編集部とお笑いが好きなライター推薦により、今年ブレイク必至の芸人をピックアップする新連載『お笑い下剋上2021』(全5回)。賞レースに対する意気込みやコンビの関係性などを聞きつつ、お笑いへの向き合い方やパーソナルな一面にも迫っていく。
第1回に登場するのは、吉本興業所属の芸人「9番街レトロ」。元は大阪NSCの先輩・後輩だった二人。先に上京していた京極がなかむらを誘い、コンビを組んだのは2019年4月。結成と同時にYouTubeチャンネルを開設し、毎日動画を投稿するなどネタ以外の活動にも精力的に取り組む。
2020年夏に「神保町よしもと漫才劇場」のバトルライブで1位を獲って以降、吉本若手のトップを走り続ける9番街レトロ。今年の『ツギクル芸人グランプリ』では決勝に残り、トップバッターでネタを披露。優勝は叶わなかったが、視聴者に強い印象を残した。若手注目株の筆頭である彼らに、話を聞いた。
――京極さんは、だいぶ早いタイミングで芸人になることを決めていたそうですね。なぜ芸人になりたいと思ったんですか?
京極風斗(以下、京極):理由はいろいろあるんですけど、根本はほんまに「働きたくない、勉強したくない」です。
なかむらしゅん(以下、なかむら):絶対、芸人全員そうっすよ。いろんなかっこつけの言い方がありますけど、根は絶対、500%そう(笑)。……働きたくないとか言って、「マイナビ」(就職情報サイト)なのに大丈夫ですか!?
京極:……「仕事やと思わんことで働きたい」というのがフワっとあって。
なかむら:セーフセーフ(笑)。
京極:あと、なんとなーく、小学校のときから「笑わすん好きやな」と思ってて。中学の林間学校かなにかで友達と漫才してウケて「芸人でいこう」と。決めたのは中学2年生のときですね。
――実際に芸人になってみて、「働きたくない」という想いは叶っていますか?
京極:それはね、叶えられてますね。作業的なことも最近増えてきたんですけど、やりたくてやってる以上「働いてる」感覚は無いんで。働かんといけてるなって、良い選択をしたなと思いますね。
――なかむらさんは大学4年生のときにNSC(吉本の芸人養成所)に入ったそうですが、その時点で芸人になろうと決めていたわけではなかったんですよね。
なかむら:そうですね、高校の同級生について入学したんです。そんで「これ、もしかしたら行けそうやな」って……同期しか知らなかったんで、この中で1番になれば芸人としてやっていけんねやろなって勝手に思っちゃって。実際は全然違ったんですけど、養成所で手応えを感じて続けました。
――大学を辞めて、芸人になったんですか?
なかむら:はい、思いっきし辞めました。
京極:なかむらは、途中で辞める癖があるんですよ(笑)。気持ち悪いんが、あと一歩でクリアというところまで行って辞めるんすよ。
なかむら:大学辞めたんは、卒論手前で(笑)。
京極:教習所も辞めまくってるし。
なかむら:仮免まで行って……。
京極:「あと一歩頑張りや!」ってところで辞めるんすよね。
なかむら:ご飯も、あと一口ってところで残しちゃう。
京極:「あと一歩」を頑張らない(笑)。
――大学を卒業直前で辞めるって、なかなかの決断だと思いますが……。
なかむら:とにかくだらしないんですよ(笑)。なので、それにしては今頑張れてるなと思いますね。
京極:お笑いは終わりが無いんで、「あと一歩」が分からない(笑)。
――ずっと頑張り続けられそうですね。
なかむら:頑張れそうですね。「楽しい」はでかいですね、嫌なことやってないんで。
――芸人になるとき、親御さんの反対は無かったんですか?
なかむら:最初、お父さんに言われましたね。「舐めんなよ」って。
京極:うちは喜んでました。おかんがNSCの願書取ってきたし。
なかむら:えー、ジャニーズみたいに思ってるやん。
京極:多分そうやと思う(笑)。おかんの考え的に「夢を持ってない方が悪」やったんで。
なかむら:素晴らしい人やな。
京極:小学生で「漫画家になりたい」と思ってた時期があったんですけど、そのときも『まんがの達人』(漫画の講座本)取り寄せてくれたし。すっごい夢を応援してくれるタイプやったんで、一切反対は無かったですね。今も、おかんは全部チェックしてくれてます。なかむらのインスタライブまで観てます。
――我が子だけでなく、相方まで応援してくれてるんですね。
京極:おかんは、俺のことを大事にしてくれてる人は全員好きなんです。
なかむら:(コロナの)最初のほうの自粛期間、買い物も控えてみたいな時期に俺にもビールとかどん兵衛送ってくれたよな。
――愛情たっぷりですね。9番街レトロは、京極さんがなかむらさんを誘って組んだそうですね。なぜ、なかむらさんを誘ったんですか?
京極:もともと、すごい面白いやつやと思ってたんです。2~30人いるようなライブの平場でも一番目立とうと頑張ってたんで。
なかむら:頑張るやろ、そら(笑)。
京極:そういうところが良くて(笑)。あと、前の相方に無い部分を持ってたんで。前は、感覚的に「僕が引っ張って売れていかな」って感じだったんです。
なかむら:それ、(京極が)「働いてる」んよな。
京極:そう、ちょっと「働いてる」んすよね。仕事感覚になっちゃうんで(笑)。
なかむら:「働きたくない」が強いからな。働けや(笑)。
京極:そういうのが向いてる人もいるんですけど、僕はちょっと……雑な言い方したら退屈というか。僕の脳みその限界値=コンビの限界値になっちゃうのが嫌で、変なことをしてくれた方が楽しいのでこっち(なかむら)に魅力を感じました。
――なかむらさんは、引っ張ってくれるタイプということですか?
なかむら:いえ、全然引っ張るタイプではないです。
京極:提案をいっぱいしてくれます。
――二人の才能が掛け合わさることで、限界値を超えられそうというか……。
京極:え~、才能が掛け合わさって……そうですね。
なかむら:なーんで繰り返すねん(笑)。そうですね。
――京極さんは前のコンビで上京していたので、声をかけたタイミングではなかむらさんは大阪にいたんですよね。上京することに迷いは無かったんですか?
なかむら:楽しみより、不安のほうがでかかったですけど……楽しみやったんでしょうね。当時芸歴3年くらいで、まったく売れてなかったんで“リセット”の気持ちがありました。東京行くって、むっちゃ怖いですよ。コミュニティが出来上がってるところに、大阪の売れてない3年目が入っていくんですから。でも「そろそろかまさなヤバいな」みたいな感じがあって、上京しましたね。
――東京に来て良かったと思えるようになったのは、いつ頃ですか?
なかむら:来て半年くらいですかね。やっと先輩らと関わるライブに出れるようになってきたんですよ。で、すっごい人数の芸人の前で一人ずつ自己紹介とアピールする機会があって。知らん芸人ばっかで怖かったんですけど、むちゃくちゃボケに行ったらめっちゃ笑ってくれて……「えぐいやつ来たな」みたいに言われたとき、ラッキーって思った。
京極:うははははは(笑)。
なかむら:大阪じゃえぐいやつやなかったのに、えぐいやつと思われた。ラッキー! みたいな(笑)。
――つまり、芸人さんにウケたタイミング?
なかむら:そうですね、芸人に面白いと思われたときっすかね。大阪でうまくいってなかったってことを誰も知らなくて、先入観無く単純に面白いやつとして見てくれたんで、すごいラッキーやった(笑)。