■大ヒット映画を超える上質な感動作に

1位『世界の中心で、愛をさけぶ』(TBS系、山田孝之主演)

  • 山田孝之

    山田孝之

  • 綾瀬はるか

    綾瀬はるか

仕事柄、「最も好きなドラマは何?」と聞かれる機会が多いが、その中の1作に必ず挙げているのがドラマ版『セカチュー』。

2001年に刊行された小説が、柴咲コウの「泣きながら一気に読みました」の書評を追い風にベストセラーとなり、2004年5月に映画が公開。長澤まさみと森山未來のみずみずしい演技が話題を呼び、興行収入85億円の大ヒットになった。

映画版が盛り上がる7月にドラマ版がスタート。世間は完全に後発扱いで、「ネタバレしているのにドラマもやるの?」「映画を上回るのは無理」という逆境ムードだった。それを乗り越えたのは、プロデューサー・石丸彰彦、演出・堤幸彦、石井康晴、平川雄一朗、脚本・森下佳子のトライアングル。あまり知られていないが、当作は『白夜行』『JIN -仁-』『とんび』『天皇の料理番』のヒューマン作を次々に生み出す「名チーム誕生」の記念碑的作品でもある。

出色だったのは森下による脚色。朔太郎(山田孝之)と亜紀(綾瀬はるか)の出会いと初恋、祖父・謙太郎(仲代達矢)との自転車エピソード、亜紀の陸上大会と2人だけの自己ベスト、龍之介(田中幸太朗)と智世(本仮屋ユイカ)の恋、亜紀の懸命な入院生活、朔太郎の悲壮感あふれる修学旅行、二人の結婚写真、亜紀から朔太郎へ最後の贈り物……。映画では描き切れない家族、友人、先生の心情が丁寧に描かれ、全編を通して悲劇でありながら、各話には必ず心に染みるような感動があった。

堤幸彦らが手がける映像は透明感があり、その象徴であった山田孝之と綾瀬はるかは、中盤以降、朔太郎と亜紀が乗り移ったかのような熱演を披露。回を追うごとに痩せ細っていく綾瀬と亜紀、最愛の人を失う怖さから逃れるようにもがく山田と朔太郎……想いや涙があふれるシーンでは、脚本を超えるほどの感情があふれた演技を見せて、視聴者を落涙させた。

当時19歳の綾瀬はオーディションで723人の中から選ばれた今作でブレイク。当時20歳の山田とともに現在までの14年間、トップ女優の座をキープしている理由が当作を見ればわかるのではないか。

序盤は映画版の長澤や森山に魅了された人々を中心に酷評を受けていたが、中盤以降はそうした声が収まっていった。後発にも関わらず「映画よりドラマのほうが好き」という人が多いのは、脚本・演出・演技・音楽のすべてが極めて上質だったからにほかならない。その他の難病ドラマとは一線を画す、まもなく幕を閉じる平成を代表する作品と言えるだろう。

主題歌は、柴咲コウ「かたち あるもの」。朔太郎の心情を歌った映画版の平井堅「瞳をとじて」に対する亜紀からのアンサーソングのような歌詞で、エンディングにバシッとハマった。

■『オレンジデイズ』『プライド』『黒革の手帖』『東京湾景』

その他の主な作品は下記。

  • 柴咲コウ

    柴咲コウ

  • 竹内結子

    竹内結子

大学を舞台にした恋愛群像劇『オレンジデイズ』(TBS系、妻夫木聡・柴咲コウ主演、主題歌はMr.Children「Sign」)。「聴覚を失ったヒロイン」という設定は、いかにも北川悦吏子の脚本だが、沙絵のヒステリックな言動は賛否両論だった。大学生男女5人の「オレンジの会」は、『あすなろ白書』(フジ系)の「あすなろ会」とほぼ同じ。こちらも北川脚本であり、セルフカバーと言える。

実業団アイスホッケーチームが舞台の『プライド』(フジ系、木村拓哉主演、主題歌はクイーン「ボーン・トゥ・ラヴ・ユー」)。キャプテンでエースの選手を木村が演じたほか、坂口憲二、市川染五郎、佐藤隆太らでチームを形成。野島伸司の脚本らしく、竹内結子を絡めたラブストーリーでも魅せた。決めゼリフの「maybe」が採用できたのはキムタク主演の力技。

  • 米倉涼子

    米倉涼子

  • 阿部寛

    阿部寛

6度に渡ってドラマ化された中、「最高傑作は2004年版」と言われる『黒革の手帖』(テレ朝系、米倉涼子主演、主題歌は安良城紅「Here alone」)。それまでヒットに恵まれなかった米倉は当作の悪女役でブレイク。以降、“松本清張+米倉”のコンビで「けものみち」「わるいやつら」が制作された。

リストラされたサラリーマンが主夫として奮闘するホームコメディ『アットホーム・ダッド』(フジ系、阿部寛主演、主題歌はJackson vibe「朝焼けの旅路」)。阿部寛と篠原涼子、宮迫博之と中島知子の夫婦役がフィット。家事と育児にスポットを当て、子役を交えたほのぼのとした世界観で、平日午後に繰り返し再放送される人気作となった。

  • 市原隼人

    市原隼人

  • 石原さとみ

    石原さとみ

前年に続いてドラマ化された『WATERBOYS2』(フジ系、市原隼人主演、主題歌は福山雅治「虹 ~もうひとつの夏~」)。キャストは市原、中尾明慶、斉藤慶太、小池徹平、木村了+石原さとみに一新された。最終回のシンクロ公演では、終始明るいムードの中、五段やぐらに挑むシーンで空気が一変。ピリピリムードの中、危険な失敗シーンも映され、成功で歓喜と涙が爆発した瞬間は、一級品のドキュメンタリーでもあった。シリーズ最高傑作。

「東南アジアでの旅行中にバス転落事故で愛する人を失った男女が同じ家に住む」という奇妙な舞台設定が物議を醸した『ホームドラマ!』(TBS系、堂本剛主演、主題歌はギルバート・オサリバン「アローン・アゲイン」)。この破滅的な設定を仕掛けたのは、近年穏やかな作風が定着した岡田惠和。視聴率は1ケタ台に低迷したが、家族の意味や人の絆を問う内容で熱心なファンも少なくなかった。

  • 織田裕二

    織田裕二

  • 仲間由紀恵

    仲間由紀恵

「往年の月9に回帰した」と言われた王道のラブストーリー『ラストクリスマス』(フジ系、織田裕二主演、主題歌は織田裕二withブッチ・ウォーカー「ウェイク・ミー・アップ・ゴー!ゴー!」「ラスト・クリスマス」)。月9、織田裕二、脚本・坂元裕二、プロデュース・大多亮、スポーツ用品会社「ハートスポーツ」など、『東京ラブストーリー』との共通点がズラリ。ただ当作のラストは特大級のハッピーエンドだった。

吉田修一の小説を韓流風に大胆アレンジした『東京湾景~Destiny of Love~』(フジ系、仲間由紀恵主演、主題歌はWeather Forecast「君さえいれば」)。ヒロインが在日韓国人、韓国ロケ、パク・ヨンハ出演、韓流アーティストなど、現在では考えられないほど韓国尽くし。今振り返ると、『冬のソナタ』の大ヒットに便乗したとんでもないコンセプトの作品だった。

さらに、『新選組!』『天花』(NHK)、『奥さまは魔女』『逃亡者 RUNAWAY』『夫婦。』(TBS系)、『愛し君へ』『離婚弁護士』『人間の証明』『大奥 第一章』『めだか』(フジ系)、『彼女が死んじゃった。』『光とともに…』『ラストプレゼント 娘と生きる最後の夏』『一番大切な人は誰ですか?』(日テレ系)、『エースをねらえ!』『電池が切れるまで』『南くんの恋人』(テレ朝系)などが放送された。

■著者プロフィール
木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などに出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技 84』『話しかけなくていい!会話術』など。