次々に新しい料理や食材などが登場するとあって、『食のトレンド』は刻一刻と移り変わっていく。しかし、クライアントや職場の同僚と「あれ食べた?」という話になることはよくある。そんなときに「……聞いたこともない」というのは、かなりマズい。この連載では、ビジネスマンが知っておけば一目おかれる『グルメの新常識』を毎回紹介していく。第58回は「個性派カレーパン」。

  • 子どもから大人まで愛されるカレーパン。個性派にも注目が集まる

「個性派カレーパン」って何?

カリッと揚げたパン生地の中に、ピリッとスパイシーなカレーが入った総菜パン。日本人にはおなじみのカレーパンが、いまトレンド感のあるグルメとして注目されている。特に最近充実しているのが、従来のイメージとは異なる個性派カレーパンだ。

カレーパンといえば楕円形や丸型をイメージしがちだが、形や見た目のバリエーションも実に豊か。もちろん見た目だけでなく、食感に工夫を凝らしたり、高級な食材が使われたりと、味わいも多様化している。SNSには個性豊かなカレーパンの写真が多数アップされており、幅広い年齢層が楽しめるトレンドになっているようだ。

日経トレンディ・日経クロストレンドが発表した「2021年ヒット予測ランキング」にも「NEOカレーパン」がランクイン。日本カレーパン協会主催の「カレーパングランプリ」では、毎年全国のベーカリーの個性が光るカレーパンがエントリーされて盛り上がりを見せるなど、人気が加速中だ。

「個性派カレーパン」はどこで買える?

主にベーカリーで購入できるほか、キッチンカーで販売している店もあり、最近ではカレーパン専門店まで登場している。カレーパンを看板メニューにしていたり、一つの店で数種類のカレーパンを置いていたりもするので、各店の商品を食べ比べてみるのもおもしろそうだ。

2020年4月に北海道大樹町に1号店がオープンしたベーカリー「小麦の奴隷」は、クルトンをたっぷり貼りつけたインパクト大の見た目が特徴の「ザックザクカレーパン」が名物。「カレーパングランプリ2020」の東日本揚げカレーパン部門で金賞を受賞したことをきっかけに知名度がアップし、道外からも買い求めて足を運ぶ人が多いという。

  • 小麦の奴隷「ザックザクカレーパン」(250円)

パンの周囲全体にクルトンをたっぷり貼りつけ、香ばしいきつね色になるまで揚げると、商品名の通りザックザクとした楽しい食感になる。ルーには地元食材を活かし、北海道産のじゃがいもがたっぷり詰められているため、食べごたえ抜群。ルーと調和するよう独自開発したもっちりとした生地を使用しているという。

2020年10月に2日間限定で東京・清澄白河にカレーパン専門のポップアップショップを開いた際は、2日間で約1000個を販売。現在は2021年6月までの期間限定で営業しているが「毎日正午には完売することが多いです」(こむぎの代表取締役 橋本玄樹さん)と、人気の高さがうかがえる。同店はフランチャイズ展開をしており、今年2月に滋賀県大津市、4月には沖縄県北谷町にオープンを予定。夏までに全国10店舗以上がオープン予定だという。

  • 東京マリオットホテル ペストリー&ベーカリー GGCo.「TOKYO MARRIOTTカレーパン」(350円)

東京マリオットホテルのペストリー&ベーカリー「GGCo.」で販売されている「TOKYO MARRIOTTカレーパン」も、「カレーパングランプリ2020」の東日本揚げカレーパン部門で金賞を受賞した大人気商品。カレーパンには珍しい細長い形状が特徴的だ。同ホテルが開業した2013年から販売。宴会のメニュー限定で提供していたカレーが「パンとの相性が良い」と評判になり、カレーパン用にアレンジして開発したという。

レシピは同ホテルの総料理長によるもので、「一般的なカレーパンと異なるタピオカ粉を使い、もちもち感と表面のサクサク感の2つの食感が楽しめる生地と、マイルドな辛さのカレーの相性にご好評の声をいただいています」(東京マリオットホテル マーケティング担当 南條泉さん)と、ホテルメイドの味わいを手軽に食べられる点が魅力だ。

特徴的な細長い形状は片手でも食べやすくするためだといい、平日は隣接するオフィスタワーに勤務するビジネスパーソンがランチとして、また家庭へのお土産として買って行くことが多いという。特にカレーパングランプリ入賞後は「一日で最高500個販売されたこともあり、お問い合わせ電話も多く、電話専属スタッフをつけたこともありました」(南條さん)と、大きな反響があったという。自宅で揚げたてが食べられる冷凍のカレーパン(5個入り、2000円)も販売中だ。

「個性派カレーパン」を食べてみた

神奈川・東京・静岡で計6店舗展開する「箱根ベーカリー」の個性派カレーパンを食べてみた。同店は神奈川県にある箱根湯本ホテルから生まれたベーカリーで、カレーパンは数種類を販売。2012年の4月ごろから「カリカリカレーパン」「カリとろチーズカレーパン」を販売しており、どちらも衣にコーンフレークをたっぷりつけて揚げてあるのが特徴だ。

  • 写真手前から、箱根ベーカリー「カリカリカレーパン」(230円)、「カリとろチーズカレーパン」(270円)※いずれもテイクアウト時の価格

まずは「カリカリカレーパン」から実食。持ってみるとずしりとした重量感があり、ルーがたっぷり入っていることがうかがえる。一口かじると、名前の通りカリカリ、パリパリとしたコーンフレークの食感が楽しい。中のルーはたまねぎ、にんじん、じゃがいもなどの野菜と豚の挽肉を使用したポークカレー。コクがあり、後からほんのりと感じるスパイシーさが、生地の甘みを引き立てる。絶妙なバランスだ。

続いて「カリとろチーズカレーパン」を実食。こちらもカリカリのコーンフレークの食感を楽しんだ後、濃厚なチーズの味が口の中に広がった。チーズでカレーの辛さが中和されてマイルドになり、辛いものが苦手な人や小さな子どもでもおいしく食べられそうだ。どちらのカレーパンも、揚げたてはコーンフレークのカリカリ具合が心地よく、冷めるとカリカリ感が少し和らぐが、しっとりとした生地との相性が良いので冷めてもおいしく味わうことができた。

  • 上から「カリカリカレーパン」「カリとろチーズカレーパン」の断面。表面にはコーンフレーク、中には具がたっぷり!

「具材は食べやすいように細かくなっており、多くの方に食べていただけるように辛すぎず、コクのあるまろやかなカレーパンです。衣にコーンフレークをつけて揚げることで、カリカリの食感が心地よく楽しめます。カリとろチーズカレーパンは、冷めても柔らかい状態のチーズソースを中に絞り込むことで味もマイルドになり、コクも増します」(箱根ベーカリー川崎店マネージャー 吉田章人さん)

店舗を訪ねた際、揚げたてのカレーパンが店頭に並ぶと、待ちわびていた購入客たちによって次々とトレーに乗せられていく様子が印象的だった。カレーパンを購入した人たちからは「想像以上の驚きの食感」「コーンフレークのカリカリとした食感と中のカレーが絶品」と、やはりその食感の良さが好評だという。

素朴な印象だったカレーパンは進化を遂げ、全国のベーカリーでユニークなカレーパンが次々と開発されている。あなたの家の近くのベーカリーにも、個性的なカレーパンが並んでいるかもしれない。