FXの大相場の数々を目撃してきたマネックス証券、マネックス・ユニバーシティ FX学長の吉田恒氏がお届けする「そうだったのか! FX大相場の真実」。為替相場分析の専門家がFXの歴史を分かりやすく謎解きます。今回は「アベノミクス円安」について紹介します。
さて前回私は、2年半で約50円もの歴史的円安大相場となった「アベノミクス円安」は、そのスタートが、「トランプ・ラリー」と同じ米大統領選挙年のアノマリーがバッチリ、はまった結果だったということを紹介しました。
4年に一度の米大統領選挙年の米ドル/円は、選挙までは方向感のない小動きが続きやすいが、選挙前後からとたんに一方向へ大きく動き出し、年初来の高安値のどちらかを更新する-―。そういったアノマリーは、少なくとも1996年の米大統領選挙以降はおおむねその通りになってきました。
アノマリーとは、論理的に説明できない事象が繰り返されるパターンと説明するのが基本ですが、これだけ似たプライス・パターンが繰り返されてきたにもかかわらず、それに全く理屈がないということも考えにくいところでしょう。だから、私なりに米大統領選挙年のアノマリーについては、以下のように納得するようにしています。
米大統領といえば、「世界のリーダー」。そんな重要人物が決まる前は、基本的に政策も大きな変更はできず、手掛かりが乏しいため相場も方向性が出にくい。そんな小動きが長く続くと、エネルギーが蓄積され、選挙の結果を受けて新たな政策の見通しが出てくると、それを手掛かりに溜まったエネルギーが発散されて一方向へ大きく動きやすくなる-―。
アノマリーとは、「論理的に説明できない」ものとはいえ、ある程度自分で納得できる理屈がないと参考にはしにくいですよね。
さて、「アベノミクス円安」が始まった2012年、そして「トランプ・ラリー」が起こった2016年に続いて、今年2020年も米大統領選挙年です。米ドル/円の米大統領選挙年アノマリーが今回も繰り返されるかはとても気になるところです。
金利差より株価と連動した米ドル/円
ところで、米大統領選挙年アノマリーにうまく乗じたということもあったのか、「アベノミクス円安」は颯爽たるスタートダッシュとなりました。そして、2013年に入ると、いわゆる政策相場の様相を色濃くし、一段と株高・円安が加速に向かいました。この政策相場という点が、前回のシリーズ「トランプ・ラリー」との大きな違いであり、「アベノミクス円安」の最大の特徴といえるものでしょう。
つまり、「アベノミクス円安」は、ある程度円安や株高への誘導を意識し、経済政策を発動したものであり、これに対して「トランプ・ラリー」では、少なくとも米ドル高への誘導を目指したわけでは全くなかったでしょうが、結果的に当時の「暴落恐怖症」の反動などから記録的な米ドル急騰が起こったのです。
そのせいか、この当時の米ドル/円は株価とほぼ連動して推移しました(図表1参照)。これは、同じ米ドル/円に日米金利差のグラフを重ねたものと比較するとより分かりやすいでしょう(図表2参照)。
じつは日米金利差米ドル優位の拡大は、2014年初めで一巡したので、その後2015年にかけて120円を超えて一段と米ドル高・円安が広がった動きは、金利差とかい離したものだったのです(図表2参照)。金利差からかい離し、105円を大きく上回り、さらに120円を超えるまで米ドル/円が上昇したことをある程度説明できた動きというのは、図表1の日経平均が1万6,000円を大きく超えて、さらに2万円の大台すらも超えるまで一段高となった動きだったのです。