は驚き、困惑する。しかし、その演技を見ると、すぐに多少の疑問など軽々と超えてしまう笑いが押し寄せた。

その後、三上は人格が入れ替わる演技を連発。「和馬から淳平」「淳平から明美」「明美から和馬」と互いの人格がせめぎ合いながら、小刻みに入れ替わる演技が続き、終盤にはイスに座ったミイラに話しかける一人芝居のシーンがあるなど、三上の演技に視聴者は熱狂した。実際、「いまだに三上博史を見ると、ソバージュに赤いルージュの明美を思い出す」という人は多く、以降の出演作はこれまでの爽やかなイケメンよりクセの強い役柄が増えた。

その他のキャラも、窃盗や盗聴、二股や不倫、虐待や監禁、恐喝や霊の憑依、人格を崩壊させる、記憶を植えつけるなど、罪と罰のオンパレード。ほとんどのキャラが死んでしまうのだが、その殺され方はあっさりから残虐極まりないものまで、バリエーションが確保されていた。ヒロインの小泉今日子は、はりつけにされ、ムチで打たれ、卑猥な言葉を吐くなど、体当たりの演技にファンは騒然。しかし、本人はアイドルのイメージを一新することに成功した。

最終回の結末は、ぶっ飛びすぎて理解不能。ただ、それがこの作品にはふさわしい。中盤以降、理解なんて求めず、謎解きや伏線に目もくれず、ただただ映像を見て楽しむことに徹した視聴者が多かったからだ。

主題歌はDate of Birthの「you are my secret」。英語の歌詞である上に、ドラマにちょくちょくロシア語が登場するため、日本人のバンドであることはあまり知られていなかった。

「ドラマ絶頂期」の豊作時代

あらためて振り返ると、平成4年は「ドラマの絶頂期」とも言える年だった。下記の作品を見て、「何でトップ3に入ってないんだ!」と不満を言いたくなる人もいるだろう。それほどヒット作が多かった。

その他の主な作品は以下。

  • 安田成美

    安田成美

  • 賀来千香子

    賀来千香子

  • 佐野史郎

    佐野史郎

図書館で司書として働く優美子(安田成美)と、ミュージカル女優を目指すカンナ(中森明菜)の友情を描いた『素顔のままで』(フジテレビ系 主演:安田成美・中森明菜 主題歌:米米CLUB「君がいるだけで」)。当時、女性同士の友情を描く月9は斬新であり、内向的な優美子とガサツなカンナの対比も話題に。特に中森のカンナはモノマネの標的に。

世間に与えたインパクトなら断トツ。ストーリーや主人公と相手役を超えて、冬彦さん(佐野史郎)が大ブームとなった『ずっとあなたが好きだった』(TBS系 主演:賀来千香子主演 主題歌:サザンオールスターズ「涙のキッス」)。木馬をはじめ語り継がれるシーンは多いが、過剰なマザコンキャラは、野際陽子さんのアドリブを拡大解釈した現場のファインプレー。

  • 福山雅治

    吉田栄作

  • 石田ゆり子

    石田ゆり子

「ヒット映画『ゴースト』のまんま」と言われながらも、吉田栄作と石田ゆり子の熱演で視聴者を魅了した『君のためにできること』(フジテレビ系 主演:吉田栄作 主題歌:小野正利「You’re the Only…」。主人公が天に昇り、星になる最終回のラストシーンは、ある意味レジェンド級。挿入歌のKIX-S「また逢える…」も名曲の1つ。

ツッコミどころの多さでは、こちらも負けていない。「25~35歳までの10年間を1話1年ずつ描く」というトリッキーな設定の『十年愛』(TBS系 主演:田中美佐子・浜田雅功 主題歌:大江千里「ありがとう」)。今思えば主人公たちも周囲のキャラもストーカーだらけ。大江千里がメリーゴーランドから投げ飛ばされて死ぬシーンは放送事故レベル。

  • 牧瀬里穂

    牧瀬里穂

  • 柴田恭兵

    柴田恭兵

タイトルよりも「ヒューヒューだよ」「カキーン」のほうが有名だったラブストーリー『二十歳の約束』(フジテレビ系 主演:牧瀬里穂・稲垣吾郎 主題歌:佐野元春「約束の橋」)。序盤でここまで視聴者の印象が決定的になってしまった作品も珍しい。ただ、ギャグに近いセリフも「今、坂元裕二の脚本だった」と聞けば、別の味わいがある。

女グセの悪い童話作家の広瀬(柴田恭兵)、ホテルマンの佐竹(三浦洋一)、バーテンダーの中沢(風間トオル)と子どもたちが共同生活するホームコメディ『子供が寝たあとで』(日本テレビ系 主演:柴田恭兵 主題歌:槇原敬之「もう恋なんてしない」)。プレイボーイ役の3人と子役のかわいらしさで女性からの圧倒的支持を獲得した。

  • 唐沢寿明

    唐沢寿明

  • 豊川悦司

    豊川悦司

圭介(唐沢寿明)とうらん(浦江アキコ)、幸子(清水美砂)と周二(福山雅治)。同棲カップルの組み合わせが変わるドロドロのラブストーリー『ホームワーク』(TBS系 主演:唐沢寿明 主題歌:稲垣潤一「クリスマスキャロルの頃には」)。最後は円満に終わるのがクリスマスドラマのお約束だが、主題歌の歌詞がバシッとハマった。

超能力を持つことで、悪意や危機に立ち向かわざるを得ない兄弟の奮闘と成長を描いた『NIGHT HEAD』(フジテレビ系 主演:豊川悦司・武田真治 主題歌:インストゥルメンタル)。のちに映画『らせん』『リング』らを手がける飯田譲治らしいホラーSFの世界観が爆発。深夜ドラマの礎となった記念碑的な作品とも言える。

■著者プロフィール
木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などに出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。