■平成ドラマ史に残る切なすぎた結末

1位『歌姫』(TBS系、長瀬智也主演)

  • 相武紗季

    相武紗季

  • 小池栄子

    小池栄子

全話平均視聴率は8.0%と低迷。しかも最終回は最低の6.0%に留まったが、「号泣した」という声が飛び交うなど、見た人の満足度は極めて高かった。

主なあらすじは、「戦後、高知・土佐清水に流れ着いた四万十太郎(長瀬智也)は、以前の記憶を失っていたが、映画館・オリオン座で住み込みの映画技師として働きはじめる。オリオン座の娘・岸田鈴(相武紗季)は太郎に好意を抱き、周囲の人々もその恋を応援していた。10年がすぎて恋が成就しようとしていたころ、太郎の妻・及川美和子(小池栄子)が現れる」というもの。

正直なところ、中盤までは「凡庸な恋愛ドラマ」という印象にすぎなかった。しかし、太郎の記憶が戻りはじめ、自分が及川勇一で妻子がいることがわかったシーンから怒涛の感動ストーリーがはじまった。

子どものために東京へ行くことを決意しながら、鈴と美和子、2人の女性を思い、「土佐清水で過ごした10年間の記憶をなくしたフリ」をする太郎。周囲の人々にも太郎ではなく勇一として振る舞い、別れのシーンでも一人一人に言葉をかけたい気持ちをグッとこらえる。太郎が乗ったバスが走り出し、泣きながら追いかける鈴。クロワッサンの松(佐藤隆太)に「鈴のことを頼む」とばかりに目配せする……セリフに頼らず佇まいだけで、二人の人格を演じ分けた長瀬の熱演が涙を誘った。

それでも視聴者は、「最後は太郎と鈴が結ばれるだろう。いや、結ばれてほしい」という気持ちで見守っていたが、待っていたのは意表を突く結末。「二人の孫が“懐中時計”と“真珠のネックレス”に導かれて出会い、生まれ変わって結ばれる」という胸が絞めつけられるようなラストシーンに名作の香りが漂っていた。

幼いころから太郎を慕いどこまでも健気に思い続けた鈴、勇一を強引に連れて帰ろうとせず太郎としての人間関係を慮った美和子、「10年間世話してもらったお礼」として渡されたお金を「自分たちが暮らしたのは勇一ではなく太郎」と受け取らなかった鈴の父・勝男(高田純次)など、純粋・一途・温かいキャラクターであふれ、どこをどう切り取っても古き良き日本人の優しさがあふれる名作だった。

主題歌は、TOKIO「青春 SEISYuN」。挿入歌のエリック・クラプトン「Change The World」も素朴な土佐清水と昭和のムードにフィットしていた。

『ホタルノヒカリ』『東京タワー』『ハゲタカ』『ガリレオ』

その他の主な作品は下記。

“干物女”の恋と仕事を描いた『ホタルノヒカリ』(日テレ系、綾瀬はるか主演、主題歌はaiko「横顔」)。綾瀬はるかの好感度をグッと上げ、コメディエンヌとしての道を切り開いたキャリアの分岐点。視聴率以上にキャラクターが愛されたこともあって、2010年に第2シリーズ、2012年に映画版が制作された。

リリー・フランキーの自伝的小説をドラマ化した『東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~』 (フジ系、速水もこみち主演、主題歌はコブクロ「蕾」)。小説の大ヒットと2時間ドラマ版の先行放送で多くの人が内容を知り、「もこみちとリリーが違いすぎる」という声もある中、感動に導いたのはオカンを演じた倍賞美津子。画面中に母性をにじませるさすがの存在感で、事実上の主役だった。

昨年も綾野剛主演でドラマ化された経済ドラマ『ハゲタカ』(NHK、大森南朋主演、主題歌はtomo the tomo「Road To Rebirth~a chainless soul~」)。シビアな物語を際立たせる大友啓史、井上剛、堀切園健太郎のハードボイルドな演出が出色。「クールなのにダイナミック」「美しいのに怖い」という相反する魅力を併せ持つ高品質で多数の受賞を果たした。

物理学の大学教授・湯川学が女性刑事・内海薫の依頼で事件解決に挑む『ガリレオ』(フジ系、福山雅治主演、主題歌はKOH+「KISSして」)。超常現象の解明とともに、「実に面白い」や方程式の殴り書きなど、湯川の変人ぶりをフィーチャーした演出が話題に。唐沢寿明、香取慎吾、久米宏ら各話の犯人役ゲストが豪華だった。

『黒革の手帖』『けものみち』に続く“米倉涼子×松本清張3部作”のラストとして制作された『松本清張・最終章 わるいやつら』(テレビ朝日系、米倉涼子主演、主題歌は安良城紅「Luna」)。「悪事に手を染める女」はすでに米倉の十八番となり、視聴者の信頼感は抜群。過激なシーンの連続でツッコミどころは多かったが、『ドクターX』のヒットは当作の助走があってこそ。

「SPvsテロリスト」の戦いが深夜にも関わらず熱狂的なファンを集めた『SP 警視庁警備部警護課第四部』(フジ系、岡田准一主演、主題歌はV6「way of life」)。岡田は当作で肉体派として開眼。脚本・金城一紀、演出・本広克行というスタッフの豪華さもあり、いまだに続編制作を期待する声が少なくない。

生々しいイジメの描写が絶賛と抗議の賛否両論を集めた『ライフ~壮絶なイジメと闘う少女の物語~』(フジ系、北乃きい主演、主題歌は中島美嘉「LIFE」)。「全編に渡ってイジメを描く」というコンセプトは、コンプライアンスの厳しい現在では不可能に近い。事実上、北乃だけでなく、イジメ主犯格の生徒を演じた福田沙紀のダブル主演だった。

バカ正直な女性と天才詐欺師が、相手を出し抜いて1億円を奪うゲームに挑む『LIAR GAME』(フジ系、戸田恵梨香、松田翔太主演、主題歌はcapsule「Sugarless GiRL」など)。ゲームの面白さとお金をめぐるスリリング感に加えて、鈴木浩介、鈴木一真、菊地凛子らが演じた個性的なキャラでカルト的人気作に。スタイリッシュだが怪しさで満ちた松山博昭の演出が効いていた。

さらに、『風林火山』『どんど晴れ』(以上NHK)、『わたしたちの教科書』『ファースト・キス』『花ざかりの君たちへ~イケメン♂パラダイス~』『山おんな壁おんな』(以上フジ系)、『花より男子2』『夫婦道』『冗談じゃない!』『山田太郎ものがたり』『ハタチの恋人』(以上TBS系)、『ハケンの品格』『演歌の女王』『セクシーボイスアンドロボ』『バンビ~ノ!』『働きマン』(以上日テレ系)、『エラいところに嫁いでしまった!』『ホテリアー』『菊次郎とさき』『モップガール』(以上テレ朝系)なども放送された。

■著者プロフィール
木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などに出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。