FXの大相場の数々を目撃してきたマネックス証券、マネックス・ユニバーシティ FX学長の吉田恒氏がお届けする「そうだったのか! FX大相場の真実」。為替相場分析の専門家がFXの歴史を分かりやすく謎解きます。今回は「欧州債務危機とマリオ・ドラギ氏」について解説します。

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イタリア出身のマリオ・ドラギ氏が、「欧州通貨マフィアのエース」、ジャン=クロード・トリシェ氏の後任として、第3代ECB総裁に就任したのは、2011年11月のことでした。しかし、それは決して皆が諸手を挙げて歓迎するといった状況ではありませんでした。その理由はとても簡単で、当時ECBが直面した最大の課題、欧州債務危機における主役となっていたのがイタリアだったからです。

  • 【図表】欧州債務危機の主な経緯(2009~2012年)(出所:各種資料よりマネックス証券が作成)

    【図表】欧州債務危機の主な経緯(2009~2012年)(出所:各種資料よりマネックス証券が作成)

欧州危機の主役はイタリアという最悪なスタート

欧州債務危機は、これまでも述べたように、2009年のギリシャ危機が始まりでした。ところが2011年11月頃になると、それはギリシャ以外にも波及し、とくに欧州の大国の一つといえるイタリアが注目されるようになっていたのです。 この2011年11月に、イタリアの10年債利回りはついに7%を突破しました。考えてみてください。日本の10年国債利回りが7%あったら、うれしいですか?

「そりゃうれしいわな、国債なんて金利がないものだと思うようになっていたから」なんて声もあがるかもしれません。

ただ債券の場合、基本的には利回りの逆数が価格です。つまり、利回り(金利)の上昇は価格の下落という意味になります。上述のように、イタリア国債の利回りが急騰していたのは、国債価格が暴落していたという意味になります。

イタリアといえば欧州でも大国です。ギリシャも、まさに「ギリシャ文明」という言葉もあるくらい有名な国です。ちなみに全く話が横道にそれてしまいますが、私の大学時代の専攻は「史学科古代ローマ」なので、ギリシャもイタリアも、私(わたくし)的には「ど真ん中」の名前です((歴史を勉強した人間の為替・経済の話で大丈夫かと思わないでください。歴史を専攻し、文学部だったから、こんなに分かりやすく、面白く説明してくれているんだと思ってもらえたら幸いです!!)。

ただ現代においては、ギリシャは欧州の(相対的な)小国、それに対してイタリアはまだまだ大国の一つ。たとえば、最近はやや目立たなくなりましたが、G7(あるいは先進7カ国)のスターティング・メンバーは日本、米国、カナダ、ドイツ、フランス、英国、そしてイタリアです。

そして世界的なスポーツ、サッカーなら世界の「超大国」でしょう。ギリシャはともかく(ごめんなさい)、イタリアのような欧州の大国の一つである国の国債利回りが7%以上で継続的に推移するなら、それは財政破綻を示すことになるというのが、当時の専門家の見方でした。財政破綻、つまり国が借金の返済ができなくなるという、デフォルト(債務不履行)になってしまうということです。

ギリシャから始まった欧州債務危機は、ついに欧州の大国の一つであるイタリアの財政破綻、デフォルトをもたらすことになってしまうのか。まさに、そういった中で、イタリアの命運に影響力の大きい、「インフルエンサー」のECB第3代総裁にイタリア出身者が就任することは「母国イタリアを救済するために、過剰な便宜を払うのではないか」と思われたことも分からなくはありません。

極論するなら、欧州債務危機の主役がイタリア危機となる中で、ある意味ではそんなイタリアに便宜をはかりかねないイタリア出身の通貨マフィア、マリオ・ドラギ氏以外なら誰でもいい、逆に言えばドラギ氏だけはダメといった客観逆風の中「ECB・ドラギ丸」は船出し、結果的に欧州債務危機解決に関わることとなったのです。

吉田恒(よしだひさし)

チーフ・FXコンサルタント兼マネックス・ユニバーシティ FX学長
大手の投資情報ベンダーの編集長、社長などを歴任するとともに、著名な国際金融アナリストとしても活躍。2000年ITバブル崩壊、2002年の円急落、2007年円安バブル崩壊、2016年トランプ・ラリーなどマーケットの大相場予測をことごとく的中させ、話題となる。

機関投資家に対するアナリストレポートを通じた情報発信はもとより、近年は一般投資家および金融機関行員向けに、金融リテラシーの向上を図るべく、「解りやすく役に立つ」事をコンセプトに精力的に講演、教育活動を行なう。2011年からマネースクエアが主催する投資教育プロジェクト「マネースクエア アカデミア」の学長を務める。2019年11月より現職。書籍執筆、テレビ出演、講演等の実績も多数。マネックス証券