――お二人は、狩野英孝さんと親交が深いですよね。アドバイスをもらうことはありますか?
零士:狩野さんって「俺は余計なことは言わない」ってスタンスなんですよ。相談したら「ここはこうしたほうが良いんじゃない?」とか言ってくださるんですけど、狩野さんの方からなにかを言うことは無いんです。「毎日ライブに出てネタを磨いてる人には絶対に敵わない」みたいなことを言ってくださるんです。なんであんな売れてる方が、こんなこと言ってくださるんだろう。
山口:めちゃめちゃリスペクトしてます。
零士:「こうしろ」っていうより「頑張れよ」ってエールの方が大きいですね。
山口:「今年勝負だぞ」っていうのは、会ったら絶対言われるな。
零士:一緒に仕事したいって言ってくださるんで、俺らが早く狩野さんがいるステージに行けたらと思います。
山口:狩野さん、「お前らがMCで俺がロケに行く」のが夢だって言ってくださって。
零士:泣きましたよ! なんでこんな優しいこと言ってくれんだ!出会ってから、僕らのお笑いへのスタンスも変わりましたね。「さらけ出して良いんだ」って。山口の女性関係のダメな部分とかも、隠す必要なんて無いんだ、みたいな。
山口:武器にしてね。「良いじゃん、面白れぇじゃん」って言ってくれますからね。
零士:「ダメだよ、ダメなんだけどね」とも言うけど(笑)。でもお前は"そう"なんだからって。俺らが面白いと思ってなかった部分も面白がってくださったんで「芸人ってそういう職業なんだ」って、ガラッと考え方を変えてもらった感じがします。かっこつけるんじゃない、ダメな部分も見せるのが芸人なんだ、みたいな。
山口:狩野さんの「面白ければ勝ちじゃん」っていう名言もあります。
零士:最終的に笑いを取れば勝ちってね。
山口:狩野さんのおかげで、舞台衣装を変えるとか“伝えるための努力”もするようになりましたね。
零士:前は紺のブレザーを着てたんですけど、「お前はもっと明るい色を着たほうが良い」って言ってくれて。同じネタでも、スーツを黒から白に変えるだけで反応が変わったって言う実体験を話してくれたんです。伝えてるつもりでも、全然お客さんに伝わってないこともあるから「まずは見た目で分かりやすい方が良いじゃん。舞台に出て数秒でお客さんの心を掴めよ」と。
山口:言ってたね~。
零士:狩野さんは、常にお客さんのこと考えてるんだよね。
――毎年、年始に狩野さんのご実家の神社に手伝いに行ってますよね。忙しくなっても続けますか?
零士:狩野さんの神社から、中継でネタをやるのが夢ですね。「今、狩野さんのご実家にいます」って言って、ネタやって「ごめんなさい、お守り売らなきゃいけないんで、ここらへんで失礼しまーす」みたいなのをやりたいです。
「楽しい時間」を続けるために、芸人に
――零士さんは『アメトーーク!』や『ロンドンハーツ』に出たいんですね。
零士:どっちも狩野さんの流れですね。かっこいいじゃないですか、あそこで笑いを取ってる姿って。
山口:生き様で笑わすみたいな。
零士:そう。『アメトーーク!』も『ロンハー』も、めちゃめちゃ人間力を試される。人間が面白い人じゃないと通用しないところで笑いを取ってる姿がかっこよすぎるんで。自分もあぁなりたいですね。
――山口さんは『鉄腕ダッシュ』や『黄金伝説』ですか?
山口:俺のちっちゃい頃からの夢ですね。
零士:山口って、マジでバラエティを観てないんですよ。
山口:幼少期はお笑いにまったく興味が無くて。
――興味が無かったのに、お笑いをやろうと思ったのはなぜですか?
零士:確実に僕の影響ですね。僕は、正反対にお笑いばっか観てて。中学の文化祭で、一緒にショートコントみたいなのをやったんですよ。それが、すーごいウケて。
山口:トリオだったんですけど、ちゃんと名前も付けて。
零士:恥ずかしくて言いたくないけど……(笑)。僕ら「19(ジューク)」が大好きだったんです。彼らは19歳だから「19」 らしいので、僕らは14歳だったから「14(ジューシ)」。そこがスタートでしたねぇ。あと「普通に働きたくない」とも思ってて、「楽したい」って。
山口:最初はそう思うよね。芸人なんて、楽勝そうじゃんって。
零士:余裕で売れるっしょ! と思って入ってきてますからね。すぐ売れて、芸能人と付き合って……調子こいて言ってたもんね(笑)。
山口:あのウケまくった「14」ならいける、って(笑)。
零士:「楽してお金稼いでちやほやされよう」で始めてますね。始めてみたら、真逆でしたけど(笑)。
山口:入学卒業とか、節目節目で零士に誘われてな。大学時代は、2週間に1度零士がうちに遊びに来てくれてました。俺が静岡で零士が東京の大学だったんですけど。
零士:バスの回数券買っちゃって(笑)。
――零士さんは山口さんのうちに遊びに行ったときに、インフルエンザにかかったことがあるそうですね。
零士:そうです!山口の家で看病してもらって(笑)。
山口:そうそう。零士がヤバい!ってなったけど布団が足りなくて。元カノに電話で「布団貸してくれる?」って言ったら「なんでおめぇに貸さなきゃいけねんだよ!」って(笑)。でも「ごめん!頼む!零士がヤバい!」って、貸してもらって。
零士:で、俺はそれを、汗でビショビショに……(笑)。
山口:「ごめんね!」ってそのまま返して(笑)。でもこの頃ですら、お笑い知らなかったですね。『M-1』はレンタルして初めて観ました。
零士:ちょっと待って!テレビで観たわけじゃなくて、レンタルで観たの!?
山口:『M-1 2015』を、レンタルして観たのよ。「お笑いってどんなもんなんだろう」と。
零士:お笑いを始めるかもしれないから、ってこと?
山口:そう。で、ブラマヨ(ブラックマヨネーズ)さんが優勝して。当時はボケツッコミすら知らなくて、小杉さんをボケだと思ってたくらいなんですよ。それでも、「人生懸けてる想い」は伝わってきて。
――『M-1』を観たことで、芸人になる決心がついたということですか?
山口:『M-1』きっかけというより、「零士となにかできれば」ってずっと思ってて。それならお笑いだろうなぁ、と。
零士:二人で過ごす楽しい時間が「人生のここだけで終わって良いわけないじゃん」みたいに思っちゃったんですよ。二人で楽しみながらお金を稼いで、人生をそのまま続けていけたら良いじゃん、って。
山口:零士となんかやりたいから、最初は二人で「スタイリストやろうか」って。
零士:あー! 中学のときね。「誰に弟子入りする?」みたいな話がすっごい楽しくて(笑)。でも、結局なにやってるのが1番楽しいかってなると、お笑いみたいなことをやってるとき。その楽しい時間を、今も続けさせてもらってます。
山口:だから一緒に暮らしてるんですよ、俺ら。
零士:12年一緒に住んでます。少しでも楽しい時間を味わいたくて。
山口:地元で「就職しないか」ってスカウトされたりもしたんですけど、すぐに零士に電話しましたね。
零士:「やーばい! 俺! このままじゃ就職しちゃうかもしんない!」みたいな。俺も「ばっか! 行くんじゃねぇぞ、お前!」って言って(笑)。すぐ養成所(NSC)の願書取り寄せて、山口のところに行って「書け書け!」って。
――山口さんの養成所代は、零士さんの親御さんが負担したと聞いたことがあります。
零士:そうなんですよ! 山口は大学のときからパチンコとか行ってお金が無くて。銀行から借りることもできないし、親にも言えないって言うから、俺の親父に貸してもらって(笑)。でも、3~4年でちゃんと色付けて返してました。親も笑ってましたね。「あいつはなんなんだ」って(笑)。
山口:NSC出て吉本に所属して、辞めちゃったけどな。
零士:事務所の色って確実にあって、俺らは吉本の色に合わせられるほど柔軟じゃなかったんですよ。自分たちが面白いと思うことを全力でやりたいと思ったとき、マセキには三四郎さん、モグライダーさんとか、漫才で面白い人がたくさんいるのを知って。
山口:そう。"人間"で漫才してるみたいな。
零士:技術じゃなく"人間"で漫才やってるのを見て、この先輩たちに近づけるんじゃない? って思って、マセキに入りました。
――最近は、ニューヨークさんなどNSC時代の同期と共演することも増えましたね。
零士:そうなんですよ。養成所で同期ができたのはものすごい財産なんだなって、今になって思います。ずっと孤独に戦ってると思ってたんですけど、俺らが壁作ってただけだったんですよね。
山口:ニューヨークと話すようになったのはここ1~2年なんですけど、俺らがやってることでめっちゃ笑ってくれたりして。
零士:え!? ってなったよね。
山口:好きなの!? 俺らのこと!?って(笑)。
零士:俺らも大好きになっちゃうよね(笑)。それこそ、ダイヤモンドの野澤(輸出)はずっと好きって言ってくれてますね。半年くらい前に「お笑いやってなかったらマジでカナメストーンの追っかけやってたわ。そんくらい好きなんだよ」とか言ってくれて、めちゃめちゃ嬉しかったっすね。
山口:野澤は、零士が泣くタイミングで一緒に泣いてるもんな。零士のツイート見て(笑)。
零士:「俺も泣いたわ」って、3人目のカナメストーンぶって(笑)。養成所で同期ができたのは、めちゃくちゃ財産っすね。離れたことで、より感じられるようになりました。
――最後に、『M-1グランプリ』に向けた意気込みを教えてください。
零士:特別なことはやらないようにします。これまでやってきたことを知ってもらうために、全力を尽くしたいですね!これまでライブやラジオ、YouTubeでやってきたことを、次は全国に持っていきます。
山口:準決勝突破。
零士:いやあの、決勝進出って言って。
山口:必ずや。
零士:決勝進出のほうが絶対良いよ。
山口:強い気持ち、メンタルで。
零士:そらそうよ。芸人みんなが、1年どころか芸歴全部をぶつけてくる大会なんですよ。なのでネタが面白いのは当たり前で。これはメンタルの大会なんです。堂々としてるだけで、笑いは増えるんですよ、絶対に。でも調子こいたら、笑いは減る。
山口:そう! そのバランス。
零士:これこそ人間力だと思うんですよ。シンプルに、今までやってきたことしか出さない。普段のライブ通りのことを出せば良いだけだから。
山口:今年はもう、それですね。
零士:今までお客さんに気付かせてもらったことを、全力でぶつける。それが1番良い!手を抜くだなんて誰も考えてないですし、全部をぶつけます!
連載「お笑い下克上2021」次回はキュウが登場します。