若手俳優の採掘場となった不朽の名作

■1位『池袋ウエストゲートパーク』(TBS系、長瀬智也主演)

  • 窪塚洋介

    窪塚洋介

  • 佐藤隆太

    佐藤隆太

とにかくトピックがてんこ盛り。原作は直木賞作家・石田衣良のデビュー作であり、脚本は宮藤官九郎の実質的な連ドラデビュー作であり、演出は『ケイゾク』(TBS系)で飛ぶ鳥を落とす勢いの堤幸彦であり、磯山晶プロデューサーを含めて、「これぞ化学反応」というべく、スタッフのスキルを随所に感じさせられた。

同作を語る上で、登場人物とキャストにふれないわけにはいかないだろう。長瀬智也が演じたプータローでだらしないが情に厚いマコト、窪塚洋介が演じた残虐なカラーギャング「G-Boys」リーダー・キング、佐藤隆太が演じたマコトの頼りない相棒・マサ、山下智久が演じたアニメオタクで絵が上手いシュン、坂口憲二が演じた鼻耳ピアスの狂暴なマッチョ男・山井、西島千博が演じた元バレエダンサーのカラーギャング「Black Angels」リーダー・京一。

妻夫木聡が演じた暴力団員だがマコトに協力するサル、遠藤憲一が演じた二重人格の暴力団組長・氷高、渡辺謙が演じた犯罪撲滅のためなら暴力団も利用する警察署長・横山、阿部サダヲが演じた風俗マニアの交番巡査・浜口、高橋一生が演じた引きこもりの情報屋・和範、などキャラクターの宝庫であり、若手俳優の採掘場に。

その後、主演俳優になった面々が競い合うようにエネルギッシュな演技を見せた。彼らの生き生きとした姿を描いたのが当時30歳でブレイク前の宮藤だったことは、今でもドラマフリークたちの語り草となっている。

カラーギャング間の抗争に、女子高生連続殺人事件のサスペンスを絡めた筋書きも見応えがあり、堤の演出で「ヘビーだがハイテンション」「コミカルだがバイオレンス」という相反するテイストを創出。池袋の若者たちが醸し出す、フワッとしたノリと孤独を映像化し、視聴者を引きつけていた。

最終回は、文字通りカオス。マコトの恋人・ヒカル(加藤あい)が壊れ、ヒカルに恋する山井はみじめな姿をさらし、横山はタカシと京一を前面抗争させ、マコトは立会人という大役から逃げていたが……。最後は浪花節的な円満解決となり、脱力的な笑いで締めくくったのは、いかにもこのチームらしかった。

ちなみにクドカンファンの中でも、男性は『IWGP』派、女性は『木更津キャッツアイ』派が多いという。真逆の作風だけに納得だが、コンプライアンスやクレーム対策で、現在のプライムタイムでは、まず放送不可能だろう。主題歌は、Sads「忘却の空」。

『ビューティフルライフ』『オヤジぃ。』『TRICK』

  • 常盤貴子

    常盤貴子

  • 田畑智子

    田畑智子

その他の主な作品は下記。

「難病に冒された車椅子のヒロイン」という設定がいかにも北川悦吏子脚本らしい『Beautiful Life ~ふたりでいた日々~』(TBS系、木村拓哉、常盤貴子主演、主題歌はB'z「今夜月の見える丘に」)。木村が演じたことで“カリスマ美容師ブーム”が起きるなど話題先行の感はあったが、教科書通りの悲劇的なラストで涙を誘った。

「シングルマザーのヒロイン」というだけで異例だったが、不幸続きの展開に視聴者が驚かされた『私の青空』(NHK、田畑智子主演、主題歌はインストゥルメンタル)。結婚式で他の女に相手を連れ去られ、妊娠が発覚し、出産後に彼を探しに上京して仕事を掛け持ちする……猪突猛進の薄幸ヒロインを田畑が熱演し、朝ドラらしからぬゲス男を筒井道隆が淡々と演じた。

  • 田村正和

    田村正和

  • 役所広司

    役所広司

昭和の頑固親父と子どもたちのハートフルホームコメディ『オヤジぃ。』(TBS系、田村正和主演、主題歌は花*花「さよなら 大好きな人」)。見どころは、田村と長女役・水野美紀、次女役・広末涼子、長男役・岡田准一とのバトル。子どものために本気で怒り、最後には情けない姿をさらしてでも守ろうとする熱い姿でストレートな感動を呼んだ。ガングロギャル役の矢沢心も話題に。

弁護士にカンちがいされた売れない役者が、産廃処理場の建設をめぐる戦いに挑む『合い言葉は勇気』(フジ系、役所広司主演、主題歌はインストゥルメンタル)。三谷幸喜脚本らしいユーモアであふれ、ポンコツ村長役の田中邦衛、村の名士役の寺尾聰、開発会社社長役の國村隼、敵の剛腕弁護士役の津川雅彦などの名優たちが喜々としてドタバタ喜劇を楽しんでいた。

  • 唐沢寿明

    唐沢寿明

  • 仲間由紀恵

    仲間由紀恵

「ある大企業の秘書による使い込みを暴くミステリー」なのだが、18年過ぎた今その印象は薄い。唐沢のトリッキーなキャラとハチャメチャな展開で視聴者を翻弄した『ラブコンプレックス』(フジ系、唐沢寿明、反町隆史主演、主題歌は反町隆史「Free」)。サブタイトルは初回が「最終回」、最終回が「終わりの始まり」という時系列すら不明の実験的な作品であり、木村佳乃、りょう、小雪、西田尚美、伊東美咲、一戸奈美、高橋ひとみの美女7人を愛でる男性視聴者も多かった。

自称「天才マジシャン」山田奈緒子(仲間由紀恵)と物理学教授・上田次郎(阿部寛)が奇妙なトリックを解明するミステリー『TRICK』(テレ朝系、仲間由紀恵主演、主題歌は鬼塚ちひろ「月光」)。仲間への「貧乳」や阿部への「巨根」イジリなど、堤幸彦監督の小ネタが満載。生瀬勝久が演じたカツラ刑事・矢部謙三、野際陽子が演じた謎多き書道家・山田里見などの名物キャラが多く、深夜ドラマの可能性を広げた。

  • 江口洋介

    江口洋介

  • 菅野美穂

    菅野美穂

「『ひとつ屋根の下』(フジ系)の兄弟作」とも言われるホームドラマ『涙をふいて』(フジ系、江口洋介主演、主題歌はゆず「飛べない鳥」)。恩人である先輩の4きょうだいを引き取った大工の奮闘劇。元アメフト選手で「根性」が口グセの勝男は、江口のイメージにピッタリだった。ただ、最注目は子どもたち。まだ知名度が低かった二宮和也、上戸彩、神木隆之介が出演していた。

児童養護施設で育ち、虐待を受け、自殺未遂の過去があるヒロインのヒューマンストーリー『愛をください』(フジ系、菅野美穂主演、主題歌はECHOES「ZOO」)。菅野が役名の蓮井朱夏でリリースした同曲もヒットした。「クサイ」とも言われたストレートな愛のセリフを書いていたのはドラマ初脚本の辻仁成。各回のサブタイトルから主題歌まで、辻ワールド全開だったが、これ以降、連ドラは執筆していない。

さらに、中谷美紀主演『永遠の仔』、安田成美主演『リミット もしも、わが子が…』、松本人志と中居正広主演『伝説の教師』、草なぎ剛主演『フードファイト』(日テレ系)、財前直見主演『QUIZ』、優香主演『20歳の結婚』、竹野内豊主演『真夏のメリークリスマス』(TBS系)、中山美穂主演『二千年の恋』、佐藤浩市主演『天気予報の恋人』、原田泰造主演『編集王』(フジ系)、鶴田真由主演『つぐみへ…~小さな命を忘れない~』、大沢たかお主演『アナザヘヴン~eclipse~』、鈴木紗理奈主演『OLヴィジュアル系』(テレ朝系)などが放送された。

■著者プロフィール
木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などに出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。